暗澹のオールド・ワン

ふじさき

文字の大きさ
38 / 47
第五章 風嵐都市編

第三話「暗黒の王」

しおりを挟む

 ‶神拠サラカリス・ビオトープ〟から聖騎士たちが発ってから数十分後。

 閉ざされた扉が開く。


「来たか」


 禍々しい邪気を放つ何かが部屋へと侵入して来た。
 護衛のため唯一残っていた七翼の聖騎士《六席》・クロエは抜刀の構えを取る。

 徐々に近付くその人物は顔に仮面を被り、邪神教の祭服を身に纏っている。


「風嵐神ファルファレラ、忌々しい旧神の一角よ」

「我を覚えているか?」


 仮面の人物は問いかける。


「その気配…人ではないな。何者だ」


 黒いオーラが範囲を増し、触手のような形に変化していく。
 謎の人物は仮面をゆっくと外した。

 その顔は人の顔を成しておらず、蛸のような見た目の異形が現れる。


「暗黒の王・クトゥルフ、か」


 ファルファレラは驚きで目を見開く。


「この千五百年間、どれだけ待ちわびたことか…今こそ我は復活を果たし、世界を創造してくれる」


 完全な権限ではないにも関わらず、十二使徒を凌駕する邪悪さが全身から滲み出る。


「神王陛下!お下がり下さい」


 クロエが能力で敵の弱点を視認する。


「《悪即斬》!」


 放たれた心閃一刀はクトゥルフへ直撃するが、黒い触手に渾身の一撃を防がれてしまう。
 次の攻撃に移ろうとしたクロエを触手で拘束した。


「ぐ…!!」


 首を締め上げられるクロエの背後から風魔術が触手目がけて放たれる。


「《狂い風の聖十字》」


 拘束していた触手が切り落とされる。

 切り落とされた触手はクトゥルフに吸収され、切断面からは新たな触手が生えてきた。


「悪くない。この星のものにしては良い威力だ」


 余裕の表情であしらう。
 一足即発の空気を壊すように‶神拠〟に三人の聖騎士が入って来た。


「神王陛下!!」


 レイシアたちは即座に戦闘態勢を取り、武器を手に取る。


「邪魔をするな。分をわきまえよ」


 聖騎士たちの足元から触手が生え、全員の心臓を貫いた。
 絶命し、倒れていく聖騎士たちをファルファレラは何も言わずに見つめる。


「どうした、貴様の手駒が殺されて怒りを覚えぬのか?」


 嵐神教会のトップを愚弄し、挑発するクトゥルフ。
 ファルファレラは席を立ち、階段を降り始める。


「よい、いずれ殺す予定だった。私の計画をこの者たちに気付かれる訳にはいかないのでな」


 思いがけぬ回答にクトゥルフは立ち止まる。


「貴様…、この気配…!!」


「もう遅い」

「‶貪り喰らう者グレイプニル〟」


 ファルファレラが隠し持っていた魔装十二振がクトゥルフを拘束する。
 全力で抜け出そうとするクトゥルフだが、対邪神の糸は更に強く標的を締め上げた。


「これは起動するのが難しくてな。まず、標的の一部を獲得する必要がある。これに関しては貴公の触手を切り落とした際に断片を回収させてもらった」

「次に、標的を‶檻〟に閉じ込めることだが…。これは‶神拠〟自体を一つの‶檻〟と設定することで成立しており、貴公がこの部屋に入った時点で条件は達成されていたというわけだ」


 クトゥルフはこの糸を知っている。

 全盛期、とある邪神との戦いで使用されたことがあったからだ。
 発動すれば必ず対象を拘束し、抵抗すればするほど拘束力が増し、やがては対象をねじ切る糸。


「どうやって封印を解いた、黄衣の皇太子・ハスター…!!」

「数十年前から生命たちをかどわかし、徐々にこの地で紛争や内乱を起こす事で封印を弱めた。最後は人間という生命の手によって解き放たれたのだ」

「風嵐神は実に物分かりが良いやつだったぞ。完全なる復活を遂げた私が、民を殺すと脅しただけでその身を明け渡してくれたのだから」


 風嵐神ファルファレラの正体は邪神の一柱、黄衣の皇太子・ハスターだったのだ。
 ハスターはファルファレラの身体を乗っ取り、牙城で着々と牙を研いでいた。


「貴様がわざわざこの都市に攻め入ってくれたおかげで、‶生命に危害を加えてはならない〟という風の旧神との契約も無視して計画を成し得ることができたのだ。感謝するぞ、クトゥルフ」


 ハスターは拘束されているクトゥルフの前へと立つ。


「何か言い残すことはあるか?邪神戦争最大の強敵よ」


 地面から一本の槍を取り出し、手に持った。


「その槍…。まさか我の手中に反逆者がいたとはな…」

「なぜ今、我らが行動に出たか…。貴様は後悔することになるぞ…」


 今際の際にクトゥルフは言い残す。



 ―グシャンッ!!



 槍はクトゥルフの腹部を貫き、やがて呪いが全身へと回る。
 ボロボロと灰のように崩れ落ちる宿敵を見て、ハスターは静かに笑っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...