暗澹のオールド・ワン

ふじさき

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第三章 水門都市編

第六話「漠水神との訓練」

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 次の日、丘上の家へ来た一行は扉を叩く。

 どうぞ。と言われ、中へ入るとフィオーネが花に水をやっていた。
 彼女は持っている如雨露を横へ置き、椅子に座る。


「忘れていましたが、修行の前にオーレダリアの頼みを先に終わらせましょう」


 水門都市の近況について自らの見解を話し始める。


「フィオーネ古海には邪神の一柱が封印されています。名は‶ガタノゾア〟。莫大な海を触媒にして何とか封印している状態なのですが、何らかの異常が発生して呼び声が増加しているのでしょう」

「呼び声についてどこまで知っていますか?」


 フィオーネは問いかける。


「魔物の一種じゃないのか?」


 言われてみれば、生まれた頃にはすでに世界各地で呼び声と称される魔物は目撃されており、今までその正体など気にすることはなかった。


「間違いではないですが、魔物…とは少し違ったものかもしれませんね。あれは邪神の眷属です」

「封印されているとは言え、奴らの力を完全に無効にできたわけではありません。封印から漏れ出た残滓が収束し、形を成すことで呼び声へと姿を変えているのです。呼び声は目の数が多いほど収束した残滓は強力なものとなり、その邪悪性は増します」 

 地底都市で顕現した邪神の脅威を目の当たりにしたジュドたちは動揺を隠しきれずにいた。


「王国の依頼で何度か呼び声の討伐を受けたことがあるが…まさか邪神の一部だったとは」

「通常の呼び声は取るに足らない力しか持ち合わせていません。しかし、問題は水門都市で発生している呼び声は封印の近くで発生した残滓により生み出されているという点です。最悪の事パーティー前に手を打たなくてはなりません」


 場の雰囲気が重くなり、汗が額から滴り落ちる。


「呼び声に関しては対処が必要ですが、封印は街に三箇所ある灯台で管理しています。そこが無事な限りガタノゾアが解き放たれることはありません」


 ジュドはここへ来る途中に灯台が一つあるのを思い出した。


「オーレダリアにはフィオーネ古海および灯台の警戒を怠らぬよう伝えてください」

「わかりました。私が伝えておきます」


 ルシアが渡されていた石印に魔力を込め、連絡を送る。


「そうか…連絡助かるよ。呼び声と封印に関してはこちらも警戒を強める」

「君たちがまだそこにいるということはフィオーネ様が何かしらの興味を持たれたということだな。検討を祈るよ」


 オーレダリアに無事連絡できた一行。


「さて。話はここまでにして、始めましょうか」


 フィオーネが席を立ち、外へ出ようとした時。ノックの後、扉が開く。


「お話の最中でしたので、外でお待ちしておりました。かの名高き漠水神様。突然の訪問、お許しください」


 どこかで見たことのある少女とその連れが目の前に現れた。


「近々フォーレタニアでは現国王が退位され、新たな王が即位する代替わりの式がございます。水門都市には先代の国王が大変お世話になったと聞き及び、王家の者としてご挨拶をしに参らせていただいた次第です」


「あっ!あの時の!」


 システィが驚嘆する。
 昨日、バザールの騒動で見かけたあの三人組だったのだ。

 少女は頭に?を浮かべながら全員に挨拶をする。


「初めまして、フォーレタニア王和国第一王女、ティアナ=フォーレタニア=アルベリッヒと申します。後ろに控えているのは護衛のバハトナと、おに…せ、セノです。以後お見知りおき下さい」


 少し噛んだ?一瞬言い間違えはしたものの、異国の少女はスカートの端をつまみあげ軽く頭を下げる。


「盗み聞きするつもりはなかったのですが…外にいた時、部屋の中から水門都市が未曾有の脅威に晒されているというお話が聞こえてまいりました。交易先であるこの街を守るために、私たちにも何か協力させていただけないでしょうか?」


 ティアナは胸に手を当て、協力を申し出る。


「これは王和国の王女殿下でしたか。わざわざ足を運んでいただきありがとうございます」


 数秒間の沈黙の後、フィオーネはその申し出を受け入れた。


「ありがとうございます。祝い事のはずがこのような事態に巻き込んでしまい申し訳ありません。この街の中心、近衛兵団本部のオーレダリアを訪ね、この街の為に協力していただけませんか?」

「わかりました!隣国として、一王女として尽力させていただきます」


 バハトナがすかさず、横槍を挟む。


「おいおい、いいのか?姫さん。父君も心配するんじゃないか?」

「心配しないで下さい。私は大丈夫です。きっと父上も同じ状況なら協力を申し出たはずですから。今は私たちにできることを最優先にすべきです」

「ティアナが決めたことだ。俺たちは従うしかないよ」


 セノは腰の刀に手をかけ、やれやれと呆れた顔でため息をつく。


「冒険者の皆さん、お名前をお聞きしてもいいですか?」


 ジュドたちの名前を聞き、「お互い頑張りましょう」と声をかけ、会釈すると護衛の二人を連れてその場を後にする。


 瀑水神の特訓は朝から日が暮れるまで行われた。
 基本はフィオーネが生み出した水流人形と一対一の修練だが、五回に一度はフィオーネが直々に手合わせをしてくれる。
 水流人形は分身とは思えないほどの強さで一行は苦戦を強いられていた。 

 特訓開始から三日目、ジュドとフィオーネが辺りに水飛沫をあげながら剣撃を繰り広げていた。 


「剣に意識を向けすぎるのは良くありません。特に至近距離での打ち合いは如何にして相手に攻撃を叩き込めるかにかかってきます。手足だけでなく落ちている石なども攻撃手段の一つと考えてください」

「あなたの剣技は剣術三流派には属さない読みづらさはありますが、まだ粗いです。二刀の速さを活かすためには、まともに打ち合うのではなく力を流すイメージで相手の攻撃を受け流し、即座に反撃を入れることも有効です」


 フィオーネは口を動かしながら実践してみせる。ジュドは彼女の文言通りに反撃を喰らい、足元をグラつかせる。


「…っ、まだだッ!!」


 ジュドが反撃しようとした時、腕に微かな光りが灯った。
 光の一閃をフィオーネは避けるが、避けた箇所に光の跡が残る。


「無意識での発現…?いや、逆境によるもの…?」


 少し考えを巡らせた後、ジュドに問いかける。 


「この技を意図的に発現させることはできますか?」


 実際、今の光は俺にもよくわからない。
 気がつくと発現し、意識すると出せなくなる。
 たまに刀身が光ることは今までにもあったが、技の効果だと思っていた。


「唯一無二。その能力はあなたの…いや、あなたたちの切り札になり得ます。明日からは水流人形と戦いつつ、さっき言ったことの他に光を意識的に発現させられるようにしていきましょう」

  
 それからは各々修練に励み、特訓開始から七日が経過しようとしていた。

 ダグラスは水流人形との戦闘を得て、パンクラチオンなどの格闘技を会得し、システィ、ルシア、モーリスもそれぞれの長所を活かした戦い方を開拓した。

 特訓していてわかったことは、光の剣撃は強く集中した時に発生するということ。
 まだ意図的に発生させることはできないが、以前よりは発生の回数も増えてきた。


「この調子で…」


 ジュドが成長を実感していると突如、街の空が大きく裂け、開いた空間から二つの人影が飛来した。 

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