リーズ・ナブルは此れにて御免 ~ 元軍人付与士は冒険者として成り上がる~

アゲインスト

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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの人理《ひとり》立ち~

リーズ・ナブルの選び方

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 俺が生きてきたなかで、この二十二年、変わらなかったことはない。
 親は、いるから居ないに。
 立場はそれはもう、転々と。
 持っていなかったものを持ち、仲間と言えるやつらもできた。
 そして君という友を得た。
 ここまで変わった、俺の今まで。
 
 今こうして横にいる君こそが、一番に変わっていっている。
 
 その誇らしさすら感じる変化の速度、もうすでに過去と成り果てた君の弱さがここまで遠い。
 だから、だから。
 強く気高く道行く君に、俺が示せる最後のことを。
 君に差し出そう、捧げよう。
 
 じゃあ、やりますか。
 
 
 
 
 
 
「---お待ちいただきたい」
 
 王子が放った決闘宣言。
 指名された二人が応じる前に、遮る者の声があり。
 その声の主に王子が目を向ければ、この場で最も深く身を伏せている男が一人。
 
 まあ、俺だ。
 
「き、貴様! 口を挟むなど何を考えている!?」
「・・・何者だ、君は」
「リーズ・ナブルと申します。この決闘、待ったを掛けさせていただきたい」
 
 ダールトンの言葉などには耳も貸さず、俺は王子へと返答を重ねた。王子もまた、俺との会話を優先したことにより、背後から奴の歯軋りをする音が聞こえてくる。
 
 しかし、まあ。
 なんと言うことだろうか。
 俺の人生、ここまで来たか。
 目標に向かって一歩進もうってところで、その一寸先でこうなるか。
 ああいいだろう。
 君がそう望むなら、その期待に応えよう。
 この俺が友に対して、最も妥当であることをしようじゃないか。
 
「この僕の命に、不服か」
「不服も何も、これはどう見ても不要なことでございます」
「不要?」
「ええ。そもそも殿下は何か勘違いされている」
 
 身を伏せたまま、俺は言葉を重ねていく。
 それはこの状況において、正さねばならないこと。それがそのままこの流れを変えることになる。
 
「勘違いだと」
「ええ、殿下はリティア嬢のことを騎士として恥ずべき行為をしたといいましたが、でしたらもう一人おります。その者は私を侮辱し、あまつさえこの国を救った勇敢な者たちを軽視する発言をしております。その者たちを称えるこの式典でです」
 
 事実。
 ただ、偽りなく事実を重ねる。
 それこそ欺瞞なく、俺の言葉に嘘偽りは全くないと、深く沈めた体でもってそれを証明する。
 
「・・・誰だというのだ?」
「ダールトン=スペルチナ殿でございます。彼は楽しく会食をしていた私たちの会話を断ち切り、耳を疑うような汚ならしい言葉を投げ掛けてきました。それに言い返せば罵ってくる始末、到底騎士、いや貴族の風上に置けるような方とはとてもとても・・・・・・」
「事実か、ダールトンよ」
 
 俺の話を聞いた殿下は、こちらに向けていた厳しい目線をそのままダールトンへと向ける。それに込められた感情のほどが伝わったのか、先程まで意気揚々としていた気配が萎えていくのを感じる。
 
「そ、そのようなことは決してございません!!」
「ほう? では彼が言っていることは嘘であると」
「そっ・・・それは・・・・・・」
 
 否とは言えまい。
 この場がどういうところかを忘れ、浅い考えと思惑で他者を悪し様に罵ったこと。それをこの場の全員が見ている、聞いている。
 言い逃れはできないぞ、ダールトン君。
 
「事実、ということか」
「で、殿下・・・・・・!」

 すがり付くようなダールトンの表情、瞳はこの状況をどう挽回すればいいかで揺れている。
 思考は空回りをしていることだろう。
 いいぞ、あんたが小物で本当に良かった。
 この場を納めるのに、あんたの存在はとても丁度いい。
 
「ダールトンよ。僕は君が言葉にしたことに一理あると言ったのは、それに正当性があるからこそだ。騎士というものに高潔さ、正しさを求めるからこその、リティア嬢への詰問であった。しかしそれを言い出した君がまず最初にこの場を汚していたと?」
「そっ・・・それは・・・・・・」
「あえて無視していた女性騎士というものに対する不当な発言。これもまた、君の不純からのものなのだろう」
「そのような! ・・・・・・そのようなことでは決して!!!」
 
 場の流れが変わってきている。
 最初、リティアに不利に傾いていたものが、今度はダールトンに不利な展開へと変わっていっている。
 王子が奴の言葉に乗ったのは、そこに彼が思う正しさがあったから。
 しかし、その正しさは言葉だけのものだった。
 虚飾。
 飾りつけた言葉では、自分の行いを正当化できない。
 
「・・・ジョナサン」
「わかっているさ、プリシア」
 
 婚約者が自分を呼ぶ声に、若干険のとれた表情で応える王子。
 このままの流れでダールトンが、となると誰もが思っているだろうが、俺にはこの後の展開が透けて見える。
 二人の様子に安心したような空気が周りに広がっていく。
 だが。
 
「お、恐れながら申し上げますっ!!」
 
 終わりの見えたこの流れ、それを望まぬ者など語るまでもなく。
 
 ダールトンは、不敬と知りつつも立ち上がる他なかった。
 
 そうしなければ、自分の破滅は目に見えている。王族の不況を買ったのだ、彼だけですめばいい話だが、家のほうにまで責が及べばどんなことになるのやら。
 最悪の結果が、彼の脳内を駆け巡っているはずだ。
 
「・・・悪足掻きか、見苦しいぞダールトン」
「いいえ! 言わせていただかなければなりません! 私が侮辱をしたというのなら、その者とて私を侮辱しております! 貴族である私に向かって、高々冒険者の平民がです!」
 
 必死な形相で指を差し、俺を訴えるかのようにして声高に叫ぶダールトン。王子の視線が再び俺に向けられる。
 俺は王子が事の次第を聞いてくる前に、自分から話を切り出す。
 
「事実でございます」
「ほら! この通りです! 結局こやつも口ばかりの」
「ですから」
 
 なあ、ダールトン。
 お前は本当に忘れっぽい奴だな。
 王子はなんと言っただろうか。
 言い争いをしていたお前とリティア、二人に命じたことがあっただろう?
 まさか、それがどういうことか、分かっていないわけじゃないよな。
 
「な、なんだお前は!?」
「殿下、先程あなた様が仰られたこと、私めにも適用されるでしょうか?」
「何?」
 
 叫ぶダールトンをよそに、俺は疑問符をあげた王子に対し、今まで伏せていた顔を起こして視線を向ける。
 最敬礼を維持したまま、ぎりぎりで不敬とならないように。
 俺の目を見た彼は、そこに浮かんでいたであろう思惑を読み取ったように、スッと瞳に好奇に感情を宿すのだ。
 
「まさか・・・」
「ええ、その通りでございます」
 
 流れを掴んだ手応えに、さっと言葉を乗せ放つ。
 それはこの場を締めるに相応しく、何より分かりやすい手段。
 
 
 
 
「---決闘をいたしましょう。
 私と彼、ダールトン=スペルチナ殿との、威信を賭けた決闘でございます。
 この場を納めるに、これ以上ないほどの名案かと」
 
 さあ、やろうぜ。
 どっちが正しいか、力で決めよう。
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