社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花

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44:せめて、きっぱりフラれよう

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 目が溶けるんじゃないかと思うほど泣いたらお腹が減った。
 泣くという行為は意外と体力を使う。どんなに悲しくとも、苦しくとも、誰だって永遠に泣いてはいられない。

「……はー」
 カップラーメンを食べ終えて、私はラグマットに寝転がった。
 カップラーメンを食べるなんて久しぶりだ。
 拓馬が「今日は友達と夕食食べるから要らない」ってLIMEで連絡されたとき以来か。一ヵ月ぶりだな。
 毎日同じだったら飽きるだろうけど、やっぱりたまに食べると美味しいよね。お手軽だし。

 拓馬は今日、乃亜と何食べたんだろ。
 まだ乃亜の部屋にいるのかな。

 ぐるぐると思考が渦を巻く。
 これまで見た拓馬の表情が次々と思い浮かんでは消えていき、私は目を閉じて、再びため息をついた。

 不毛だ。拓馬は乃亜の彼氏になったのに。
 私がいくら拓馬のことを考えようと意味なんてないのに。

 そうだ、もっとポジティブに考えよう。
 乃亜が拓馬の料理係になるというならそれでいいじゃないか。

 もう毎日の献立にいちいち悩むこともない。栄養バランス、お弁当の色合い、予算、そういったことに気を遣わなくても済む。
 私の分の料理ならもっと適当でいい。わざわざ皿に盛りつけなくたって、フライパンから直に食べたって構わない。

 気が向かないときは無理せずインスタントに頼ればいいし、お昼だって購買でパンやおにぎりを買って済ませればいいのだ。

 楽になったじゃん。
 面倒な料理係から解放されて良かったじゃん、やったね――嘘だ。
 確かに面倒だと思う日もあったけど、拓馬が美味しいと喜んでくれる顔を見れば、それまでの苦労も面倒も全部帳消しになり、頑張った自分を誇らしく思えたのに。

「……あーもう、だから。未練がましいな、私」
 眉間を指で揉み、呻く。

 諦めきれないのはちゃんと拓馬にフラれてないからだろう。
 大福からは「告白が受け入れられたら恋心を封印する」と脅されていたけれど、もう大福はいないし、乃亜という彼女がいる以上、告白が受け入れられることはまずない。
 ある意味安心してフラれることができるというわけだ。

「……良し。決めた。明日拓馬に告白して、きっぱりフラれる! そしたら気持ちにも区切りがつくはず!」
 決意して、私は跳ね起きた。
 台所に行ってカップラーメンの空き容器を捨て、使った箸やコップを洗う。

 それから、私はテーブルに再び座り、ルーズリーフを広げた。
 もう私の出る幕はないかもしれないけれど。
 それでも、拓馬のためにできることはまだある。




 翌日の昼休憩。昼食後。
「やっとできた……」
 ルーズリーフに最後の一文を書き終え、私は机に突っ伏した。
 このまま目を閉じて眠ってしまいたい。深夜まで作業をしていたせいで昨日は寝不足だ。

「……一色さんいるかな」
 眠気を断ち切って起き上がり、教室内を見回す。
 乃亜の姿はない。拓馬もだ。
 デート中なのかもしれない。
 学食、屋上、図書室、中庭――学校の敷地内にはいくらでもデートスポットがある。

「一色さんなら、さっき教室から出て行ったよ。十分くらい前かな」
 と、後ろの席から声がした。
 振り返れば、由香ちゃんが私を見ている。

「……一色さんにどんな用なの?」
 由香ちゃんはためらいがちに聞いてきた。

 今朝、拓馬と乃亜が付き合い始めたと知って、由香ちゃんはそれはそれは驚いていた。嘘、なんで、とひとしきり狼狽した後、悠理ちゃんはそれでいいの? と聞かれた。

 いいか悪いかなんて私が言える立場じゃないよ、と言ったら由香ちゃんは沈黙し、ごめんと謝った。
 それきりこの話題に触れることはなかったけれど、なんとなく私たちの間には気まずい空気が流れている。

「これを渡したいんだ」
 ルーズリーフの束をまとめて水色のファイルに綴じ、立ち上がる。

「……一応聞くけど、不幸の手紙とかじゃないよね?」
「そんなわけないでしょ!」
 脊髄反射の勢いで突っ込むと、由香ちゃんは笑った。
 初めから冗談だとはわかっていたので、私も笑い返す。

 そうして笑い合えたことで、いつも通りの私たちに戻れた気がした。

「探しに行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
 由香ちゃんは小さく手を振った。
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