暗澹のオールド・ワン

ふじさき

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第三章 水門都市編

第七話「襲撃」

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 人々が上空の裂け目に気付き、騒ぎが起こり始めたと同時に轟音と爆煙が街を包む。

 音を聞きつけた近衛兵が現地に辿り着くと、不意足を掴まれた。


「助け…て、子供…が」


 途切れかけの意識の中、瓦礫の下敷きになった母親らしき人が爛れた手で必死に訴えかける。 


「なんだよ…。これは」 


 駆けつけた近衛兵が辺りを見渡すと崩れ去った建物と大勢の民間人が地面に倒れており、その大半が全身に火傷を負っている。
 その中心に一人の男が立っていた。

 少年の胸ぐらを掴み上げ、近衛兵の方を向く。


「その子を離せ!!貴様、何者だ!!」


 近衛兵が男に警戒を促す。


「……」


 沈黙を貫いたまま、手に持った少年を近衛兵へと投げる。
 飛んできた少年をしっかりと受け止め、安否を確認する。


「安心しろ!もう大丈夫だ」 


 少年は虚な目で涙をこぼす。
 とは言ったものの火傷が酷い。一刻も早く治癒班に連れて行かなければ…。
 近衛兵が安堵した一瞬の隙に、目の前にいた男が視界から消える。振り返ろうとしたその時。

 後頭部鷲掴みにされ、地面へと叩きつけられる。


「ぐ、ぁあぁあ」


 首がみしみしと悲鳴を上げ、今にもへし折れそうな中、衛兵は必死に瀕死の少年を守ろうとしていた。
 押さえつけられながらも横目で男の顔を見た衛兵は驚く。
 髪に隠れた顔は全面爛れ、憎悪に満ちた眼で近衛兵を睨みつけていたのだ。 


「お前は…一体…」 


 言葉を吐き切る前に、視界は炎に包まれ近衛兵は腕に抱えた少年ごと焼け落ちる。
 黒く爛れたモノから手を離した男は近衛兵本部へと進み始めた。




      ◇ ◇ ◇




 近衛兵本部では緊急事態の対応に追われ、兵士達が走り回っていた。
 執務室のオーレダリアは焦燥した顔で石印に問いかける。


  「各所、どうなっている!状況を報告しろ!」


 中央広場、沿岸部、大橋の近衛兵が応答する。 本部階下には負傷した一般人が運び込まれ、混沌と化していた。


「こちら中央広場!突然、空に謎の亀裂が入り、我々が駆けつけた頃には中央広場一帯が焼け野原になっていました…!」

「街の入り口、および東西の大橋には敵は現れていません!何らかの手段で街中に出現したものと思われます…!」
  
「沿岸部の方はどうなっている?!」 

「こちら沿岸部!フィオーネ古海に多数の呼び声クトゥリアを確認…!中央には正体不明の呼び声を確認…!現在応戦中です!至急応援をお願いします…!」 


 報告にあがった情報から現状把握したオーレダリアが各員に指示を出す。 


「呼び声に関しては私の指揮の元、沿岸部で迎え撃つ!街を襲撃している者に関してはこちらに考えがある!戦える者は即時バザールへ集合しろ!」


 命令を出した後、石印を懐にしまう。
 部屋にはフォーレタニア王和国から来た三人が待機しており、オーレダリアは状況を説明する。 


「街に出現したのは、おそらく邪神教と呼ばれる集団の者です」

「邪神教…。聞いたことはありますが、まさか実在していたとは…」


 初めはおどいた様子で説明を聞いていたティアナも事態の深刻さを理解し、進言する。


「私とバハトナでその者を足止めします。セノは呼び声に襲われている民間人の救助を行って下さい」


 ティアナの判断に普段無口なセノが反論する。


「二人で大丈夫か?」 

「セノの実力を見込んでのお願いです。一通り片付け終わったらこちらに助力して下さい。大丈夫ですよ、バハトナもいますし。足止めをするだけですから」


 わかった。と言わんばかりにセノは先に部屋を出る。 


「それでは、私たちも行きましょう」


 そう言い、バハトナとティアナも迎撃に向かう。


「感謝する」


 オーレダリアは深々と頭を下げる。
 彼女は医療班にも指示を伝え、一階へと駆け降りた。
 降りた先には、煤こけたぬいぐるみを抱えた少女が疲弊した顔で座り込んでいた。


