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13:悪夢
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「フィルディス様!!」
私は悲鳴を上げ、エミリオ様は繋いでいた手を離して急停止した。
突然手を離された私は、たたらを踏んで止まった。
身体ごと振り返れば、エミリオ様は金髪を風になびかせ、遊歩道の手すりの上に立って海面に目を凝らしている。
私も手すりを掴んで身を乗り出した。
少しの異常も見逃すまいと、食い入るように海を眺める。
でも、クラーケンはフィルディス様たちを捕まえてよほど深く潜ってしまったのか、海の上からでは何もわからない。
フィルディス様たちは大丈夫なのか。焦燥ばかりが胸を焼いた。
左手に見える崩壊した桟橋から人が次々と海に飛び込んでいく。
勇気ある人々は己の危険を顧みず、二人を捜索してくれるようだ。
彼らがフィルディス様たちを見つけてくれれば良いのだけれど……どうか、どうか、無事でいて。
「あっ!!」
祈っていたそのとき、遠く離れた海面に赤い頭が現れた。
「桟橋に連れて行く!! リーリエも来て!!」
「わかりました!!」
私の返答を聞き終わるよりも早く、エミリオ様は手すりの上から飛び降りた。
風の魔法を纏った彼は滑るように宙を飛び、赤髪の女性を捕まえて桟橋に運んだ。
私は走りながら、前方と右手に広がる海を交互に見た。
赤髪の女性が浮上した辺りにフィルディス様が現れないかと思ったけれど、海は沈黙したままだ。
フィルディス様が海に落ちて既に五分は経過している。
もし水中でクラーケンと戦ったとしたら、ただ潜水するより遥かに早く酸素を消費しているはず……。
不安を振り払うべく、私はただ前だけを見据えて駆けた。
息を切らして辿り着いた桟橋は大部分が消失していた。
桟橋の残骸が辺りの海面を力なく漂っている。
崩壊した桟橋の前の陸地には多くの人が集まっていた。
赤髪の女性は座り込んだ状態で布にくるまれ、介抱されていた。
疲労困憊しているようだけど、きちんと会話に応じていることからして、彼女はもう大丈夫だ。
会話の最中、赤髪の女性は潤んだ目で前方にある桟橋を見た。
何故そんなに悲しそうな顔をしているのだろう。
不思議に思いながら視線を追って、桟橋に横たわるフィルディス様の姿を見つけた。
「!!」
私は弾かれたように駆け出した。
人々の隙間を縫って走り、フィルディス様の元に向かう。
捜索にあたってくれた人たちらしく、フィルディス様を囲むように立つ五人の男女は全員ずぶ濡れだった。
フィルディス様の傍には見知らぬ男性とエミリオ様がいた。
他の人たちと同じように、エミリオ様は無言で俯き、フィルディス様の顔を眺めている。
「…………?」
嫌な予感が膨れ上がる。
何故フィルディス様は仰向けに倒れたきり動かないのだろう。
何故みんな暗い顔で押し黙っているのだろう。
まるで――私はその先に浮かんだ言葉を消去した。
それは絶対にあってはならない、考えたくもない言葉だったから。
「ああ……あんたもこいつの知り合いか」
フィルディス様の傍にいた男性が立ち上がり、横に退いて場所を譲ってくれた。
「……。リーリエ。残念だけど……」
エミリオ様が俯いたまま、涙声で言った。
残念とは何のことなのか。知りたくない。聞きたくない。
私は男性と入れ替わるようにして、エミリオ様の向かい側に跪いた。
フィルディス様の顔面は青を通り越して白かった。生気がまるで感じられない。
海に落ちた拍子に桟橋の残骸で傷つけたのか、彼の左腕には酷い裂傷があった。
右肩には穴が開いている。穴は背中まで貫通しているようだった。
「…………」
何なのだろうこれは。
悪い夢でも見ているのだろうか。
だって、ついさっきまでは笑っていたのに。
一緒に美味しい海鮮料理を食べようとしていたのに。
