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01:ピアノに釣られた残念イケメン(1)
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聞き惚れるほど美しいピアノの旋律が流れてきたら、どんな演奏者を想像するだろうか。
この学校――私立赤咲学園の一部の男子生徒は演奏者が音楽に比例した美少女であることを期待し、胸をときめかせてしまうらしい。
「ちぇ。ブスじゃん」
自身が奏でる繊細なピアノの音の隙間に、舌打ちとそんな言葉が聞こえてきて、危うく手元が狂いそうになった。
落ち着け。平常心、平常心。
こめかみが引きつるのを感じながらも、意地で何事もなかったかのように『ノクターン 第2番 変ホ長調 op.9-2』を弾き続ける。
「おい、ブスっていうのは言い過ぎだろ。言うほど悪くねーよ、普通じゃん。俺らが期待値をあげすぎたんだって」
ちょっと、音楽室の外にいるそこの男子たち!
聞こえてる! ばっちり聞こえてますから!
聞いての通り、この曲は夜想曲《ノクターン》!
夜の情緒を表現した、穏やかで優しい曲なの!
あなたたちの無神経な声をピアノの音でかき消すのは無理だから!
この美しい曲を激しく弾くなんてありえない、ショパンへの冒涜だから!
「でもこれだけ上手かったらどんな美少女かって思わねえ? 詐欺じゃん。来て損したわ、帰ろうぜ」
「あーあ、末浪《すえなみ》さんとかだったら喜んで声をかけたのになー」
「バーカ、末浪さんがお前なんて相手にするかよ」
好き放題に言って、名前も知らない男子たちは去っていった。
友達の末浪有紗の名前が出るってことは、同学年の生徒だったみたいだ――まあ、どうでもいいけど。
「………………」
最後の一音を弾き終えてから、ぐったりして背中を丸め、深いため息をつく。
ただピアノを弾いてただけなのに、なんでこんな惨めな思いをしなきゃいけないの……。
開け放った窓から強い風が吹き込んできて、カーテンの裾がぱたぱた揺れ、私のセミロングの髪も揺れた。
私――こと、茅島日菜子《かやしまひなこ》がいるのは、特別校舎の二階の突き当りにある第二音楽室。
ここにはOBから寄贈された立派なグランドピアノがあって、誰でも自由に弾くことができる。
結構人気なスポットで、生徒たちが集まって『猫ふんじゃった』を連弾してみたり、あなたプロですか? って聞きたくなるくらいに上手な生徒がクラシックを奏でてみたり、ときには流行りの曲に乗せてカラオケ大会が行われたりしている。
昼休憩中、たまたま特別校舎の前を通りかかったらピアノの音が聞こえなかったから、これ幸いと中に入り、ピアノを奏でていたのだけれど……何なんださっきから。
思うのは自由だよ。
でも、口に出さないでよ!
最低限のマナーでしょう!?
ついさっき、廊下に面した扉の窓ガラス部分から音楽室を覗いて、無言で引き返していった男子生徒のほうがよっぽど紳士だったわ!!
この学校――私立赤咲学園の一部の男子生徒は演奏者が音楽に比例した美少女であることを期待し、胸をときめかせてしまうらしい。
「ちぇ。ブスじゃん」
自身が奏でる繊細なピアノの音の隙間に、舌打ちとそんな言葉が聞こえてきて、危うく手元が狂いそうになった。
落ち着け。平常心、平常心。
こめかみが引きつるのを感じながらも、意地で何事もなかったかのように『ノクターン 第2番 変ホ長調 op.9-2』を弾き続ける。
「おい、ブスっていうのは言い過ぎだろ。言うほど悪くねーよ、普通じゃん。俺らが期待値をあげすぎたんだって」
ちょっと、音楽室の外にいるそこの男子たち!
聞こえてる! ばっちり聞こえてますから!
聞いての通り、この曲は夜想曲《ノクターン》!
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あなたたちの無神経な声をピアノの音でかき消すのは無理だから!
この美しい曲を激しく弾くなんてありえない、ショパンへの冒涜だから!
「でもこれだけ上手かったらどんな美少女かって思わねえ? 詐欺じゃん。来て損したわ、帰ろうぜ」
「あーあ、末浪《すえなみ》さんとかだったら喜んで声をかけたのになー」
「バーカ、末浪さんがお前なんて相手にするかよ」
好き放題に言って、名前も知らない男子たちは去っていった。
友達の末浪有紗の名前が出るってことは、同学年の生徒だったみたいだ――まあ、どうでもいいけど。
「………………」
最後の一音を弾き終えてから、ぐったりして背中を丸め、深いため息をつく。
ただピアノを弾いてただけなのに、なんでこんな惨めな思いをしなきゃいけないの……。
開け放った窓から強い風が吹き込んできて、カーテンの裾がぱたぱた揺れ、私のセミロングの髪も揺れた。
私――こと、茅島日菜子《かやしまひなこ》がいるのは、特別校舎の二階の突き当りにある第二音楽室。
ここにはOBから寄贈された立派なグランドピアノがあって、誰でも自由に弾くことができる。
結構人気なスポットで、生徒たちが集まって『猫ふんじゃった』を連弾してみたり、あなたプロですか? って聞きたくなるくらいに上手な生徒がクラシックを奏でてみたり、ときには流行りの曲に乗せてカラオケ大会が行われたりしている。
昼休憩中、たまたま特別校舎の前を通りかかったらピアノの音が聞こえなかったから、これ幸いと中に入り、ピアノを奏でていたのだけれど……何なんださっきから。
思うのは自由だよ。
でも、口に出さないでよ!
最低限のマナーでしょう!?
ついさっき、廊下に面した扉の窓ガラス部分から音楽室を覗いて、無言で引き返していった男子生徒のほうがよっぽど紳士だったわ!!
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