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行間三 管制室
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東京の地下鉄道は、分単位で正確に運行されている。これを支えるのは、高度に自動化された列車制御装置や大規模な運行管理システムであり、これらを動かす管制室では、管轄する鉄道の列車運行状況が逐一把握できるようになっている。管制室に務める管制官の仕事は、平時は監視だけだがいざ事故や遅延が起こった時、復旧へ向け指揮を執る重要な仕事である。そんな管制室で、研修中の新人管制官は、一つの奇妙な異常を見つけたのだった。彼はすぐさま報告を行う。
「センサーが丸の内線のトンネル内で列車を確認したらしいのですがどうも妙で、ATO(自動列車運転装置)のデータ上にはない列車です。カメラは列車を捉えていますが、レンズが曇っているようでよく見えません。」
これに、勤続三十年のベテラン管制官が答える。
「丸の内は自動運転やけど乗務員がいる筈やし、列車はトンネル内を移動するもんや。そいつは今どこを走っとる?」
「それが、東京駅の作業用地区のカメラと、同区付近の軌道回路は列車を検知したのですが、CBTC(無線式列車制御システム)系のセンサーには反応なし、また作業用地区の前後の地区ではどのセンサーも列車を検知していないんです。」
彼が述べたカメラ、軌道回路、CBTCセンサーはいずれも指定した場所に列車がいるかどうかを調べる装置である。軌道回路は、レールや列車の車輪が電気を流すことを利用した仕組みであり、昔から使われる極めて原始的な方法である。一方CBTCセンサーは列車との間で無線通信を行う新しい方法である。それゆえ、ベテランは一つの可能性を提示する。
「ふーん、作業員が線路に工具でも落としたんちゃう?」
「そんな馬鹿な。カメラの映像を見てくださいよ。作業用車両が通るという話は聞いていませんけど、黄色いので作業用かと思います。」
新人は操作盤をいじり、画像をモニターに大きく映し出す。ぼやけた画像であったが、一両の黄色い電車と思われるものが映っている。確かに色が黄色いので安全第一とか書かれていてもおかしくはない。しかし、これを見たベテランはすぐさま正体を見抜いたようである。
「ほう・・・、三年ぶりやなぁ。おう新人、その警告解除でええで。この列車はもうトンネル内にはおらん。他の列車とぶつかる心配もないで。」
「えっ、でも軌道回路系のセンサーには反応あったのですけど・・・。」
「それは三分前やろ。いまその列車は何処にいるか、いずれかのセンサーが見つけとるか?」
「いえ、東京駅作業用地区で確認され、その後消えました。」
「不意に現れて消える、相変わらずやなあ。いい加減保安装置に引っかからないようにしてくれんかいな。でもそれも寂しくなっちまうなぁ。」
「あのぉ、それでこれ何者なんですか?」
「喜べ新人。お前さんは列車管制官としてご安泰だ。但し、これから話す事はやたらと口外しちゃあかんで。」
「何ですか?まさか、この時代で幽霊電車とか言わないですよね?」
「まあそんなのもいないことはないが、まずは黙って聞けや。」
「はぁ・・・分かりました。」
夜の管制室で語られたのは、この街の地下鉄に関わる者の間で語り継がれる、知る人ぞ知る話であった。
「センサーが丸の内線のトンネル内で列車を確認したらしいのですがどうも妙で、ATO(自動列車運転装置)のデータ上にはない列車です。カメラは列車を捉えていますが、レンズが曇っているようでよく見えません。」
これに、勤続三十年のベテラン管制官が答える。
「丸の内は自動運転やけど乗務員がいる筈やし、列車はトンネル内を移動するもんや。そいつは今どこを走っとる?」
「それが、東京駅の作業用地区のカメラと、同区付近の軌道回路は列車を検知したのですが、CBTC(無線式列車制御システム)系のセンサーには反応なし、また作業用地区の前後の地区ではどのセンサーも列車を検知していないんです。」
彼が述べたカメラ、軌道回路、CBTCセンサーはいずれも指定した場所に列車がいるかどうかを調べる装置である。軌道回路は、レールや列車の車輪が電気を流すことを利用した仕組みであり、昔から使われる極めて原始的な方法である。一方CBTCセンサーは列車との間で無線通信を行う新しい方法である。それゆえ、ベテランは一つの可能性を提示する。
「ふーん、作業員が線路に工具でも落としたんちゃう?」
「そんな馬鹿な。カメラの映像を見てくださいよ。作業用車両が通るという話は聞いていませんけど、黄色いので作業用かと思います。」
新人は操作盤をいじり、画像をモニターに大きく映し出す。ぼやけた画像であったが、一両の黄色い電車と思われるものが映っている。確かに色が黄色いので安全第一とか書かれていてもおかしくはない。しかし、これを見たベテランはすぐさま正体を見抜いたようである。
「ほう・・・、三年ぶりやなぁ。おう新人、その警告解除でええで。この列車はもうトンネル内にはおらん。他の列車とぶつかる心配もないで。」
「えっ、でも軌道回路系のセンサーには反応あったのですけど・・・。」
「それは三分前やろ。いまその列車は何処にいるか、いずれかのセンサーが見つけとるか?」
「いえ、東京駅作業用地区で確認され、その後消えました。」
「不意に現れて消える、相変わらずやなあ。いい加減保安装置に引っかからないようにしてくれんかいな。でもそれも寂しくなっちまうなぁ。」
「あのぉ、それでこれ何者なんですか?」
「喜べ新人。お前さんは列車管制官としてご安泰だ。但し、これから話す事はやたらと口外しちゃあかんで。」
「何ですか?まさか、この時代で幽霊電車とか言わないですよね?」
「まあそんなのもいないことはないが、まずは黙って聞けや。」
「はぁ・・・分かりました。」
夜の管制室で語られたのは、この街の地下鉄に関わる者の間で語り継がれる、知る人ぞ知る話であった。
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