「君、お母さんとお父さんは?」


 オーレダリアは足を止める。


「私が…ママとパパに、ぬいぐるみを取りに行ってもらったせいで…」


 壊れた人形のように生気を失った目でボソボソと呟いている。
 見渡すと腕のない者、体のほとんどが焼け爛れている者が辺りに大量に横たわっている。


「何なんだ…これは…」


 こんな事態は今まで一度もなかった。この水門都市で何が起きているのか。
 惨状を後に、オーレダリアはバザールへと急ぐ。




      ◇ ◇ ◇




 中央広場に向かうバハトナとティアナ。前を走るティアナをバハトナが制止する。 


「止まれ、姫さん!!!何か来る」 


 二人は急ぐ体にブレーキをかける。
 辺りは焼け野原になり、炎と煙が宙を舞っていた。
 正面、煙の中から一人の男が歩いて来る。 


「あれは、やべぇな…。絶対にアタシより前に出るんじゃねぇぞ」


 フォーレタニア王和国傭兵団の中でもかなりの手練れであるバハトナが本能が危険信号を発する。


「止まれ。あんた何者だ?邪神教ってやつか?」


 バハトナが男に問いかける。


「十二使徒、シモン」


 男は立ち止まり答える。
 手には何も持っておらず、武器は見当たらない。


「よくわかんねぇけど、これをやったのはあんたってことは確かだ」 

「後ろは頼むぜ、姫さん」


 バハトナは右腕に装着している巨大な黄金の小手は背中の大剣を握りしめ、いつでも抜剣できる姿勢を取る。
 緊迫した空間の中、辺りを舞う火の粉がパチっと弾け、戦いの火蓋が切って落とされた。

 地面を砕き、跳躍したシモンはバハトナに掴みかかろうとする。
 合わせて後衛を任されたティアナが強化魔術を詠唱する。


「《身体強化ストレングス》」

「《属性耐性付与エレメンタルフォース》」



 バハトナは瞬時に剣を抜き、振り下ろされた大剣がシモンの拳と衝突する。
 熱を帯び赤くひび割れた火拳は辺りに火の粉を撒き散らした。


「…何て力だ。あたしの腕力と競り合えるやつは久々に見たぜ」


 虹銀鉱石ミスリルの大剣、燃えはしないものの徐々に熱を伝え、剣身は溶け始める。


「オ前を、殺ス」


 恐怖を体現したようなシモンの顔が露わとなり、炎はさらに勢いを増す。
 後ろで援護していたティアナの額からは大粒の汗が滴り落ちていた。


「これだけはわかります…。今、私たちが下がれば間違いなく後方に甚大な被害が出てこの都市は崩壊します。なので、何としてもここで時間を稼がなくてはいけません」


 ティアナは額を大きく拭い、覚悟を決める。
 水魔術を詠唱するが、シモンに近づくにつれ暑さは増し、直撃する前に蒸発してしまう。


「私の魔力量では歯が立たないようですね…。それなら」


 強化魔術を得意とするティアナは不得手な攻撃魔術と持ち前の知略で戦況に対応し、次の一手を講じる。
 詠唱と同時に生成された氷の塊は標的との距離を縮めるに先ほどと同じように威力を落としていく。
 しかし、溶けた氷の中からは《水の魔弾アクア・ショット》が繰り出された。
 それはシモンを覆う熱を掻い潜り胴体へと被弾する。


(おかしい。威力が低下しているとは言え、傷一つ着かないはずは…)


 基本的に近接を得意とする者はまず遠距離攻撃を警戒する。なのに、この方はまるで警戒する様子がない。
 一瞬の間に思考を巡らせるティアナは一つの結論に辿り着く。


「バハトナ!おそらく、相手は魔術への高い耐性を持ち合わせています!」


 大声を他所に、放たれる魔術を小石程度にしか思っていないシモンは目前の女傭兵を執拗に狙う。
 攻撃速度はそこまで速くないが、一撃一撃がとてつもなく重い。重撃を受けたバハトナの手は痺れ、殴打の度に熱波が二人を襲う。
 対するバハトナも負けじと攻撃を繰り出しているが、致命傷を与えるには至らず苦戦を強いられる。


