12 / 31
12:さらに二人の先輩が釣られたようです(3)
しおりを挟む
「あの、本当にごめんね? お邪魔してしまって」
そんな影山くんを気遣ったらしく、古上先輩は苦笑した。
「駆に『オルバの曲が聞こえる!』って、強引に連れてこられたんだ。すぐに帰るつもりだったんだけど、つい聞き惚れてしまったよ。ピアノ弾いてたのは君だよね? 上手なんだね」
にこっ。
爽やかに微笑まれて、心臓が跳ねた。
「い、いえ、どうも……ありがとうございます」
あたふたと頭を下げる。
壇上に上がった古上先輩を見て、綺麗な人だなあとは思っていたけれど、至近距離で見た笑顔の威力は半端ではなかった。
危うく心臓を撃ち抜かれるところだった。
学年を越えて多くのファンがいるというのは事実だ。
うん、間違いない。
「名前を聞いてもいいかな?」
「はいっ。私は1年2組の茅島日菜子です」
上ずった声で名乗ってから、バトンをパスするように光畑くんを見る。
「同じクラスの光畑景都です」
「おれも。同じ2組の、影山伊織です」
幼馴染が自己紹介を終えたところで、光畑くんが古上先輩に笑いかけた。
「古上先輩もゲームお好きだったんですね。正直、意外でした」
「それなりに、だけどね」
「とか言いつつガチゲーマーでーす。真面目でお堅い生徒会長様のイメージが崩れるから、みんなには内緒だよっ?」
真渕先輩が唇に人差し指を立ててウィンクしたので、古上先輩の微笑みも台無しだった。
「……………………」
なんともいえない静寂が訪れ、生温い夏の風が音楽室を通り抜けていく。
私はどう反応したものかわからず、他の一年生たち同様、ただ時が過ぎるのを待った。
「……。お前さあ」
沈黙を破って、古上先輩が真渕先輩の胸倉を掴んだ。
よく見ると頬が痙攣している!
「いやーん、暴力はんたーいっ。だって本当のことじゃないかっ。もういい加減自分を偽るのは止めなよ誠一郎クンっ」
大げさにかぶりを振って、ウルウルした目で真渕先輩は古上先輩を見つめた。
「………………」
その沈黙の間に何を考えたのだろうか。
古上先輩は深いため息をつき、突き放すようにして真渕先輩を解放した。
「もー、誠一郎クンってば乱暴なんだから。そんなんじゃ女子にモテないぞっ」
乱れた襟元を正し、真渕先輩が口を尖らせる。
「気色悪い言い方を止めろ」
古上先輩はぴしゃりと言った。
それまでは美しく透き通った声だったのに、ほとんど脅迫するような低い声である。
「はーい」
射殺さんばかりの目で睨まれても、全く懲りた様子もなく、真渕先輩はへらへら笑った。
さらにキツく睨まれたせいで一応口は閉ざしたけれど、この分だといつ開くかわからない。
「全く……」
古上先輩が額を押さえる一方、私は無言で影山くんと光畑くんを見た。
いわんとしたことは正しく伝わったらしく、二人は同時に頷いた。
二人とも全く同じ感想だったらしい。
すなわち――この先輩たち、濃い。
そんな影山くんを気遣ったらしく、古上先輩は苦笑した。
「駆に『オルバの曲が聞こえる!』って、強引に連れてこられたんだ。すぐに帰るつもりだったんだけど、つい聞き惚れてしまったよ。ピアノ弾いてたのは君だよね? 上手なんだね」
にこっ。
爽やかに微笑まれて、心臓が跳ねた。
「い、いえ、どうも……ありがとうございます」
あたふたと頭を下げる。
壇上に上がった古上先輩を見て、綺麗な人だなあとは思っていたけれど、至近距離で見た笑顔の威力は半端ではなかった。
危うく心臓を撃ち抜かれるところだった。
学年を越えて多くのファンがいるというのは事実だ。
うん、間違いない。
「名前を聞いてもいいかな?」
「はいっ。私は1年2組の茅島日菜子です」
上ずった声で名乗ってから、バトンをパスするように光畑くんを見る。
「同じクラスの光畑景都です」
「おれも。同じ2組の、影山伊織です」
幼馴染が自己紹介を終えたところで、光畑くんが古上先輩に笑いかけた。
「古上先輩もゲームお好きだったんですね。正直、意外でした」
「それなりに、だけどね」
「とか言いつつガチゲーマーでーす。真面目でお堅い生徒会長様のイメージが崩れるから、みんなには内緒だよっ?」
真渕先輩が唇に人差し指を立ててウィンクしたので、古上先輩の微笑みも台無しだった。
「……………………」
なんともいえない静寂が訪れ、生温い夏の風が音楽室を通り抜けていく。
私はどう反応したものかわからず、他の一年生たち同様、ただ時が過ぎるのを待った。
「……。お前さあ」
沈黙を破って、古上先輩が真渕先輩の胸倉を掴んだ。
よく見ると頬が痙攣している!
「いやーん、暴力はんたーいっ。だって本当のことじゃないかっ。もういい加減自分を偽るのは止めなよ誠一郎クンっ」
大げさにかぶりを振って、ウルウルした目で真渕先輩は古上先輩を見つめた。
「………………」
その沈黙の間に何を考えたのだろうか。
古上先輩は深いため息をつき、突き放すようにして真渕先輩を解放した。
「もー、誠一郎クンってば乱暴なんだから。そんなんじゃ女子にモテないぞっ」
乱れた襟元を正し、真渕先輩が口を尖らせる。
「気色悪い言い方を止めろ」
古上先輩はぴしゃりと言った。
それまでは美しく透き通った声だったのに、ほとんど脅迫するような低い声である。
「はーい」
射殺さんばかりの目で睨まれても、全く懲りた様子もなく、真渕先輩はへらへら笑った。
さらにキツく睨まれたせいで一応口は閉ざしたけれど、この分だといつ開くかわからない。
「全く……」
古上先輩が額を押さえる一方、私は無言で影山くんと光畑くんを見た。
いわんとしたことは正しく伝わったらしく、二人は同時に頷いた。
二人とも全く同じ感想だったらしい。
すなわち――この先輩たち、濃い。
0
あなたにおすすめの小説
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる