セフィロト

讃岐うどん

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『黄金卿』編

第四話 狂気と始まり

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「飢餓。神技。命力。頭痛くなりそう」
 昨日知った単語を復唱する。
 椅子に座って、空を見上げた。
 天井のLEDライトが眩しい。
 目が痛くなりそうだ。
(何か、学校行きたく無いなぁ)
 無性に感じる惰性。
 溶けて無くなりそう。
 眠たい。
「ていうか、ん?」
 よくよく考えろ。
 あの飢餓は、この街にずっと居た。
 きっと、自分が生まれる前からずっと。
 何年だろう。
 十年? 百年? 千年?
 ずっと。ずっと、彼は人を喰っていた。
 この街の何人が犠牲になった?
「……俺、生き残れたの……奇跡か」
 改めて、今を認識した。
 同じ生命とは到底思えない。
「そういや、何であいつここに来たんだ?」
 見た目で差別するわけでは無いが、どう考えても日本育ちでは無いだろう。
 この街に住んでいるのなら、あんな少女、知らないわけがない。
(何でだ?)
 焔の飢餓じゃない、別の飢餓?
 もし、そうだとしたら……
(あんな化け物が、2匹も!?)
 焔の飢餓がその気になればこの街は簡単に死滅するだろう。
 あの力の片鱗を見せつけられれば、誰だってそう思う。
(でも、実行しないのは、何でだ?)
 何か理由がある。
 今日の夜、彼女に聞こう。
 そう思って、教科書を見る。
 無数に書かれた公式に、さらに頭痛が増す。
 今度の事も考えたら、心も痛くなった。
(気が気じゃないな……)
 でも、少なくとも今はイスカトルは姿を現さないらしい。
 人を喰うのを避けるのかは知らないけど。
 俺が標的にされることは無いだろう。
 無いよな?
「分からないや」
 結局、答えは出ず。
 カチカチと鳴る時計、つまらないドラマの流れるテレビ。
 退廃的な時間は過ぎ、正午を告げる鐘がなる。
「どうする事もできないしなぁ」
 あんなの勝てっこない。
 そもそもだ。
 アストラルが来なければあの時点で死んだのだ。
(考えるだけ無駄、ってやつかぁ)
 背もたれを倒し、寄りかかる。
(……家に俺しかいないのが奇跡か)
 俺には両親と弟がいる。
 だが、家には居ない。
 1ヶ月前の事だった。
(あのくじ引きのお陰、か)
 この街の南東の端に、小さな商店街がある。古びたアーケードに、ボロボロで落書きされたシャッター。
 そんな歴史ある場所で、イベントがあった。くじ引きだ。
 一等は『1ヶ月間のハワイ家族旅行券』。
 これがまた酷いものだった。
 何と、3人。
 家族と書いてあるのに3人までだ。
“テスト近いし、流石に旅行行けないよな”
 そう苦笑いしていた父。
(……今思い出してもムカつくな)
 ハワイは行きたい。
 でも実費で行かせられる金は無い。
 となれば、置いていくほかあるまい。
(気持ちは1000歩譲ってわかる。でもさ)
 実行するのは別だろ。
 2週間前、俺がリビングに行った時には手紙と通帳、カードが残されていた。
『行ってくる。1ヶ月後に帰ってきます。食費はその通帳の中から好きに使ってください。それ以上はありません。
 お小遣い削ってください』
 何とも身勝手な。
 まぁ、それも後1週間強。
 もうすぐ帰ってくるはずだ。
(複雑だな)
 飢餓のことを知らなかったら、純粋に喜べた。
 でも、飢餓を知った今、素直に喜ぶ事ができない。
(いや、逆か?)
 分からない。分からない。分からない。
 分からない。分からない。分からない。
 何なんだろう。何なんだろう。
(何なんだ、この胸騒ぎは)
 心臓の鼓動が跳ね上がる。
 ドキドキ? 違う。
 嫌な予感だ。
 絶対的な何か。
 イスカトルとの遭遇時並だ。
 いや、それ以上だ。
「怖いな」
 スマホを開き、電話帳を開く。
 そこに載った謎の非通知。
 目的も謎。誰かも謎。だが、一つははっきりしている。
 間違い電話では無い。意図されている。
 何度も掛かってきた。
 本当に、怖い。
「何が起こるんだ」



