セフィロト

讃岐うどん

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『黄金卿』編

第七話 古き因縁

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「お前……」
 彼は弾いた。
 死の槍を、簡単に。
 爆風の中、仮面を中心としたカゲロウが揺れる。
「軽い。堕ちたな『拒む者』」
 その声は耳よりも脳の直接伝わった。
 空気の波を伝うわけでもなく、まるで一体化したかのようだ。
「何故だ」
「!?」
 ズドン!
 槍よりも速く彼女はたどり着いた。
 槍を地面に突き立て、ゆらりと立ち上がる。
「……!」
 その気配に、戦慄した。
 中世貴族を思わせるドレスに、現代風のシャツ。アンバランスの塊は、緋色の瞳を輝かせている。
 あれが、飢餓。
 レベルが違う。
(何なんだ!)
 勝てる? バカだろ。
 次元が違う。彼女にとっては、俺たちなんてアリ同然。
 右胸を貫かれているとは言え、そんなのどうでも良くなるぐらい、存在感を放っていた。
「何故、奴らの肩を持つ」
 答えず、男は宙へと行く。
「『永久機関』の件か? 何だ? オマエが理由も無く人間を庇うとは思えん。答えろ」
「言葉で問うか。そこまで堕ちた訳では無いだろう、無辜の狂気よ」
「は! よく言うぜ。誰の所為でこうなったと思ってる」
「……自業自得だろう。だが、挑むのなら、受けて立つ」
 睨み、槍を握りしめる女。
 貫かれた右肩は、ミギミギと奇妙な音を立てて、穴を塞ぎ始めていた。
「神技のリチャージは済んだ。後はぶっ殺すだけだ」
舞踏ダンスは苦手だ。どう加減しても殺戮ワルツになってしまう」
 応えるように、男はマントを靡かせる。
 拳を握り、仮面が見下ろす。
(何だ……何を言ってるんだ?)
 ついていけない。
 化け物共が何かを喋っている。
「せいぜい足掻けってか? 何勘違いしてる。オマエが足掻くんだ」
「なれば『骸なる狂気』の範囲を広げろ。何故、縮める」
 槍を投げる。槍を弾く。
 眉ひとつ動かさず、体一つ捻らず。次々に槍が生み出され、弾かれていった。
 10、100、1000、10000。
「……チ」
(仮面が、押し勝ってる?)
 僅かだが、仮面が距離を縮めていた。
 1メートル。2メートル。3メートル。
 一歩、一歩、一歩。
「狂気でも、わかる筈だ。出力が落ちている。なれば、なずべき行動は明白だ」
「ここで逃げろってか?」
 投擲と同時、彼女も飛び出した。
 合わせるように、迎え撃つように、彼は構える。
「ふざけんな!」
 槍を突き刺す。
 同時、
「──『絶』」
 微かに溢れた声と共に、
「ぐぉぉぉぉぉおおおお!」
 穿った筈の彼女が、悲鳴を上げていた。
 槍に触れた右手はそのままに、左手を握りしめ、
「──グッ!」
 彼女の顔面目掛け、正拳突きを撃ち込んだ。
「おぉ?」
 二撃。命中と同時、禍々しい流れが切り替わる。意思を持った悪性は、一つの剣のような物へと変化した。
 実体化したそれを掴み、振りかざす。
「──神技『骸変むへん』!」
 その瞬間、小さな爆発が起こり、仮面の男が弾き飛ばされた。
 2人を包み込む程度の大きさ。
 直撃の一瞬、
(男?)
 白目を剥き、生気の無い男が。
 ゾンビや吸血鬼を思わせるソレが、彼女を爆発から防いだ。
 死体は爆発に巻き込まれ跡形も無く消滅した。
 ゆらりと彼女は立ち上がり、首を横に振る。ゴキゴキと骨を鳴らし、肩を回す。
「……何をした?」
 同じく手首を回し、剣を握り直す男。
 その手のひらには赤が混じっていた。
「誰が言うかよ」
 額から赤い汗を流し、口元のそれを拭き取る女。
 手に持つ大槍は、鮮血を求めている。
「切り札は温存しておくもの。そう教えたのは、オマエな筈だ」
「……あったな、そんなことも」
 男の方はともかく、女の方はアストラルからの連戦だ。
 そろそろ体力的にバテてもおかしくはない。
 だが、彼女はバテる気配を一切見せない。
 それどころか余裕だと言わんばかりに槍を振り回していた。
「気に食わねぇ。その態度!」
 槍を突き立て、突進を始めた。
 その時だった。
 構わず男は地面に手のひらをかざした。
「──神技」
 バリン!
 刹那、彼女が倒れた。
「は?」
 まるで、糸の切れた操り人形の様だった。
 杖を失った老人の様に、ぷつりと何かが切れ、倒れ込んだ。
(何だ? 怠さが、軽減されてく……)
 思考は束の間、女が叫んだ。
「オマエ、『骸なる狂気クルカイ』を!」
「復讐に囚われすぎだ。真に大事なものを見失っている」
 這いつくばりながらも、彼女は立ちあがろうとした。だが、いつまで経っても二足歩行に戻ることはなかった。
「撤退しろ」
 影が近づく。
 異様とも取れる殺気を目の当たりにした。
 汗が止まらない。足が震えてる。
 四足歩行の怪物。ケモノのようなソレは荒い息で睨みつけた。
「ケモノ以下だな。『拒む者カルガルム』」
「ッ! クソが」
 そう言うと、
 文字通り、瞬きした瞬間に、視界から消えていた。
「……」
 残るは、仮面の男。
 未だ目を覚まさないアストラルを抱え、ギアを上げる鼓動を感じながら、謎の存在を見つめる。
「……アンタは……敵、なの……か?」
 声は震え、体も震えていた。
 彼は動かず、激しく靡くマントとは違い、静かに俺たちを見つめていた。
 画面の奥から写される視線。
 そこに敵意は感じられなかった。
「……」
 答えない。答えてくれない。
「答えろよ……!」
 分からない。だから、拳を握る。
 勝てない。そんなこと分かってる。
 でも、やらなくちゃ。
「神技──『創世の刻は、此処にノウム・オルテシア』」
「あ?」
 刹那、俺は倒れた。
 バリン! と、視界ガラスが割れる。
 亀裂が走り、ヒビは大きくなった。
 現実と虚空が混ざり合い、黒が視界を乗っ取る。
「な」
 言うも遅い。
 俺の意識はそこまでだった。
 眠る……と言うよりは気絶に近い。
 飛んだ意識で、肉体はそのまま地面に倒れ伏せた。