私は何かに操られているような気分で、フィルディス様の胸に自分の耳を押し当てた。
心臓の鼓動が……聞こえない。
私は悲鳴を上げ、エミリオ様は繋いでいた手を離して急停止した。
突然手を離された私は、たたらを踏んで止まった。
身体ごと振り返れば、エミリオ様は金髪を風になびかせ、遊歩道の手すりの上に立って海面に目を凝らしている。
私も手すりを掴んで身を乗り出した。
少しの異常も見逃すまいと、食い入るように海を眺める。
でも、クラーケンはフィルディス様たちを捕まえてよほど深く潜ってしまったのか、海の上からでは何もわからない。
フィルディス様たちは大丈夫なのか。焦燥ばかりが胸を焼いた。
左手に見える崩壊した桟橋から人が次々と海に飛び込んでいく。
勇気ある人々は己の危険を顧みず、二人を捜索してくれるようだ。
彼らがフィルディス様たちを見つけてくれれば良いのだけれど……どうか、どうか、無事でいて。
「あっ!!」
祈っていたそのとき、遠く離れた海面に赤い頭が現れた。
「桟橋に連れて行く!! リーリエも来て!!」
「わかりました!!」
私の返答を聞き終わるよりも早く、エミリオ様は手すりの上から飛び降りた。
風の魔法を纏った彼は滑るように宙を飛び、赤髪の女性を捕まえて桟橋に運んだ。
私は走りながら、前方と右手に広がる海を交互に見た。
赤髪の女性が浮上した辺りにフィルディス様が現れないかと思ったけれど、海は沈黙したままだ。
フィルディス様が海に落ちて既に五分は経過している。
もし水中でクラーケンと戦ったとしたら、ただ潜水するより遥かに早く酸素を消費しているはず……。
不安を振り払うべく、私はただ前だけを見据えて駆けた。
息を切らして辿り着いた桟橋は大部分が消失していた。
桟橋の残骸が辺りの海面を力なく漂っている。
崩壊した桟橋の前の陸地には多くの人が集まっていた。
赤髪の女性は座り込んだ状態で布にくるまれ、介抱されていた。
疲労困憊しているようだけど、きちんと会話に応じていることからして、彼女はもう大丈夫だ。
会話の最中、赤髪の女性は潤んだ目で前方にある桟橋を見た。
何故そんなに悲しそうな顔をしているのだろう。
不思議に思いながら視線を追って、桟橋に横たわるフィルディス様の姿を見つけた。
「!!」
私は弾かれたように駆け出した。
人々の隙間を縫って走り、フィルディス様の元に向かう。
捜索にあたってくれた人たちらしく、フィルディス様を囲むように立つ五人の男女は全員ずぶ濡れだった。
フィルディス様の傍には見知らぬ男性とエミリオ様がいた。
他の人たちと同じように、エミリオ様は無言で俯き、フィルディス様の顔を眺めている。
「…………?」
嫌な予感が膨れ上がる。
何故フィルディス様は仰向けに倒れたきり動かないのだろう。
何故みんな暗い顔で押し黙っているのだろう。
まるで――私はその先に浮かんだ言葉を消去した。
それは絶対にあってはならない、考えたくもない言葉だったから。
「ああ……あんたもこいつの知り合いか」
フィルディス様の傍にいた男性が立ち上がり、横に退いて場所を譲ってくれた。
「……。リーリエ。残念だけど……」
エミリオ様が俯いたまま、涙声で言った。
残念とは何のことなのか。知りたくない。聞きたくない。
私は男性と入れ替わるようにして、エミリオ様の向かい側に跪いた。
フィルディス様の顔面は青を通り越して白かった。生気がまるで感じられない。
海に落ちた拍子に桟橋の残骸で傷つけたのか、彼の左腕には酷い裂傷があった。
右肩には穴が開いている。穴は背中まで貫通しているようだった。
「…………」
何なのだろうこれは。
悪い夢でも見ているのだろうか。
だって、ついさっきまでは笑っていたのに。
一緒に美味しい海鮮料理を食べようとしていたのに。
私は何かに操られているような気分で、フィルディス様の胸に自分の耳を押し当てた。
心臓の鼓動が……聞こえない。
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