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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~
トトン、治療法の説明をする ドイル、待ち人来る
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魔鋼。
そう、魔鋼である。
希少ではあるものの、けしてその存在は誰の手にも入らないというものではない。
それこそ、この街の鍛冶師であるシャハトならば生産することもできるほどだ。
それが何故、長年ドイルたちを苦しめた「魔力汚染」というものを治療することができたのか。
その治療法が、今ベンに対して施されようとしていた。
「この魔鋼というのが魔剣の素材とされることを知っておられますね? 魔剣が魔剣と言われる由縁は剣がその製作過程で魔力の貯蔵量を増やすことにあります。また、その積層構造は魔力の循環を産み、剣に刻まれた魔法を高効率で行使することを可能とするのもまた周知の事実ですね」
「そりゃ……まあ、それなりに知っちゃいますが」
トトンが語りだしたのは、魔鋼が持ついくつかの特性である。
ベンもその特徴は以前シャハトのところで聞いた覚えがあるものだが、武器としての特徴がどう関係するというのだろうか。
ベンはその理由を考えようとしたものの、トトンはそれに構わず話を続けるようで取り出した魔鋼を持ってベンへと近寄る。
「少し失礼しますね」
「お、おい先生。 何するってんだよ?」
トトンは疑問の声を上げるベンの足元に向かい、右足のズボンをずりあげて素足をさらけ出した。
右足にはかつてのドイルたちと同じような傷跡が刻まれている。
「ちょっとあんた!?」
「実際にお見せするのが簡単でしょう? いや、これは是非見るべきです」
相変わらず淡々とした喋り方ではあるが、そこはかとなく興奮しているのが伝わってくる。
トトンはベンが動けないのをいいことに、彼へ「魔力汚染」の治療を開始する。
「本当に彼は画期的でした。まだ自分では繊細なところはできないのですが、ベンさんのような局部の処置ならば完璧にできますので任せてください」
「いやいや! 何するってんだよ一体!?」
「ですからお見せすると言ったでしょう。あなたは意識を足に集中させておいてください。ドイルさんと違って意識のしっかりしているあなたならなんら不安はありません」
混乱するベンに対するフォローなどまったく気にすることなく、治療のための準備を進めるトトン。この男、元気な患者には容赦がないタイプのようであった。
戦いの疲労で抵抗らしい抵抗などできないベン。そのままトトンの治療を受けることとなる。
「原理としては単純なものです。
・意識的な魔力の排除
・魔力の反射反応の抑制
・排出先への誘導
この三つの要素を利用した治療法となります。
分かりやすく言いますと、人体に備わる防衛本能を意識して作用させ、汚染している魔力を体外へと排出させます。このときに起こる体への影響を魔鋼の循環機能に巻き込む形で誘導し、その貯蔵能力によって完全に汚染魔力を隔離します」
説明をしつつも既に治療を始めていくトトン。
魔鋼をベンの足に押し付けるようにしたかと思えば、手慣れた様子で詠唱を始めるトトン。
それに反応するようにして、押し付けられたところから魔力特有の光が溢れそうになるが、その光を魔鋼が吸収していく。
それに比例するように、どんどんと右足にあった傷跡が消えていく。
―――そして一分もしない内に光が収まり、トトンが手をどけて変化を見せる。そこにはあんなに大きな傷などあったとは思えないような綺麗な肌へと戻ったベンの右足があった。
「…………」
あまりに簡単なその変貌に、ベンは開いた口が塞がらなかった。目の前の光景がまるで信じられない。
あれほど自分を苦しめていた後遺症がなくなった。それが足の感覚から理解できるのだが、それを認めるのに時間が欲しいというのが正直な感想である。
こんな……こんな簡単に?
あれほど治すのは無理だと言われていたものが、たったこれだけのことで?
