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121:銀太との約束?(2)
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「……わかった」
美緒は手を握り、無理やり唇の両端を持ち上げた。
鼻の奥が痛み、涙が零れそうになるのを我慢して言う。
「それが銀太くんの意思なら……受け入れるよ。もう、いますぐ消えちゃうの?」
「ううん。アマネ様に送ってもらう。アマネ様の舞はね、ヨガクレに溜まった瘴気を吹き飛ばすのと同時に、葬送の舞でもあるの。周囲に害をもたらすような、たちの悪い悪霊は問答無用で飛ばされてしまうけど、善良な幽霊は、自ら望めばという条件付きで幽世へ送ってくださるの。自分の意思で旅立つこともできるけど、どうせなら綺麗な舞で送ってもらいたいでしょう? だから大体みんなアマネ様に送っていただくんだよ」
「……そんな話聞いてない……」
俯き、呟く。
「うん。言ったら美緒が不安になるかなと思って言わなかったの。ごめんね」
「……さっきから銀太くん、謝ってばっかりだね」
歩み寄り、すぐ傍に来た銀太に、美緒は手を伸ばした。
綺麗な銀色の毛並みを持つ狐。触れたいのに、触れられない。
彼と出会ったときのこと、再会したときのこと、姫子を交えて花見をしたこと。
これまでの思い出が走馬灯のように蘇り、滴がカーペットに落ちた。
「……ねえお兄ちゃん、身体貸して」
「ああ。狐になるか?」
「ううん、そのまんまでいいよ」
銀太がそう言うと、朝陽は目を閉じた。
銀太が床を蹴って飛び、そのまますうっと朝陽の身体に吸い込まれて消える。
そして朝陽が――朝陽の身体に乗り移った銀太が、目を開けた。
「憑依できるっていいよねえ。恵海さんに教わる前に知ってたらもっと早く触れ合えたのにね」
銀太は朝陽の声で言って、美緒の頬に触れ、涙を拭った。
「本当だね。でも、朝陽くんの身体だと思うとちょっと照れるかな」
朝陽の手に自分のそれを重ねて笑う。
「そう? 恵海さんが姫子に乗り移って、抱きしめたときは全然恥ずかしそうじゃなかったじゃない」
「そりゃあ、同性と異性とは違うよ。やっぱり」
「じゃあもっと照れさせちゃえー」
銀太が朝陽の身体で抱きしめてくるものだから、美緒は赤面した。
「あらまあ」と母は目を逸らし、すっと消えた。
気を利かせて席を外してくれたようだ。
「え、え、いや。あの。銀太くん。だから、照れるから……」
腕の中に閉じ込められ、顔を赤くしたまま小さな声で訴えると、銀太は「ふふ」と笑い声をあげた。
あくまで朝陽の声でそう言うものだから違和感が激しい。
朝陽も照れているのではないだろうか。
眠っているならともかく、起きていた場合、憑依されている間も意識はちゃんとあるのだから。
「しばらくはこのまま抱きしめさせてよ。これが最後なんだから。ね?」
「…………うん、わかった」
これは朝陽ではなく銀太。そう思えば照れも少しは軽減され、美緒は彼の背中にそっと腕を回した。
そのまま目を閉じて、抱き合う。
「ぼく、美緒のこと大好きだよ」
耳元で囁かれて、美緒はまた泣きそうになった。
美緒は手を握り、無理やり唇の両端を持ち上げた。
鼻の奥が痛み、涙が零れそうになるのを我慢して言う。
「それが銀太くんの意思なら……受け入れるよ。もう、いますぐ消えちゃうの?」
「ううん。アマネ様に送ってもらう。アマネ様の舞はね、ヨガクレに溜まった瘴気を吹き飛ばすのと同時に、葬送の舞でもあるの。周囲に害をもたらすような、たちの悪い悪霊は問答無用で飛ばされてしまうけど、善良な幽霊は、自ら望めばという条件付きで幽世へ送ってくださるの。自分の意思で旅立つこともできるけど、どうせなら綺麗な舞で送ってもらいたいでしょう? だから大体みんなアマネ様に送っていただくんだよ」
「……そんな話聞いてない……」
俯き、呟く。
「うん。言ったら美緒が不安になるかなと思って言わなかったの。ごめんね」
「……さっきから銀太くん、謝ってばっかりだね」
歩み寄り、すぐ傍に来た銀太に、美緒は手を伸ばした。
綺麗な銀色の毛並みを持つ狐。触れたいのに、触れられない。
彼と出会ったときのこと、再会したときのこと、姫子を交えて花見をしたこと。
これまでの思い出が走馬灯のように蘇り、滴がカーペットに落ちた。
「……ねえお兄ちゃん、身体貸して」
「ああ。狐になるか?」
「ううん、そのまんまでいいよ」
銀太がそう言うと、朝陽は目を閉じた。
銀太が床を蹴って飛び、そのまますうっと朝陽の身体に吸い込まれて消える。
そして朝陽が――朝陽の身体に乗り移った銀太が、目を開けた。
「憑依できるっていいよねえ。恵海さんに教わる前に知ってたらもっと早く触れ合えたのにね」
銀太は朝陽の声で言って、美緒の頬に触れ、涙を拭った。
「本当だね。でも、朝陽くんの身体だと思うとちょっと照れるかな」
朝陽の手に自分のそれを重ねて笑う。
「そう? 恵海さんが姫子に乗り移って、抱きしめたときは全然恥ずかしそうじゃなかったじゃない」
「そりゃあ、同性と異性とは違うよ。やっぱり」
「じゃあもっと照れさせちゃえー」
銀太が朝陽の身体で抱きしめてくるものだから、美緒は赤面した。
「あらまあ」と母は目を逸らし、すっと消えた。
気を利かせて席を外してくれたようだ。
「え、え、いや。あの。銀太くん。だから、照れるから……」
腕の中に閉じ込められ、顔を赤くしたまま小さな声で訴えると、銀太は「ふふ」と笑い声をあげた。
あくまで朝陽の声でそう言うものだから違和感が激しい。
朝陽も照れているのではないだろうか。
眠っているならともかく、起きていた場合、憑依されている間も意識はちゃんとあるのだから。
「しばらくはこのまま抱きしめさせてよ。これが最後なんだから。ね?」
「…………うん、わかった」
これは朝陽ではなく銀太。そう思えば照れも少しは軽減され、美緒は彼の背中にそっと腕を回した。
そのまま目を閉じて、抱き合う。
「ぼく、美緒のこと大好きだよ」
耳元で囁かれて、美緒はまた泣きそうになった。
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