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32:人気者の登校風景(5)
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「あ、えと、あの、ありがとう」
腕を引かれ、どぎまぎしながら言う。
「戸川さんが困ったときは善処するって、前に言ったからな」
照れ隠しなのか、言い訳のように悠紀くんはそう言って手を離した。
手が離れたことで気づいた。
彼が強くもなく、弱くもなく、ただ優しく私の手を掴んでいたことに。
胸の奥と、彼が掴んでいた右手が熱い。
ほんのりと頬が熱を帯びていることを自覚しながら、私は悠紀くんを見つめた。
「ねえ。さっきは何を見てたの? 空の雲? それともあやかし?」
「雲ってことにしたほうが平和に終わると思うけど、本当のことを聞きたい?」
「聞きたい」
即答する。
「じゃあ、こっち来て」
悠紀くんは周りを見回して、私を左手にある花壇の傍へと誘った。
人気のない花壇の前で立ち止まり、私と向かい合った悠紀くんは、不意に右手を持ち上げてさきほど見ていたあたり――第三校舎の屋上を指さした。
「第三校舎には白い蛇がいる。具体的に言うと巨大な白い蛇が校舎に巻き付いてる」
「………………」
私は思わず沈黙した。
校舎に蛇が巻き付いている。
これは少々――いや、物凄くぶっ飛んだ話だ。にわかには信じがたい。
幽霊が佇んでいる、というならまだホラー映画や怪談で耐性がついているけど、校舎に蛇が巻き付いている、とは?
何故に? と突っ込みたくなるけれど、悠紀くんだって聞かれても困るに違いない。
塀の上で日向ぼっこしている野良猫に「あなたはどうしてそこにいるんですか」と訊くようなものだ。
校舎に巻き付けるほどの巨大な蛇というと、全長は五十メートル? 百メートル?
とにかく途方もない大きさだ。
あまり想像したくはない。
「……私、足の多すぎるものと足のないものは苦手でして……同じ爬虫類でもトカゲは割と好きなんだけどな……トカゲが良かったな……ふわふわの狐とか狸とか贅沢は言わないから……うーん、蛇……蛇かぁ……」
片手で顔を覆って呻く。
「だから雲にしたほうがいいって言ったのに」
悠紀くんは私がムカデと蛇が苦手なのを知っていた。
「いや、でも!」
私はぱっと手を下ろして顔を上げ、声を大きくした。
「現実に蛇のあやかしがいるんでしょ? だったら嘘でごまかされるのは嫌だ。私は悠紀くんが見ているものが知りたいの」
「…………」
予想外の言葉だったらしく、悠紀くんは驚いたように瞬きを繰り返した。
「とにかく第三校舎には蛇がいるんだね。うん、わかった。あんまり受け入れたくないけど、受け入れる。理解したよ」
私はこめかみを人差し指で強く押さえて頷いた。
いくら信じがたい現実でも、悠紀くんの言葉ならば信じるしかないのだ。
「でもなんでまた校舎に巻き付いてるんだろうね。呪い? 誰かが第三校舎で怪しいまじないでもしたの? って、あれこれ言ったって意味ないか。そこにいるものはいるんだから、受け入れなきゃ仕方ないよね」
「いや、学園にいる理由ならわかるよ」
「嘘!?」
私は俯かせていた顔を跳ね上げた。
私の声に驚いたのか、花壇の花に留まっていた虫が飛んで行く。
腕を引かれ、どぎまぎしながら言う。
「戸川さんが困ったときは善処するって、前に言ったからな」
照れ隠しなのか、言い訳のように悠紀くんはそう言って手を離した。
手が離れたことで気づいた。
彼が強くもなく、弱くもなく、ただ優しく私の手を掴んでいたことに。
胸の奥と、彼が掴んでいた右手が熱い。
ほんのりと頬が熱を帯びていることを自覚しながら、私は悠紀くんを見つめた。
「ねえ。さっきは何を見てたの? 空の雲? それともあやかし?」
「雲ってことにしたほうが平和に終わると思うけど、本当のことを聞きたい?」
「聞きたい」
即答する。
「じゃあ、こっち来て」
悠紀くんは周りを見回して、私を左手にある花壇の傍へと誘った。
人気のない花壇の前で立ち止まり、私と向かい合った悠紀くんは、不意に右手を持ち上げてさきほど見ていたあたり――第三校舎の屋上を指さした。
「第三校舎には白い蛇がいる。具体的に言うと巨大な白い蛇が校舎に巻き付いてる」
「………………」
私は思わず沈黙した。
校舎に蛇が巻き付いている。
これは少々――いや、物凄くぶっ飛んだ話だ。にわかには信じがたい。
幽霊が佇んでいる、というならまだホラー映画や怪談で耐性がついているけど、校舎に蛇が巻き付いている、とは?
何故に? と突っ込みたくなるけれど、悠紀くんだって聞かれても困るに違いない。
塀の上で日向ぼっこしている野良猫に「あなたはどうしてそこにいるんですか」と訊くようなものだ。
校舎に巻き付けるほどの巨大な蛇というと、全長は五十メートル? 百メートル?
とにかく途方もない大きさだ。
あまり想像したくはない。
「……私、足の多すぎるものと足のないものは苦手でして……同じ爬虫類でもトカゲは割と好きなんだけどな……トカゲが良かったな……ふわふわの狐とか狸とか贅沢は言わないから……うーん、蛇……蛇かぁ……」
片手で顔を覆って呻く。
「だから雲にしたほうがいいって言ったのに」
悠紀くんは私がムカデと蛇が苦手なのを知っていた。
「いや、でも!」
私はぱっと手を下ろして顔を上げ、声を大きくした。
「現実に蛇のあやかしがいるんでしょ? だったら嘘でごまかされるのは嫌だ。私は悠紀くんが見ているものが知りたいの」
「…………」
予想外の言葉だったらしく、悠紀くんは驚いたように瞬きを繰り返した。
「とにかく第三校舎には蛇がいるんだね。うん、わかった。あんまり受け入れたくないけど、受け入れる。理解したよ」
私はこめかみを人差し指で強く押さえて頷いた。
いくら信じがたい現実でも、悠紀くんの言葉ならば信じるしかないのだ。
「でもなんでまた校舎に巻き付いてるんだろうね。呪い? 誰かが第三校舎で怪しいまじないでもしたの? って、あれこれ言ったって意味ないか。そこにいるものはいるんだから、受け入れなきゃ仕方ないよね」
「いや、学園にいる理由ならわかるよ」
「嘘!?」
私は俯かせていた顔を跳ね上げた。
私の声に驚いたのか、花壇の花に留まっていた虫が飛んで行く。
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