何と言えばいいのか。ベンは言葉を探したが、心の震えのようなものがそれを邪魔する。
呆然としたままに足を動かせば、以前と比べればほど遠いものなれど格段に自由の利くようになった自分の右足がある。
「本当に……?」
「本当だ、ベン」
まだその事実が受け入れられないベンの呟きは、彼よりも重体であったドイルによって肯定された。
隣に寝そべるドイルの顔を向いたベンに、ドイルは言葉を重ねる。
「本当だ。本当なんだよ、ベン・ブリッチ」
「ドイルさん……」
「お前のことはハリマから聞いている。……息子のこと、苦労を掛けた。あいつと戦って分かったが、あんな戦い方をするようになってしまったのは私が原因だろう。問題も数多く起こしているらしい……本当に、親として情けない。子に、誤った道を歩ませてしまったことは完全に私の力不足のせいだ」
「何言ってるんですか!! あんたがいなけりゃ、ケインが無事だった訳がねぇ!! あんたはちゃんと息子を救ってる!! あいつがあんなになったのは俺らのせいです! あいつが止められなかった俺らが悪いんです!! あんたが悪いことなんて、これっぽっちもないじゃないですか!!!」
ドイルの謝罪を、ベンは即座に否定した。
ドイルが傷を負って意識のない間、その姿に心を痛めたケインを慰めることもできず、支えることもできなかった。
それはドイルのせいではなく、ケインを支えるだけの力のなかった自分たちの実力不足である。
そう断じるベンへ向け、ふっ……と表情を緩めるドイル。
「なら、もうお前は実力足らずの男ではないな」
「え……」
「イナナキの街にいるあれだけの戦士たちの中から、お前は勝ち残った。この結果を見れば、その実力は大いに有りと言えるだろう」
「ドイルさん」
「息子との決着なら、またの機会にするといい。今のお前は準優勝者として舞台に立たねばならんのだからな」
ベンはドイルに認められことで、感動で胸が熱くなり何だか泣けてきてしまった。
色々なことがあった。当然苦しみを伴うものが多い時間ばかりだったが、その言葉に全て救われたような気がした。
それが何よりも嬉しくて、ベンは泣き笑いのような顔になってしまう。
何と言ったらいいか分からない。それでも、ベンは精一杯の感謝を込めた言葉をドイルへと送った。
「ありがとう……ございますっ……! 御帰還をっ、お待ちしていましたっ!!!」
「おう。随分待たせた」
頼もしい返答に今度こそ泣き出してしまうベン。
それにつられてか、今まで静観していた選手たちも口々にドイルの復活を祝う言葉を投げ掛けてくる。
一瞬で騒がしくなったテント。やんややんやと歓声が沸く中、そっとテントの中へと入ってくる人たちがいた。
それに気付いた面々から、歓声とはまた違った声が上がりその人物たちへと視線が集まっていく。
通路へ出ていた者は道を譲り、ある者はその人物たちの取り合わせに驚きの表情を浮かべる。
それほどに、この三人がここに来ることは驚きを隠せないことであったのだ。
なにせ―――
「来たか、ミハナ。二人も、世話を任せて悪かったな。助かったよ」
「まあ、妻の容態を聞く前にお二人と話をしようだなんて。旦那様は相変わらずのお人ですこと」
「そういうな、お前が息子のためならば起きてそうそうに行動に移るのは想像できている。車椅子まで使わせて、二人に負担を掛けたならば礼の一つでも言っておかなければならんだろうが」
「まあ、滅相もありません。二人は息子に会いたいあたくしを気遣ってここまでしてくれているのです。迷惑など掛けてはおりませんわ、ねえ、
マチルダさん?
