リーズ・ナブルは此れにて御免 ~ 元軍人付与士は冒険者として成り上がる~

アゲインスト

文字の大きさ
71 / 109
ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~

蝕むものの正体

しおりを挟む
 魔力汚染。
 主に攻撃魔法などによる負傷で起こる、本来自分が持つ魔力とは違う魔力が体に残留してしまう現象だ。
 これが起こる原因として、攻撃を受けた側の耐性が関わってくる。
 前提として、本来攻撃魔法にはそんな副次効果はない。あくまで攻撃魔法は純粋な破壊を目的としたものである。
 俺たち人間に関わらず、生物には他者の魔力を拒絶する機能がある。攻撃魔法に対しても、この機能を意図的に高めることによって身を守るということができたりするのだ。
 
 しかし、この耐性を越えるような高い魔力による攻撃に対しては抵抗しきれず、体に損傷を負ってしまうことになる。
 そして、魔力というものの性質の一つとして魔法としての構成が崩れた指向性のないものは、固体や液体に浸透しやすいというものだある。
 これは抵抗の意思のない状態であるならば人体であっても例外ではない。
 体の抵抗を突き抜けた攻撃魔法は、その役目である破壊を行い霧散していく。本来ならこの時点で攻撃を受けた対象は死亡またはあの世に片足を突っ込んでいる状態である。この状態になってしまうと魔物と体組織が違う俺たち人間は体に魔力を留めておくことができなくなり、結果として何の魔力も持たない死体が出来上がるのだ。
 
 しかし生き残った場合、霧散してしまった魔力は拠り所を求めて近くにある比較的保有量の多い人体へと集まってくるのだ。このときに意識のない状態だとこれらに対する抵抗はほとんどなくなってしまうため、傷口などから簡単に侵入していまう。
 この体外から侵入してきた魔力が自分の魔力と反発することで体に悪影響を及ぼす。
 これが本来の魔力汚染であり、少数ながらも治療に成功している例が存在しているので全く未知の症状というわけではないのだ。
 
 しかしこれは、あくまで通常の例であればだ。
 仮にも神獣などと呼ばれる存在だ、そんな奴の魔力が普通なわけがない。
 キリンの野郎、厄介なんてもんじゃねぇぞこれ。
 
 
 
 
 
 
 
 魔力汚染について知識のなかったマチルダのために、俺が知り得る情報を話しながらも診察を続けていた。
 正直言って俺も本物を見たのは初めてだ。王都での勉強の中に珍しい症例を纏めた本を読んでいなければ気付かなかっただろう。
 しかし、この体に根付いている魔力の様子を見る限りそうとしか診断できない。
 
「トトンさん。一応あんたにも確認してもらいたいんだが」
「ううむ……リーズさん、本当に魔力汚染なんでしょうか? 自分たちもその可能性を考えなかったわけではありません。しかしどんな治療を施しても改善はしなかったのです。ですから自分たちは違う症状だと仮定して診察を続けてきたのですよ」

 トトンがそういうのも無理はないか。
 医師である自分が違うと診断したものに、素人が実はこうだったなんて納得できるものじゃないだろう。
 だが俺とて何も確信がないままに魔力汚染と口にしたわけではない。
 
「あんたが真剣にこの人たちのことを診てきたのは分かるさ。でも俺だって無責任にこんなこと言ってるわけじゃない。今からその根拠を見せるが、ちょっと危ないかもしれんから離れといてくれ」
「ちょ、ちょっとあなた何をするつもりですか!?」
「マチルダ、頼んだ」
「任せろ。トトンさん、こっちに」
「や、やめなさい! 私の患者に何をする!!」
 
 暴れるトトンをマチルダに拘束してもらい、俺はドイル氏の胸元に手を置いて自分の魔力を送り出した。
 その瞬間にだ。
 
「っと!」
 
 置いていた手のところからバチッ!! と音を立てて衝撃が発生した。鋭い痛みを感じてパッと手を離す。
 
「やっぱりな」
「い、今のは……」
 
 俺の手を襲った衝撃。
 体内でぬくぬくと過ごしていたキリンの魔力が、自分を排除しようとする明確な意図をもった俺の干渉によって反抗してきたのだ。
 それはさながら寄生虫のようであり、この魔力汚染がただでは済まないことの証明であった。
 こんなことは初めてなのか、トトンは今起こったことを理解しようとして頭を巡らしている。
 
「本来魔力汚染といっても難解な症状というわけではない。本人に抵抗の意思があり正しい治療を行えば治る可能性は十分にあるもんなんだがな。だがこの夫婦の場合は違う」
 
 体の末端だけのベンとは違い、自分たちの息子を守ったことによって全身にその強力な魔力を浴びている。
 張り巡らされた火傷のような痕は全てその魔力によるものだろう。

「なんてったってキリン様だ。災害級の存在の魔力なんぞ俺ら人間がどうこうできるもんじゃねぇ」
 
 絶望的だな、こりゃ。
 
「トトンさんよ。あんたのところに魔力の扱いに長けた人材ってのはどんだけいるんだ? 体内の魔力を排除できるような繊細な使い手だ」
「……あなたのような現象を起こせた者は自分を含めてこの治療院には存在しません。また、そんな技能は自分たちには不可能です」
 
 俺の質問に対してトトンが述べた結論は、端的に言えばノーである。
 重い沈黙が俺たち三人を包む。
 それは、この二人を治す術がないことを示していた。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...