「出し惜しみしてる余裕はねぇってわけか」


 火拳を弾いたバハトナは大剣を空へと掲げる。


「よく見とけ、邪神教徒」


 太陽光が魔力へと変換され黄金の巨腕へと吸収されていく。


「これが、〝金色の太陽〟と呼ばれる、あたしの全力だ!!!」


 大地が揺れ、バハトナの右腕に描かれた太陽の紋様が光を放つ。


「《粉砕する巨人の剛腕ティタノマキア》!!!」


 攻撃を受け止めようとするシモンごと黄金の巨腕が地面に叩きつけ、衝撃で周囲一帯の地面が轟音を立て砕け散った。


 正面から大技を喰らったことでシモンの頭部から赤い血が流れる。
 よろけて起き上がる男に追撃をかけようとバハトナは再び大剣を振るう。

 想定外の一撃を受けたシモンは火拳で大剣を受け流そうとするが、受けきれずに薙ぎ払われ大きく後ろへ叩き飛ばされる。


「二ラウンド目といこうぜ、かかってきな」


 解放時間は三十分。太陽の光を魔力に変え、常に自強化がかかった状態のバハトナは瓦礫に埋もれた敵へと距離を詰める。


「…」


 被さる瓦礫を破壊し、先の一撃で外れた肩の骨を強引に差し込む。

 後方にいるティアナがあることに気付く。

 それはバハトナの進行方向で蜃気楼のようにゆらゆらと揺れ、五本ほど宙に浮いていたのだ。
 瞬きをして、赤く揺らいだ“それ”を再度目視した彼女はすぐにそれがただの線ではないことを察した。


「止まって!!!」


 大声での制止も空しく、既にバハトナの身体は線と重なっている。


 ジュゥー。


「ッ!!!」


 突然襲い来る激痛にバハトナは腹部を見た。燃える線状の炎が腹部の肉を焦がし、腹部の一部を焼いていた。
 咄嗟にシモンから距離を取り、腹部の火傷を手で抑える。


「傷を見せてください!」


 駆け付けたティアナは火傷で溶けた皮膚に氷魔術をかけ、応急処置を施す。


「あの熱線…。仕組みはわかりませんが、おそらく相手の能力ギフトです。原理を理解できれば対策も打てるのですが…」

「まだ動けますか?」、そんな質問は無粋だった。


「こんなもん、かすり傷だ。ただ…」


 いつも勝気なバハトナは珍しく口籠る。


「危ないと思ったら私を置いて逃げてくれ。雇用主を生きて返すことが傭兵の義務だからな」


 シモンは手だけなく肩の方まで赤く熱を帯び始め、辺りの暑さが増す。


「《赫灼カクシャク》」


 シモンが指で切り裂いた空中に熱線が走る。

 同じ手を二度は喰らわんと言わんばかりにバハトナは立ち上がり、熱線に気を付けつつ相手へ斬り込む。
 ティアナは水魔術を熱線へと放ち相殺できるかを確認してみるが、熱線に直撃する瞬間、放った水は蒸発する。


(この感触、魔術の干渉が薄い…?)


 ―違和感。
 初めは時限爆弾のようなものかと考えていたが、そうでもない。
 まるでその場所に刻み込まれ、物理的な干渉を許さずに触れたものを焼き尽くしているような。


(空間そのものを焼いている…!?)

(だとしたら、あの熱線で囲まれるとまずい…!外からの援護をほぼ完全に遮断し、逃げ出すこともできない、近接戦闘殺しの疑似的な鳥かごが完成する)


「相手に能力ギフトで閉じ込められたら一貫の終わりです!常に場所を変えながら戦ってください」


 ティアナの並外れた洞察力にシモンの意識が逸れる。


「あノ小娘…厄介ダな」


 全身に軽度の火傷を追っているバハトナは身体に鞭を打って前後左右へと縦横無尽に駆け回る。


「はぁぁぁあ!」


 巨腕が大きく弧を描き、シモンの左半身に直撃する。
 ミシミシと音を立て強靭なシモンの身体へ大剣が食い込む。


「《大紅蓮ダイグレン》」


 剣身が身体を切り裂く前に大剣は爆炎の渦に流され、シモンは横に大きく回転する。
 そして、その勢いでバハトナを熱線の方向へ投げ飛ばす。


「避けてッ!!!」


「…ぐっ!」


 バハトナは焼け身の体を大きくねじり、宙を舞った状態から大剣を地面に突き刺す。
 間一髪のところで熱線を回避することに成功したバハトナだったが、すでに身体は限界を超えていた。
 《粉砕する巨人の剛腕ティタノマキア》の効力が切れ、リチャージに入る。