シャハトさん?」
妙齢の美人、ドイルの妻にしてケインの母。
クランを影に日向に支えてきた女。
ミハナ・ガーゼルはマチルダに押させた車椅子に座り、彼女の背後び控えるシャハトを伴って家族のいるテントへと出向いてきたのであった。
改めて現れたこの三人に、ベンはまたもや驚くこととなる。
そんな彼を見つめるマチルダの表情は申し訳ないとでもいっているようであった。
ここに用事もあり、ついでとばかりについてきたシャハトとしてはさっさと話を進めたかったが、どうにも事情の説明が中途半端になっていることを場の状態から見抜いた彼は無闇に口を出すことを控え後ろでそっとしているのであった。
そんな空気の中、口火を切ったのはやはりというべきか、ミハナであった。
彼女は車椅子の上からベンたちへと話を始めるのだった。
そう、魔鋼である。
希少ではあるものの、けしてその存在は誰の手にも入らないというものではない。
それこそ、この街の鍛冶師であるシャハトならば生産することもできるほどだ。
それが何故、長年ドイルたちを苦しめた「魔力汚染」というものを治療することができたのか。
その治療法が、今ベンに対して施されようとしていた。
「この魔鋼というのが魔剣の素材とされることを知っておられますね? 魔剣が魔剣と言われる由縁は剣がその製作過程で魔力の貯蔵量を増やすことにあります。また、その積層構造は魔力の循環を産み、剣に刻まれた魔法を高効率で行使することを可能とするのもまた周知の事実ですね」
「そりゃ……まあ、それなりに知っちゃいますが」
トトンが語りだしたのは、魔鋼が持ついくつかの特性である。
ベンもその特徴は以前シャハトのところで聞いた覚えがあるものだが、武器としての特徴がどう関係するというのだろうか。
ベンはその理由を考えようとしたものの、トトンはそれに構わず話を続けるようで取り出した魔鋼を持ってベンへと近寄る。
「少し失礼しますね」
「お、おい先生。 何するってんだよ?」
トトンは疑問の声を上げるベンの足元に向かい、右足のズボンをずりあげて素足をさらけ出した。
右足にはかつてのドイルたちと同じような傷跡が刻まれている。
「ちょっとあんた!?」
「実際にお見せするのが簡単でしょう? いや、これは是非見るべきです」
相変わらず淡々とした喋り方ではあるが、そこはかとなく興奮しているのが伝わってくる。
トトンはベンが動けないのをいいことに、彼へ「魔力汚染」の治療を開始する。
「本当に彼は画期的でした。まだ自分では繊細なところはできないのですが、ベンさんのような局部の処置ならば完璧にできますので任せてください」
「いやいや! 何するってんだよ一体!?」
「ですからお見せすると言ったでしょう。あなたは意識を足に集中させておいてください。ドイルさんと違って意識のしっかりしているあなたならなんら不安はありません」
混乱するベンに対するフォローなどまったく気にすることなく、治療のための準備を進めるトトン。この男、元気な患者には容赦がないタイプのようであった。
戦いの疲労で抵抗らしい抵抗などできないベン。そのままトトンの治療を受けることとなる。
「原理としては単純なものです。
・意識的な魔力の排除
・魔力の反射反応の抑制
・排出先への誘導
この三つの要素を利用した治療法となります。
分かりやすく言いますと、人体に備わる防衛本能を意識して作用させ、汚染している魔力を体外へと排出させます。このときに起こる体への影響を魔鋼の循環機能に巻き込む形で誘導し、その貯蔵能力によって完全に汚染魔力を隔離します」
説明をしつつも既に治療を始めていくトトン。
魔鋼をベンの足に押し付けるようにしたかと思えば、手慣れた様子で詠唱を始めるトトン。
それに反応するようにして、押し付けられたところから魔力特有の光が溢れそうになるが、その光を魔鋼が吸収していく。
それに比例するように、どんどんと右足にあった傷跡が消えていく。
―――そして一分もしない内に光が収まり、トトンが手をどけて変化を見せる。そこにはあんなに大きな傷などあったとは思えないような綺麗な肌へと戻ったベンの右足があった。
「…………」
あまりに簡単なその変貌に、ベンは開いた口が塞がらなかった。目の前の光景がまるで信じられない。
あれほど自分を苦しめていた後遺症がなくなった。それが足の感覚から理解できるのだが、それを認めるのに時間が欲しいというのが正直な感想である。
こんな……こんな簡単に?
あれほど治すのは無理だと言われていたものが、たったこれだけのことで?
