リーズ・ナブルは此れにて御免 ~ 元軍人付与士は冒険者として成り上がる~

アゲインスト

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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~

リーズ・ナブルは戸惑わず

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 難病というレベルを越えてしまっている。
 そう判断した俺の考えは、専門的な知識を持たないマチルダであっても理解できるほどだろう。
 なんせ、目の前にいるトトンの悲痛な顔を見ればこの判断が間違いではないことは嫌でも分かるからだ。
 いや、しかし。
 
「……困ったな」
「いや、困ったとか言ってる場合じゃないだろ」
 
 いやいや、これはそういう場合なんだぜ?
 俺はな、この人たちに対して文句を言いに来たんだぜ。
 確かにこの状況はどうにもならない。強すぎる魔力によって干渉すらできず、できたとしてもあの電流による拒否反応がある。
 あれがドイル氏の体内で起ころうものならただでさえ弱っている内蔵などを傷付けてしまうだろう。そうなっては彼らを救うなど夢のまた夢というやつだ。
 
「正直呪い的なものだと思ってたんだがなぁ……それなら治療なんてできやしないし。何か違和感感じてたけどまさか魔力汚染だとは、いや本当に困った」
「いやだから、困った困ったと何が言いたいのだ? もう……もうどうにもならないということのなのだろう? これ以上なにがあるというのだ……!」
 
 自分ではどうにもできない無力感につい口調が荒くなるマチルダ。まあ俺も同じことを繰り返し言うばかりで何がなんだか分からないだろうが、そうカリカリしないでほしいもんだ。
 俺は懐からあるものを取り出し、ドイル氏の胸に押し付けるようにしてから体に蔓延るキリンの魔力に向かってもう一度働き掛けた。
 途端に抵抗をし出す魔力の流れを何とか読み取り、自分の掌の中にある物に向けて集中させる。
 暴れる魔力を少しずつ、少しずつ。まるで激流によって飛沫をあげる川から、その小さな滴を掠めとるようにして。
 そうして掬い上げたのはこの人の中にあるキリンの魔力、粉一粒のような規模のものがこの掌の中に収まった。
 
「……ダメだな、やっぱりこの方法は妥当とは言えんな」
 
 無理なものは無理とそう言われているようだ、正直ヘコむね。これでも魔力の扱いにはそれなりに精通しているつもりだったんだが、こうも条件が悪いとさすがにこれだけしか取り出すことができなかった。
 
「……リーズさん、いったい何を?」
「勝手にやって悪かった。本当に何も手段がないか試してみたかったんだ。でもやっぱりダメだこりゃ、太刀打ちできねぇや」
 
 トトンにとっては何がどうなったのか分からないことだろう。あれだけ無理だなんだと言っていたくせに何をやっているんだと言いたい気持ちは分かる。
 だけどな、これだけはどうにかして確かめておきたかった。
 
「邪魔したな。行こうマチルダ、今日はもう用はねぇ」
「ちょっと待て、おい待てと言ってるだろうが!! せめて何か説明をだな!!」

 存分に場を乱した自覚はあるので追求される前にとっととここからおさらばさせてもらう。
 後ろから俺を追ってくるマチルダに追い付かれないように早足で治療院から退散し、たった今手にいれたばかりのブツを検分しながらある場所へと足を進めていた。
 
 後ろから制止を促すマチルダの声を聞き流し、俺が訪れたのは朝に面倒なことをさせられたシャハトの爺さんがいる工房だった。
 
 また何か気に入らないことがあったのか中からは怒鳴り声が聞こえてきているが、俺はそんなことを気にするようなお人好しではない。爺さんに貸しがある以上、俺のやることにどうこう言わせはしないし、これから頼もうとしていることは爺さんにも得があることなのだ。あの爺さんの様子なら、一二もなく乗ってくれるだろうと、手の中にあるそれを握り締め工房の中へと足を踏み入れた。
 
 
 
 
 
 
 
 中の様子は朝とは変わっており、床に散らばっていた武器の類いは全て元の位置へと返され、壁一面に物騒な物が飾られていた。
 店番をしている奴はあのときにいた弟子の一人で、こちらに気付いたのはいいが何故かひきつったような顔をしてくるのはどういうことなんだろうか。どうみたって態度が悪い。いいの? 俺はそういうの君の上司に報告することに躊躇がないタイプだよ?
 
「い、いらっしゃいませ……」
「おう、爺さん呼んでこいや」
「いやあの、ちょっと今立て込んでまして……」
 
 はあ?
 何? あの後また何かやらかしてたわけ? どんだけなん君ら。
 この鳴り止まない怒声にどんな理由があるのか知らんけど、それって俺に関係ないんだわ。
 
「わかった、じゃあ勝手に邪魔させてもらうわ」
「いやいやちょっと待ってくださいって! 今の状況わかるでしょ!? 師匠がいない間のあれやこれやがバレちゃって修羅場なんですから余計なことしないでくださいよ!!」
「うるせぇ!!」
「あいたぁああ!!」
 
 こんなところで時間を食っている暇はないのだ、お前のような奴に俺の行動を止める権利とかそういうのはないから。むしろ一回お前らのこと救ったような気がするんだがそこんとこどうなん?
 そんな内心とか特に関係なく、邪魔してこようとしてくるので額に指突を食らわし、仰け反っている間にさっさと店の奥に行かせてもらう。お前にはこれから来るであろうマチルダの足止めになってもらおう。せいぜい痛みにのたうち回っているがいいわ。
 
 そんな彼を尻目に俺はどんどんと奥へ進んでいき、ベンが使うはずだった魔剣を見せてくれたところに出た。
 そこには仁王立ちでオーがのような表情のシャハトがおり、床には顔面をボコボコにされた奴とそれを守るようにして土下座をしている弟子の二人がいた。
 
「おう爺さん、邪魔するぜ」
「……なんじゃ、何か用か小僧」
「いやね、ちょっとしたものを手に入れたものでね。あんたに貸しがあったろ? 頼みを聞いてほしいのさ」
「今はこいつらの処分で忙しい。またにしとくれ」
「まあまあ、そんな面白くもないことより俺の話を聞いたほうがいくらかマシだぜ?」
「……言うだけいってみい」
 
 表情は変わらんがいくらか興味を持ってもらえたみたいだ。床の弟子に向かっていた視線がこちらへと移る。
 俺は出し惜しみをすることなく、手の中にあるブツを彼に見せつける。
 
「なんじゃそれは……いや待て、もしかしてそれは」
「この程度しか持ってこれなかったが、これから頼もうとしていることにならこのくらいでも何とかしてくれるだろ」
 
 なあ、爺さん。
 そう語りかける俺の言葉に応えることなく、シャハトの視線は俺が持ってきた物に釘付けになっている。
 それもそうだろう、鍛冶師としてはこれに注目しないわけにはいくまいて。
 
 

「―――キリンの魔力を込めた魔鉄だ、魔剣の核にするのに加工をしてほしい。やってくれるよなぁ……爺さん」
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