「十年前、大陸西部に存在していた国が一夜にして焦土と化し、奇跡的に生き残った難民がフォーレタニアへと流れてきたことがありました」

「彼ら彼女らは全員が帯状の火傷を負っており、みな口々に〝一人の襲撃者により国が墜ちた〟と言います」


 回復を施しながらティアナは話す。


「まさか…」


 話の流れ、そして戦闘の実体験からバハトナも察した


「ええ…。私の勝手な予想にですが…相手は〝国墜とし〟です」




 ◇ ◇ ◇




「オ遊びも、コこまでダ…」


 周囲に異常な圧迫感と緊張が走る。



「《我が身を灼く復讐の業火インテンス・オブ・カリエンテ》」



 シモンの身体を灼熱が包み、その余波で中央広場から数キロ先までが赤く染まる。
 男の髪は波打つ炎へと変化し、全身が赤くひび割れ、マグマのように燃えていた。
 踏みつけた地面は赤く膨れ上がり、やがて発火する。



 




 剥き出しの殺意が自分に向けられているものでないことにバハトナは気付く。


「姫さん、逃げろ!!」


 咄嗟に飛び出したバハトナがティアナの前に割って入るが、受けた拳から湧き出る炎の爆風で弾き飛ばされる。
 バハトナは喉が焼けて息をするのもやっとの状態で、左手は使い物にならないほどの重症を負っている。


「何…やって…んだ、姫さん。あたしのことはい…い。はやく…逃げろ」


 突き立てた大剣の柄を強く握りしめ、意識を保っているバハトナにはその場に膝をつく姿勢が精一杯だった。


「…嫌です」


 本来であればここから逃げて、生き残ることを最優先にするのが王族として成すべき義務だということは理解していた。
 その結果が身を挺して自分を守ってくれたバハトナに対して報いることになるというのもティアナはわかっていた。
 だが、ティアナにも譲れぬものがあったのだ。


「私は…!フォーレタニア王和国の次期国王候補です!目前の友人を助けられずして国の行く末を担う王にはなれません!」

「バハトナ、ずっと一緒にいるって約束したでしょ?」


 王族と傭兵。幼い頃から自分を慕ってくれている数少ない人物。


(あたしがずっと守ってやるよ!護衛についたら、ティアナは安心だろ!)


 あの時の一言が嬉しかった。バハトナは彼女にとってかけがえのない友人だった。


「馬鹿…やろ…う」


 シモンから発せられる熱に火傷が疼き、バハトナはとうとう倒れ込む。


「大丈夫、きっと来てくれるから」


 ティアナはバハトナに笑いかけ、決意を固めた表情で魔術を詠唱し始める。


「《水の魔弾アクア・ショット》、《押し流す水流イル・アクア》、《氷の魔弾アイシクル・ショット》!」


 連続で魔術を放つ。効き目がないことはわかっているが、彼女にはこれしかできなかった。
 一分でも一秒でも何とか時間を稼ごうとするが、当たった魔術はすぐに拡散してしまい、目の前の巨体に傷一つけることができない。それでもティアナは諦めなかった。