 ──同時刻

『感じ取ったか』
「うん」
 それは、2人も同じだった。
 飢餓は独特の気配を放つ。
 長生きしている飢餓は固有の色、形が付く。
 荒々しく、打ち付ける波のよう。
「でも、何で?」
『さぁ。それが分かればいいが』
 狂気を纏いし殺気。
「この街の飢餓がじゃ無いよね」
『ああ。その筈だ』
 その正体に心当たりがある彼女は、固唾を飲み込んだ。
 直感が正しければ、負けを覚悟しなければならない。
「イスカトルが可愛く思えてくるよ……」
『まったくだ。それに加え黄金卿。呪われているのか?』
「この街に調律師が居ないの、何となく解った気がする」
『胃も命も持たぬな』
 千年以上生きた強力な飢餓には、それぞれ固有名詞が付けられる。
 イスカトルの『久遠の狭間』などだ。
 誰も手をつけられない厄災。
 危険性を示すためにつけられた二つ名。
「よりにもよって『拒む者カルガルム』か」
 名は渡らなくとも、名称は渡る。
『拒む者』として名を馳せた、狂気の女。
「エディア、アウトレイジは何処まで行ける?」
『10までだ。それ以上は我が判断を下す』
 黒い球体が、槍へと姿を変える。
 全力だ。全身全霊で迎え撃て。
 相手は、歴史に名を刻んだ怪物だ。
「秀、街の人は?」
『極力は護ろう。だが、
 言葉の重みを理解し、決戦に向けて身体を動かし始める。
 イスカトルの様に話し合いは不可能。
 殺るか殺られるか。究極の二択だ。
 楽なわけ無い。
「丁度いい。ここで倒し斬ろう」
『無理はするな』
「うん」




 秀の家から西に2キロ。
 山がある。全長は400メートル弱。
 初心者用登山スポットとして有名だ。
「くくく」
 そこで、彼女は笑っていた。
 狂気を含んだ笑みからはドス黒い殺気が漏れ出ている。
「おい、何してんだ!」
 後ろから声をかけたのは、登山客だ。
 頭よりも高いバックパックを背負い、杖をついている。
 彼女が立っている場所は、崖っぷちだ。
 一歩間違えれば転落死。
「危ないぞー!」
 親切心で彼らは話しかけた。
「今日は風が強い。ここの崖は弱いんだ。こんな日には簡単に崩れ去っちまう」
 彼らは気づかない。
 彼女の手元を。
 彼らは話し合い、彼女に近づき始めた。
「おい! 聞こえてるのか!? 何をし」
「危ないぞ! 早くこっちに来」
「は?」
 刹那、2つの骸が倒れ伏せた。
 胴体を真っ二つに斬られ、ヨレヨレになった皮膚が少し動く。
「チッ、不味い。有象無象はこうも無味なのか」
 女は
 肉塊を抉り、素手で方張っている。
「ウワァァァァァァァァ!!」
 恐怖心で叫ぶ。
 当たり前だ。友達が目の前で喰われている。取り乱さない方が異常だ。
「趣向を変えるのも悪く無い、か。良く言いやがる美食家セルゲイの野郎。不味いじゃねぇか」
 必死に逃げる。何かを呟いている。
 知るか。知るか。知るか。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
 死にたく無い。死にたく無い。
 死にたく無い。死にたく無い。
「うるせぇぞ」
「が」
 だけど、死の前ではそんなの無意味だった。
 胸を刺され、貫かれた。
 彼が最期に見た光景は、絶望そのもの。
「運動前の軽食としては、悪く無いな」
 槍を持った女。
 身長以上の槍。
 どれもこれもが禍々しい。
 美しさを覆す程の狂気が、彼を殺した。
「にしても、弱いな。人間は」
 かつて、幾人もの名のある調律師が総力を上げ戦った。
 勇猛果敢に挑んだ猛者を1人で皆殺しにした最悪の飢餓。
守護者ピルグリム』と共に、

『拒む者』
真名を、ドーラ。

拒む者カルガルム』 ドーラ

 万年を生きた怪物。
 それが、この街に来た。
 何を求めて?
 それは、誰も知らない。
 他人は無論。本人ですら。
 狂気に溺れた彼女はただ、喰らう。
 人を。虫を。命を。飢餓を。
 そこに境界線は無い。
 全て等しく、彼女は喰らう。
 より強き者を求め。絶望を求め。

「さぁ、復讐の刻は来た。漸くぶっ殺せる」

 女は笑い、刻を刻む。
 それが、終末を呼ぶ禁断の始まりだと知らず。
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