私のピアノは君を呼ぶ

28：彼らの過去（４）

「……飛び蹴りと暴言はどうかと思いますが」
　フラッペを飲み切って、空になったカップを静かに置き、

「でも、友達のために怒れる真渕くんは、確かにいい男だと思いますよ」

　御厨先輩が微笑んだ。
　駆先輩が虚をつかれたような顔をする。

「私もそう思います」
「オレも」
　私と光畑くんが同意すると、駆先輩はなんだか複雑な顔をした。
　いつも飄々としているのに、真面目に褒められると対応に困るらしい。

「……なあにー、みんなして。別に誠一郎のために怒ったわけじゃないし。俺がムカついただけだし」
　駆先輩はそっぽ向いた。
　あきらかに動揺している。珍しい。
　私たちは顔を見合わせて笑った。

「何さ。なんで笑うの」
「いえいえ」
　それからひとしきり話し込み、会話が途切れたタイミングで、光畑くんが私を見た。

「ところでひなっちさんや」
「なんですか光畑さんや」
　変な呼びかけをされたので、負けじと言い返すと、光畑くんは面白がるように笑った。

「乗ってくれてありがとう。明後日花火大会じゃん？」
「うん」
「良かったらオレらと一緒に花火見ない？　伊織が住んでるアパート、ベランダから花火見えるから、人ごみにうんざりすることもないぜ。もちろん伊織の許可は取り済みなんで」
　ほら、と光畑くんがスマホを見せてくれた。
　二人がやり取りしているラインの中で、影山くんは確かに私を誘ってもいいと言っている。

「本当だ。でも、いいのかな？」
　てっきり影山くんはお父さんと二人暮らしをしていると思っていたけれど、実は中学のときからアパートで一人暮らしをしていた。

　お父さんが浮気相手と再婚するのを認める代わりに家を出ることを許可してもらったのだと、一緒に帰った夜、ラインで教えてくれた。
　皆に明かさないのは、同じ市内に住んでいるのになんでわざわざ一人暮らしなんてしているのか？　と聞かれるのが嫌だから。

「本人がいいって言ってるんだからいいでしょ」
「ちなみにぼくたちもお邪魔するつもりですよ。古上くんも来るみたいです」
　駆先輩が言い、御厨先輩が補足した。

「そうなんですね」
　さて、お誘いは嬉しいけれど、どうしよう？
　断ったら例年通り、家族で花火大会を見に行くことになる。
　人ごみに揉まれ、疲れて花火を見るか、それともイケメンたちと優雅にベランダで花火を見るか。

　女子一人という状況はどうかとも思うけれど、まさか間違いは起こらないだろう。
　それだけの信頼関係は築けていると思っている。

　でもやっぱり、簡単に即答はできないよね。
　大抵のことは甘いけど、茅島家は嘘には厳しいのだ。
　行くなら正直に言わないといけない。

「家族と相談してみます」