 バハトナが戦闘不能になるのを確認したシモンは再びもう一人の女へと殺意を定める。


「うッ!」


 シモンの火拳が腹部にねじ込まれ、そのまま首を鷲掴みにされる。
 ティアナは声もあげることができず、激痛に見舞われながら死を覚悟する。

 手中の女にゴミを見るかのような視線を向け、シモンは言う。


「大切、なもノ?虫唾ガ走る…。大切に、シてきたもノほど、簡単に奪われル。奪うヤツらハ、全員殺サなけれバならナイ」


 首が軋む音がする。息ができず、力が段々抜けていく。
 バハトナは全身火傷で倒れ、息はあるようだが微動だにしない。


「絶望シテ…息絶えロ」


 首を絞める手は力を増していき、ティアナの意識は薄れる。
 目からは涙がこぼれ、シモンの手に当たると同時に消えてなくなる。


「お…兄さ…ま」


 意識が消える瞬間、身体がふわりと浮く。

 温かなぬくもりに包まれた後、ティアナはそっと地面へ置かれた。




      ◇ ◇ ◇





 ―ジャキンッ。



 一瞬の隙にシモンの腕はティアナな首から離れ、蹴り飛ばされる。


「バハトナ…守ってくれて助かった」

「ティアナ、ゆっくりと休め」


 二人に治癒のポーションを飲ませ、横たわらせる。

 男は鞘がついた剣をその手に取る。
 そこにはもう一人の護衛であり、フォーレタニアの剣鬼と呼ばれるセノが立っていた。


「話にハ、聞いテいたガ、オ前が…」

「第一王子が何故、妹ノ護衛などシてイル?」


 王女の護衛でありながら、自身の身分を隠すフォーレタニア第一王子、〝セノ・アルベリッヒ・フォーレタニア〟。彼の名前だけは他国へと知れ渡っているが、公の場に姿を現すことはほとんどない。


「俺は面倒事に向いていないんだ。さっさとケリをつけよう」


 普段気だるげなセノは居合の構えを取る。

 シモンは嘲笑した表情から一変し、火拳で攻撃しようとする。
 攻撃がセノの間合いに入った瞬間、鞘をつけたままの剣は腰から引き抜かれ、溶岩のような身体を砕き、燃える腕を叩き折る。

 抜剣派特有の強烈なカウンターが直撃し、シモンは距離を取らされる。


「こノチカラ…魔装カ…?!、エーデルワルトがイれバ魔装かドウカ判断でキたガ…」


 魔装と思われるセノの武器の権能を把握していない現状で、戦いを長引かせるのは不利と判断したシモンはすぐさま追撃する。

 セノも剣を腰へ戻し、再び居合の構えを取った。
 シモンの火拳が目にも止まらぬ速さでセノに繰り出され、それをセノが迎撃する。

 何十手、何百手と攻防が繰り広げられ、両者互角に渡り合う。
 鞘から剣身を抜かないセノにシモンは苛立ちを覚え始める。


「《憤怒の炎塊カラミティア》」


 獄炎の火柱がセノの脇腹と左腕を襲う。
 焦げた服からは火傷を負った生身が露わになり、足で敵を押し蹴って後ろへ大きく飛ぶ。

 敵が距離を取った隙にシモンは即座に天へと手を掲げ、纏う炎を一点に集中させ始めた。


「《天灼の太陽》!!!」


 中央広場を灼炎の球体が覆い、その熱量で辺りは唇が自然に切れるほど乾燥する。


「…」


 セノはこの技が相手の切り札だと察し、自身も最強の一撃で技を打ち破らんと姿勢を取った。
 いつでも鞘から剣を抜ける状態にする。


「燃え尽キロ!!!」


 シモンは掲げた手を下げ、球体は徐々に地面へと落ちていく。

 家屋は炎に燃やし尽くされ、球体が地面に当たる直前で目を開いたセノは抜剣し、閃光の如き速度でシモンと球体を斬り刻む。


「―《次元断》」


 フォーレタニア王和国が所持する魔装十二振・〝翡翠剣〟。

 国家の秘宝と呼ばれ、王和国で一番の強さを持つ者に貸し与えるといわれている。
 その権能は、〝斬った物を次元から消滅させる〟というもので、斬られた相手は世界から完全に抹消され、その存在はなかったことになる。
 しかし、触れれば相手を消滅させることができるこの能力はその強力さ故に副作用があり、消滅させた物の記憶が所有者に流れ込み、フラッシュバックしてしまう。
 突如流れ込む莫大な記憶により使用者の脳が破壊される可能性もあり、最悪の場合、所有者を死に至らしめる。
 それ故にセノは普段この剣を抜くことができずにいた。


「ア…がぁ、セシ…リ…ァ」


 両断された次元は徐々にひび割れ、斬られたシモンはガラスのようにボロボロと崩れ始める。
 崩れた次元の中からはシモンが存在していない世界として新たに構築された世界の景色が顔を見せた。

 そして、セノの脳にシモンの過去が強制的に流れ込む。

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