『夢と言うモノは……ああ、とても良い』
 そう言ったのは、誰か。
『肉体と精神の繋がりが弱くなる』
 重厚感のある声だった。
『力を失った神でも、ができる』
 悪辣な笑みを浮かべている。
。どうなるか』


「ん」
 目が覚めると、見知った天井だった。
 窓の先には縦横無尽に飛び回る小鳥。
 朝日は頂点を過ぎ去った。
 何度も見たそれに安堵を感じる。同時に、いつかの日の事を思い出して、絶望した。
「何で……」
 何で、俺は此処に居るのだろう。
 思い出したい様な思い出したく無い様な。
「痛っ」
 頭痛が酷い。ノイズが思考を妨害する。
(水飲も)
 そう思い、ベッドから立ち上がった。
 やはりと言うか、リビングには誰も居ない。まぁ、それが当たり前なのだが。
(確か……)
 ウォーターサーバーから水を取り出し、喉に流し込む。ゴクゴクと喉の呼吸が聞こえた。
「ちったぁ、マシになったな」
 治りつつある頭痛。薬が無いのが残念だ。
 まぁ、誤差ではあるが。
『──彼岸山で起きた謎の爆発事故の調査は未だ難航しており……』
 テレビをつければ、ニュースキャスターが深刻そうな表情で台本を読み上げていた。
 モニター越しに写される彼岸山。
 そこは、アストラルと『拒む者』が戦った場所だ。
「……アストラル」
 上空からヘリがカメラを持って眺めていた。山には幾つもの大穴が空いており、それを囲む木々が薙ぎ払われていた。
『近隣住民曰く、「一昨日の昼間、起きたらドーン!って、爆発がしてよ! 山みたらさ、もうめちゃくちゃさ」と供述しており、警察は人為的に引き起こされた可能性があるとして、調査を続けています』
 映像が切り替わり、インタビューの様子が映し出される。
「酷いな……」
 腐っても俺は当事者の1人だ。
 見て見ぬ振りはできない。何も出来なかった俺にできる事、それは、現実を目に焼き付ける事だ。
(せめて……)
「せめて、何だ?」
「!?」
 声の方を振り向く。
 リビングと廊下を別つ扉が開いていた。
 そこに、男は立っていた。
「オマエは!?」



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