暗澹のオールド・ワン

ふじさき

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第五章 風嵐都市編

第四話「反逆」

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 四つに分かたれた四針地区のイースディアでも邪神教の暴動は起こっていた。
 逃げ惑う人々を次々と斬り捨てていくのは十二使徒・ペイルローズ。

 彼女は背丈を優に超える大剣を手に、神拠へと足を進めていく。


「突然の地殻変動…ここは外れか」


 万象の宝球で飛ばされてから辺りを見回ったが、迎撃を行う聖騎士も風嵐神も見当たらない。
 どうやら神拠から随分と離れた都市の街中へと転移させられてしまったようだ。

 そんな中、一つの気配を感じる。

 神拠サラカリス・ビオトープの方を見上げる一人の男。


「ダイダリオス、貴様もここへ瞬間移動させられたのか?」


 邪神教、十二使徒・ダイダリオス。
 灰色の髪をした眼帯の男は後ろを振り向く。


「まさか俺も瞬間移動の対象に含まれているとはな」


 ダイダリオスの腕が黒々とした漆黒の外装へと変化する。


「ふん、なるほど。前から怪しいとは思っていたが裏で手を引いていたのはやはり貴様か」



 ペイルローズは外套の中から背負っていた白い大剣とは違う、黒い大剣を取り出した。
 両手に持っているのは魔装十二振の、〝魔剣・五穿大公〟と〝魔剣・アスカロン〟。


「オレは七翼の聖騎士《一席》。邪教徒ども、覚悟しろ」


 十二使徒と十二使徒の戦いが始まる。


「《剣界領域》」



 




 ペイルローズの半径十メートルに特殊な空間が形成された。
 この特殊空間はペイルローズを軸に移動し、範囲内にある武具の性能を大きく向上し、真の力を解放する。
 つまり能力ギフトにより、魔装十二振は本来を大きく上回る効果を発揮するのだ。

 邪神教が集めた魔装十二振を彼女は手にする。


「〝五穿大公〟!!」


 背中に差したままの四つの大剣が宙へ放たれ、真下の地面へと突き刺さる。
 右手に装備した大剣をダイダリオスへと向けた。



 ―バンッ!!



 地面を砕き、勢いよくダイダリオス目がけて放たれる。


「それが五穿大公の力か」


 ダイダリオスは追尾して来る四本の大剣を的確に弾き返すが、その中の一本が腹部を貫く。
 飛散した斬撃の衝撃波が周りの家屋を木っ端微塵に破壊した。
 剣に自動攻撃を命じたまま、ペイルローズはダイダリオスとの距離を詰める。


「《撃ち墜とす天黒の剣ダウン・フォール》!」


 魔剣・アスカロンが放つ重力の一撃がダイダリオスへと圧し掛かる。
 加重によって圧し潰すつもりで放った一撃は寸前で消滅した。


「…ッ!!」


 驚くペイルローズにダイダリオスが告げる。


「お前が俺の能力ギフトを見るのは初めてだったな」

「その能力…、邪眼が貴様の能力だと思っていたが…まさか能力の無効化だったとはな」


 ダイダリオスは腕に纏った漆黒の装甲で能力による現象を無効化したのだ。


「この能力はお前たちの主、邪神クトゥルフから手に入れたものだ」

「そしてこの邪眼は…お前たちを葬るためにあの方から授かった」


 ダイダリオスは左目の眼帯を外し、〝邪眼〟も同時に解放する。
 目にも止まらぬ速さで跳躍したダイダリオスとペイルローズが激突する。

 能力を無効化され思うように武具を発揮できないペイルローズだが、《剣界領域》を発動した状態で次々と武具を持ち替えながら戦う。


「触れたものしか無効化はできないようだな、なら…触れられなければいいだけだ!」


 ダイダリオスに触れられてしまえば《剣界領域》が解除されてしまう。
 ペイルローズは弾き落とされ無効化された五穿大公を再び自身の能力下へと戻し、飛翔させた。
 周囲を巻き込みながら激しい攻防が続く。


「ッ!!」


 ダイダリオスの鋭い右手がペイルローズの腹部を裂いた。
 相手が怯んだその隙を見逃さなかったダイダリオスはそのままの反対の手で肩を貫く。
 男は勝ちを確信し、手を抜こうとした。

 だが…抜くことができない。


「逃が…さんぞ」


 剣士として鍛えられた強靭な筋肉が男の腕を締め上げる。
 ダイダリオスは腕を必死に引き抜こうとするがビクともしない。


「貴様の片腕だけでもいただいていくぞ」


 ペイルローズは外套から青白く光る刀を取り出し、刺さった腕へと刃を向けた。
 振り下ろした刀はダイダリオスの腕の付け根、外装がない部分を両断する。



 ―ザシュッ。



 斬り落とされた腕からは鮮血が飛び散った。
 それと同時に致命傷を負ったペイルローズは地面に倒れ込む。

 片腕を失ったダイダリオスは後ろを大きく跳躍したあと、苦悶の表情を浮かべる。


「…腐っても十二使徒か」


 どうにか相討ちは免れたものの、ダイダリオスは痛手を負った。
 傷を能力で覆い、止血する。


 息をつく暇もなく、風の斬撃が襲い掛かって来る。


「…お前は」


 ダイダリオスの表情が険しくなる。
 覚えのある気配がダイダリオスへ近付いて来ていた。

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