リーズ・ナブルは此れにて御免 ~ 元軍人付与士は冒険者として成り上がる~

アゲインスト

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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~

しかし壁である

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 マチルダ・ボータン。
 このイナナキの地で最初に会った人物であり、その身に秘める強靭な気配は警戒に値するのをよく分かっているつもりだ。
 実際にその戦いを見たことはないが、そのしなやかな肉体は背丈のこともあってかなりの脅威となることだろう。
 
 しかし貧乳である。
 
 天は二物を与えなかったようで、この女傑に強さと美しさは与えたがそれに相応しい胸はお与えになられなかったようだ。
 この人物のことをよく知っているわけではないが、それでもこの一点が何故だか気になってしまってしょうがない。何故ですか神よ、なぜここまで組み上げたのに諦めてしまわれたのですか! もう少しで至高の美が完成したというのに! どうしてそこで諦めんだそこで!
 
「どうしたリーズ、こないならこちらからいくぞ」
「アッハイ、やりまーす!」
「では…参られよ」
 
 
 何故だ、俺は気のいいあの野郎ベン・ブリッチのおかげで次の街にいくまでの馬車を待つ間、安全のために警備隊の兵舎でお世話になるのではなかったのか。
 それが何故、この腹筋バキバキの女版ユルゲンみたいな奴と立ち会いをすることになってるんだ。まるで意味が分からんぞ!!
 
「先程も言ったが、力量の分からぬ以上できる仕事というのはなかなかなくてな。馬に蹴られて死なれても困る、ここである程度の力を見せてくれればそれが判断の基準となる。是非とも頑張ってほしい」
 
 だからってあんたがすることないじゃん。
 俺のような奴の相手など、もっと別の相手にすればいいではないか。何故にあなたなのだ。
 
「最近は誰も私とやってくれなくてな……いいときに来てくれた。さあ! 存分にやりあおうじゃないか!!」
 
 わーい戦闘狂だー。
 こいつあのガキとそこまで変わらねぇじゃんどうすんだよ。
 
「じれったい……こちらからいくぞっ!」
「正直勘弁して」
「問答無用!!」
 
 マジかよ。
 
 宣言通りにというべきか、一番槍は私だ! とでも表現できそうなほど嬉々とした表情で身の丈以上の長槍を構えて突撃してくる。
 いくら訓練用に作られた怪我防止用の物とはいっても、こんな猛牛のようにこられてはひとたまりもあるまい。
 
 俺はあと数歩の後にくるであろういくつかの攻撃方法を、まっすぐと構えられた槍から想像しつつ、何故こうなってしまったのかをもう一度思い返すことにした。
 何?
 現実逃避だって?
 俺ちゃん何か疲れちゃってさ、こうでもしなければ辛い現実と戦えないの。
 まったく、
 
「こいつはヘビーだぜ」
 
 そもそもどうしてこうなったのか、それはあの野郎ベン・ブリッチの余計な一言によってである。
 それがなければこのようなことにはならなっかったというのに、なんということをしてくれたのやら。
 あの野郎、わざわざケインのクソガキとの戦いでそれなりに戦えるなどとこぼしよったのだ。
 それでまあ、好戦的な笑顔になった彼女はベンとの話を聞くなり、ある条件を出してきた。
 
 で、戦うわけになったわけである。
 
 
 
 
 
 
 
「なんでやねん」
 
 いや、おかしい。
 やっぱりこいつと戦うことになった経緯が理解できない。
 いくら力量を知りたいからといってこんなことをされる謂れはないのではなかろうか。
 
「ッ…シェイハァアア!!」
「あぶなっ!?」
 
 そんなことを考えていたら、まあ先手は相手に取られてしまうわけで。
 だがいくつか想定していた内、幸いにも最速手である突きがきてくれた。いくら早かろうと、その始動は分かりやすく真っ直ぐだ。
 
 鼻先三寸、するりと避ける。
 
 これがまた十文字槍などであれば避け方も変わるのだが、こういった単純な作りのものならばやりようもある。
 
「っシャァア!!」
「フンっ!」
 
 槍を引き戻そうとする動きに合わせて前へと踏み込む。槍の短所である懐に飛び込もうとするが、小さく体を畳んだショルダータックルで迎撃され避ける他なく。
 避けた先を槍の横振りで追撃され、腕甲を仕込んだ腕で受け流す。
 
「っ……く…!!」
「ほう…」
 
 片腕で受けきれないと悟った瞬間にもう一方の腕で支えたが、それでもとんでもない衝撃が加わる。
 体を回転させることによってその場での受け流しを行い、すかさず後ろ回し蹴りを放つが軽くあしらわれてしまった。
 
「守戦には自信があるようだな……もう少し見せてみろ!」
 
 回避のためにとられた距離を利用され、再び槍の間合いに。
 今度は短く、連続で襲いかかってくる。
 
「……ふっ……ほっ…よっ!」
 
 怒濤。
 怒濤の突きである。
 目まぐるしく襲いかかる穂先、しかし。
 
「一本だけならそこまでじゃねぇな!」
 
 別に増えているわけでも、見えないほどでもない。
 腕で捌き、足で避け、本来は恐ろしいほどの攻撃を凌いでいく。
 実際、戦意はあっても殺意はない。
 殺す気でない限り、どこかで動きに鈍さというものを感じてしまうのは、そういう類いの魔物ばかり相手にしてきたからだろうか。
 武器とてそう。相手を安心して攻撃できるというのはいいことだが、殺意が鈍ればその分動きが変わる。
 
 獣の鋭さを知るからこそ、それを模する人間のちぐはぐさが浮き彫りになる。
 
 それゆえか、丁度脇腹あたりを通過したままにして前に出ることに成功。相手の腕は伸びきってはいないものの、戻すまでにこちらの拳が届く。
 
 とった、と思った瞬間。
 
「甘いぞ!」
「うへぇあ!?」
 
 なんとこの女、あろうことか槍を自ら手放して徒手空拳へと切り替えたのだ。大鉈のようなハイキックが頭部を襲撃し、攻撃のために構えた腕を防御に回すがそれごと打ち抜かれる。
 あまりの衝撃に地面へと叩きつけられ、背中を強打して一瞬息が止まった。
 その隙を見逃すことはなく、馬乗りになって拳を顔面へと突きつけられた。
 
 誘われたのだと理解したときには勝敗は決していた。
 
「……お手上げだ」
「よろしい。なかなかおもしろかったぞ」
 
 ぞっとするような笑顔で言われても困ります。
 ああ、だがしかしなんということだ。こんなに素晴らしい体勢だというのに腹部から伝わる感触は固く、筋肉万歳というしかない。
 何より間近で見上げているのも関わらず、聳える頂を拝むことができない。
 
「……ちくしょう」
「そういうな、お前はよくやったほうだ」
 
 いや、そうじゃないです。
 絶壁なのが残念だっただけです。
 そんなことをいうわけにはいかず、立ち上がるように促されままその手を取るのだった。
 勝負にも負け、そもそも望めるものもなく。
 いろいろと心を疲弊させられる一時であった。ああ、とにもかくにも壁のような女ですこと。
 
「……どっと疲れた」
「何か言ったか?」
「いいえ、何にもー」
 
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