何と言えばいいのか。ベンは言葉を探したが、心の震えのようなものがそれを邪魔する。
呆然としたままに足を動かせば、以前と比べればほど遠いものなれど格段に自由の利くようになった自分の右足がある。
「本当に……?」
「本当だ、ベン」
まだその事実が受け入れられないベンの呟きは、彼よりも重体であったドイルによって肯定された。
隣に寝そべるドイルの顔を向いたベンに、ドイルは言葉を重ねる。
「本当だ。本当なんだよ、ベン・ブリッチ」
「ドイルさん……」
「お前のことはハリマから聞いている。……息子のこと、苦労を掛けた。あいつと戦って分かったが、あんな戦い方をするようになってしまったのは私が原因だろう。問題も数多く起こしているらしい……本当に、親として情けない。子に、誤った道を歩ませてしまったことは完全に私の力不足のせいだ」
「何言ってるんですか!! あんたがいなけりゃ、ケインが無事だった訳がねぇ!! あんたはちゃんと息子を救ってる!! あいつがあんなになったのは俺らのせいです! あいつが止められなかった俺らが悪いんです!! あんたが悪いことなんて、これっぽっちもないじゃないですか!!!」
ドイルの謝罪を、ベンは即座に否定した。
ドイルが傷を負って意識のない間、その姿に心を痛めたケインを慰めることもできず、支えることもできなかった。
それはドイルのせいではなく、ケインを支えるだけの力のなかった自分たちの実力不足である。
そう断じるベンへ向け、ふっ……と表情を緩めるドイル。
「なら、もうお前は実力足らずの男ではないな」
「え……」
「イナナキの街にいるあれだけの戦士たちの中から、お前は勝ち残った。この結果を見れば、その実力は大いに有りと言えるだろう」
「ドイルさん」
「息子との決着なら、またの機会にするといい。今のお前は準優勝者として舞台に立たねばならんのだからな」
ベンはドイルに認められことで、感動で胸が熱くなり何だか泣けてきてしまった。
色々なことがあった。当然苦しみを伴うものが多い時間ばかりだったが、その言葉に全て救われたような気がした。
それが何よりも嬉しくて、ベンは泣き笑いのような顔になってしまう。
何と言ったらいいか分からない。それでも、ベンは精一杯の感謝を込めた言葉をドイルへと送った。
「ありがとう……ございますっ……! 御帰還をっ、お待ちしていましたっ!!!」
「おう。随分待たせた」
頼もしい返答に今度こそ泣き出してしまうベン。
それにつられてか、今まで静観していた選手たちも口々にドイルの復活を祝う言葉を投げ掛けてくる。
一瞬で騒がしくなったテント。やんややんやと歓声が沸く中、そっとテントの中へと入ってくる人たちがいた。
それに気付いた面々から、歓声とはまた違った声が上がりその人物たちへと視線が集まっていく。
通路へ出ていた者は道を譲り、ある者はその人物たちの取り合わせに驚きの表情を浮かべる。
それほどに、この三人がここに来ることは驚きを隠せないことであったのだ。
なにせ―――
「来たか、ミハナ。二人も、世話を任せて悪かったな。助かったよ」
「まあ、妻の容態を聞く前にお二人と話をしようだなんて。旦那様は相変わらずのお人ですこと」
「そういうな、お前が息子のためならば起きてそうそうに行動に移るのは想像できている。車椅子まで使わせて、二人に負担を掛けたならば礼の一つでも言っておかなければならんだろうが」
「まあ、滅相もありません。二人は息子に会いたいあたくしを気遣ってここまでしてくれているのです。迷惑など掛けてはおりませんわ、ねえ、
マチルダさん?
シャハトさん?」
妙齢の美人、ドイルの妻にしてケインの母。
クランを影に日向に支えてきた女。
ミハナ・ガーゼルはマチルダに押させた車椅子に座り、彼女の背後び控えるシャハトを伴って家族のいるテントへと出向いてきたのであった。
改めて現れたこの三人に、ベンはまたもや驚くこととなる。
そんな彼を見つめるマチルダの表情は申し訳ないとでもいっているようであった。
ここに用事もあり、ついでとばかりについてきたシャハトとしてはさっさと話を進めたかったが、どうにも事情の説明が中途半端になっていることを場の状態から見抜いた彼は無闇に口を出すことを控え後ろでそっとしているのであった。
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