リーズ・ナブルは此れにて御免 ~ 元軍人付与士は冒険者として成り上がる~

アゲインスト

文字の大きさ
40 / 109
ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの人理《ひとり》立ち~

リーズ・ナブルは存分に

しおりを挟む
 俺がリーズという名前を共に、この世に生を受けてから、実に二十二年という歳月がたった。
 その間に変わったものは数知れず、いろいろなことを経験してきた。
 その中で、特に変わってきたものをあえて挙げるならば、やはり、
 
 
「・・・・・・これ、だよなぁ」
 
 
 両の拳と両の足。
 それを振るって外敵に対処する。
 それは、俺が貧民街で生き抜いていくことを決めたその日から、ずっと使い続けてきた武器だ。
 
 しかし、最近はそれを使う機会がとんとなかった。
 
「おらぁあああ!」
「はい、いらっしゃい」
 
 あの胡散臭い男に軍に引き入れられ、俺は軍人としての技能を身に付けなければならなくなった。
 一応それなりに剣や弩を使えはできるようになったが、それを使う機会が来なかった。
 その前にナインハルトのやつから、ちょっと薄暗い仕事に従事させられていたためにそんなものを持って動き回るわけにもいかずに、今度はナイフやら小物の扱いを覚えるはめに。
 
「この野郎!!」
「はい、どうもね」
 
 それが落ち着いたと思ったら、お次は支援部隊に所属させられる。
 そこですることと言えば、戦いとはほぼ関係のないことのオンパレード。塹壕を掘ったり、倒した魔物の剥ぎ取り、死体の処理などまあ雑用雑用の日々であった。
 そんな日々を繰り返す日々、そしたらいつの間にか第二部隊の隊長になって、さらに戦い方が変わってしまう。
 
「くそが!」
「ふざけんな!!」
「まったくもって同意だ、でも寝とけ」
 
 一人でなくなったのだ。
 守らなくてはならなくなった。
 そういう立場なのは百も承知、与えられた役職に不満を漏らしてやり続けるような人格でなかったことが幸いしてか、それなりにできるようにはなったと思う。
 
 だが。
 
「・・・いいね」
 
 実に、いい。
 そうやって、戦うことをしていても、闘うことから離れていた俺には。
 今こうやって、剥き出しの殺意で来てくれる、この機会がありがたかった。
 
 周囲にあった部下という壁、上司の壁、立場の壁、生まれの壁。
 
 それがどんどんと、捲れていっている。
 
「死ねや!」
「ぶった切る!」
「殺す!」
「舐めやがって!」
「ちくしょうが!」
「ぶっ飛ばす!」
「イカれが!」
「囲んで殺れ!」
 
 
 
 
 
「錆を落とすには、もってこいだねこりゃ」
 
 
 もともと、ギルドの依頼がてらにしようと思っていたこと。
 これから一人で旅をするというのに、今まで通りの戦い方で通用するとはとても思えなかった。
 問題なのは、一人でも闘えること。
 最低限目標を達成するまでに生き抜くこと。
 そのためには、支えたり、守ったり、溝浚いをすることをある程度止めなければならない。

『敵を倒す』
 
 そのためには、攻撃力を持たなければならない。
 それを一番に発揮できるものといえば、俺からしてもれば、これだった、という話でしかなく。
 鈍ってないかを確かめるのに、これ以上ないほどの条件がぽろっと出てきてくれたもんだから。
 
「まあでも、それだけじゃあないんだけどさ」
 
 もちろんそれだけが理由でこんなことをしているわけではない。
 そんな個人的なことを理由に、この場に望んだわけではない。
 そんな我欲で、こんな騒ぎを起こせるほど、俺という人間はできてはいないのだ。
 
「・・・・・・・・・・・・何故だ」
「あん?」
 
 思案に浸り、歩みを止めて拳の握りを確認していたらだ。
 そんな台詞がふと、耳に入り込んでくる。
 その『あり得ない』という感情がマシマシな声の主に目を向ければ、あれだけいた人の壁、暴力の行使者たちの姿がすでになく。
 
 
 本陣空っぽ、旗首残して---壊滅状態。
 
 
 それまで血気盛んでいたものたちが、落ち葉のようになって地面に転がっている。ピクリとも動かず、全員が意識を失っている。
 そして残された男は、目の前の光景がもたらす事実に体の至るところを震わして、
 
「---ふざけるな!!!」
 
 ---怒っていた。
 
「ふざけるな! な、なんだこれは!? あ、あれだけ・・・あれだけいたんだぞ!!」
 
 目の前の理不尽な光景に、素直に怒っていた。
 
 ダールトン=スペルチナが、今回このようなことをした経緯を簡単に説明するのなら、その根源、嫉妬心と自尊心によるものだろう。
 
 自分よりも劣るはずのものが、評価され。
 男の自分よりも女であるはずのものが、評価され。
 
 ---我慢がならなくなったのだ。
 
 自分だってと、それを見せつけたいがために始めた挑発は、対象が変わり本来の目的を果たせなくなった。
 代わりの相手になった男、ラインホード家と何らかの繋がりがあること男に勝つことで、あの生意気な女にせめてもの苦しみを与えたかった。
 
 それが---どうだ?
 
「ふざけるな! こ、こんな・・・こんなもの誰が認めるものか!!」
 
 かき集めてきた兵は、全て無力化された。
 それも、攻撃を受けてから拳、蹴撃によって返り討ちにあった。
 しかも、どれもが一撃によるもの、どれもが的確に急所を貫いている。
 それがまだ、ユルゲン・ハワードのような英雄ともいえる者であるのなら納得ができる。
 だがそれをしたのは全く聞いたことがないような、平凡とも言えるような男の所業である。
 
「何なのだ・・・お前はいったい何なんだ!!?」
 
 恐ろしく見えないことが何よりも恐ろしい。
 脅威に見えないということがここまで恐怖に思えるなどと、そんな体験をすることになるなど考えもしなかった。
 進行をやめてただ佇んでいる姿が、ここまで恐ろしい。
 
「くそっ! くそぉおおお!!」
 
 もうなりふり構っていられない。
 使わなくとも勝てると踏んでいたが、そんな余裕はもうない。
 ダールトンはその奥の手に手を伸ばした。
 焦燥に駆られた頭では、目の前の敵をどうにかすることしか考えられず。
 
 事態はまた、別の局面へと移っていくのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...