暗澹のオールド・ワン

ふじさき

文字の大きさ
19 / 47
第三章 水門都市編

第五話「水の都に住まう旧神」

しおりを挟む

「着きやしたよ。お客さん」


 アクアポートに1時間ほど揺られ、街の西側へと到着する。
 坂道を歩いて行くと紹介された灯台の下へと辿り着く。
 灯台下には岩で囲まれた空間が広がっており、そこを抜けると一軒の家がぽつりと立っていた。

 足元に生えている花を踏まないように家の前まで足を進め、ジュドは扉をノックした。

 すると扉が開き、一人の女が出てくる。


「どちら様でしょうか?」


 透き通るような青い髪と美しい碧眼の女に一行は目を奪われる。
 彼女の耳の上には珊瑚のような角が生え、ただならぬ雰囲気が漂う。 


「近衛兵長のオーレダリア、そして地底神ラースからあなたに会うように言われました」


 女はじっと来客の目を見つめ、少しすると先ほどの緊張を解き「こちらへどうぞ」と部屋の中に招待する。

 中に入り、机を囲んだジュドたちは地底都市での一件とオーレダリアから任された件について話した。
 どうやら彼女は本当に前線に一切の関与もしておらず、街の近況を把握していなかったみたいだ。


「なるほど、そんなことがあったのですね。オーレダリアの件もわざわざありがとうございます」

「改めて、私があなたたちの探していた漠水神フィオーネです」 


 ついに会うことができた二人目の旧神。
 地底神ほど高飛車な人格ではないようで少し安心した。


「地底神が言う世界の真実について、あの話は本当なのか?」


 ここに来るまでずっと気になっていた例の話を彼女に問いかける。


「今まで話を聞いて、彼があなたたちを信頼していることはわかりました」

「それじゃ…」


 一行の言葉を遮るようにフィオーネは話す。


「ですが。あなたたちが本当に信頼に足る人物なのかを私自らが見極めさせていただきます」


 思わぬ言葉にジュドたちは困惑する。


「そこまで難しい話ではありませんよ。模擬戦です。剣を交えればおおよそのことはわかりますから」


 見た目に反して、申し出てきたのは模擬戦。
 ラースは旧神の強さについて、邪神には劣るもののこの世の生命よりは格段に上位と言っていた。
 だが、目的を成すにはここで引き下がるわけにはいかない。

 ジュドたちはフィオーネに連れられ、外へと出た。


「安心してください。街の人はここへは滅多に来ないので、全力で奮闘していただいて大丈夫ですよ」


  表情を変えることなく、一行から距離を取る。
 そしてフィオーネの手のひらへと水が集まり、泡となる。


「この泡を開始の合図にしましょう。破裂したら各々仕掛けてきてください」


 そう言い空へと泡を放つ。数秒後、放った泡は地面へと落ち始める。ジュドたちは武器を手に取り、ルシアとモーリスが強化魔術を前衛の三人にかける。 

 ―パチッ。

 地面へと落ちた泡が破裂する。

 その瞬間、勢いよく前の三人が飛び出した。
 地底都市で貰った新たな装具に身を包んだ三人は以前よりも動きがよくなっており、三方向から攻めかける。

 フィオーネは近くの水路から水を収束させ、水刃を創り出した。
 さらに自身の周囲に水を浮遊させ、構えを取る。


「《痛撃ストライク》!!!」


 獅子を模ったダグラスの斧がフィオーネへと振り下ろされるが、ガシャンと音を立て水刃に弾かれる。
 水でできた刃が大男の斧を弾き飛ばした。
 なんて硬度だ。

 のけぞったダグラスの背後からルシアの雷撃が飛んでくる。


「死角からの魔術、しかも雷。いい判断です」

「ただ、相性が必ずしも戦況を左右するとは限りません」


 フィオーネは魔術が直撃する瞬間、周囲の浮遊させた水を地面に広げ、後衛のルシアたちの足元まで一帯を水溜まりへと変える。


「きゃぁあ!!」


 感電を狙い放った魔術はフィオーネごとダグラス、モーリス、ルシアの三人へと襲い掛かる。
 二重詠唱ダブル・キャストによる二倍の威力の魔術を喰らい、三人は地面に倒れ込む。強化魔術のおかげもあり火傷程度の負傷で済んでいるが、体は痺れて動かない。


「システィ!!」


 フィオーネが感電しているうちに両方向から挟み込むようにジュドとシスティが斬り込むが、辺りの水がフィオーネを守るように二人を吹き飛ばす。
 受け身を取ったシスティは斬魔刀で地面を両断し、砕け散った土の破片を影に視界から消える。


「どこへ… 」


 周りを隈なく警戒するフィオーネに視界の端から斬魔刀が飛んでくる。
 反射で斬魔刀を薙ぎ払うが、その影からシスティが殴りかかる。


「はぁああ!!!」


 全力の拳は、あと少しのところで水に防がれる。 


「全部使ったわね、浮遊させている水を…!」


 システィの狙いを理解したフィオーネは即座に振り返る。
 しかし、速攻で放たれたジュドの剣撃が振り向くよりも先に目標を捉える。


「《閃光連斬》!!!」


 剣が純白の肌に触れる刹那、漠水神の体が水のように透ける。
 剣は体に到達するが手応えはなく、目の前にいたはずのフィオーネは溶け落ち、システィの後ろに立っていた。


「確かに斬ったはず、どうなって…」


 思考が停止したジュドを他所にフィオーネの水刃は弓へと形状を変化させる。
 引き絞られた水の矢がジュドとシスティへと発射され、手足を水で拘束する。 


「もう少しというところでしたね…」

「いい線ではありますが、この程度ではこれから先あなたたちの実力でこの世界の闇を戦うことは難しいでしょう」

「地底都市で生き残ったその命を無下にしてはいけません。手をお引きなさい」


 地底都市を乗り切ったことで一行は強くなったと思い込んでいたが、実力差を痛感させられる。

 フィオーネは戦闘状態を解除した時、自身の肩に違和感を覚える。
 先ほどジュドに斬られた箇所がほんの少し光を帯びていた。


「……」


 フィオーネは斬られる寸前、〝蜃水楼ミレロラージュ〟により水の分身体を創り出し、一定の距離を取った。
 実際に剣がかすめたのは実体ではなく分身体だったのだ。

 それなのに、実体に剣撃が届いている。ジュドを見ると左手がかすかに光を放つ。


「その力は…、なるほど。彼はそれを賭けたということですか」


  そう呟き、漠水神は思い詰めたような顔をした後、先ほどの発言を撤回する。


「少しあなた方に興味が沸きました。ですが、今のままでは近いうちに死ぬことになるでしょう」


「そこで…もしあなたたちが私の修行を乗り越えることができたならば、私の知り得る真実をお話しするというのはいかがですか?」


 諦めかけていたジュドを他のメンバーが鼓舞する。


「負け…たまま…じゃ終われないわ」

「可能性が残されているなら…やるしかないの、そうじゃろ?」


 システィやモーリスたちが何とか体を起こす。


「必ず乗り切ってみせる…!だから…俺たちに修行をつけてくれ」


 ジュドが頭を下げると、四人もそれに続く。


「いい、パーティーですね」


 フィオーネは遠くを見つめて微笑む。


「今日はもう日が暮れます。宿に戻り、明日ここへ来られるといいでしょう」


 模擬戦だったため大きな怪我はなく、一行は部屋で簡単な応急処置を施される。

 ジュドたちは疲弊した体で宿に戻り、食事や入浴を終えた後、泥のように眠るのであった。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...