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33:人気者の登校風景(6)
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「あやかしの中には人語を喋るものがいるんだけど、あいつもその類で、蛇自身が教えてくれた。あいつは山の神様だったんだって。でも時代が進むにつれて山が切り開かれて、人々の信仰心も薄くなったことで神力を失い、人里に下りてきた。校舎に憑いてる理由は、昔、ここに通っていた女子生徒が俺と同じようにあいつを見ることができたから。山神は彼女が卒業してもずっと学園に居残って、生徒たちを見守ってきたんだ。誰も自分の姿を見ることができず、長いこと無視され続けてきたからだろうな。俺が見えるのが嬉しいらしくて、よく話しかけてくる」
悠紀くんはまた第三校舎のほうを見た。
私には見えないけれど、悠紀くんの視線の先には巨大な白蛇の顔があるのだろう。
「人前で話すわけにはいかないから、人がいないタイミングを見計らって中庭のベンチとか、屋上とかで会話してたんだけど。それでもやっぱり誰かが見てたらしくて。俺は虚空に向かって独り言を喋る変人だと思われてるらしい」
悠紀くんは感情を見せることなく淡々と語った。
その無表情が、胸に刺さって痛い。
他人に変人扱いされて嬉しい人間はいないだろう。
悲しいし、悔しいはずなのに、悠紀くんは無表情でそれを覆い隠してしまっている。
悠紀くんが見ている世界を共有できる人間は誰もいない。
誰も自分の言葉を信じない――それは、どれほどの孤独だろう。
「……。悔しいな」
第三校舎を見つめて目を凝らしても蛇の影も形も見えず、私は下唇を噛んで顔を伏せた。
「私にも悠紀くんと同じものが見えたらいいのに。何か特殊な修行をしたらあやかしが見える力が手に入るとか、そんな都合のいい話はないか山神さまに聞いてみてよ」
「聞いてもいいけど……特殊な修行って何。厳しい滝修行とかでも要求されたらやるのか?」
面白かったらしく、悠紀くんが口元だけで笑った。
「やるよ。私にできることならなんでもする。だって、このままじゃ悠紀くん、誰からも理解されなくて、独りぼっちじゃない。私は悠紀くんを独りにさせたくない」
感情が高ぶって、泣きそうになった。
悠紀くんは目を丸くして私を見つめ、それからまた笑った。
「気遣ってくれてありがとう。でも、独りじゃないんだ。見える奴を一人だけ知ってる」
「えっ!? 誰!?」
私は仰天し、一歩悠紀くんに近づいたけれど。
「内緒」
是非とも聞き出したかったのに、悠紀くんはさらりと私の疑問を断ち切った。
「本人が言ってないのに俺が言うのは違うだろ」
「………………」
そう言われると何も言えず、私はぐっと息を飲みこんだ。
ええ、あなたのそういう義理堅いところ、好きですよ。
好きですけど。
でも。
でも――誰!?
あああああ気になる!!
気になりすぎるんですけど!!
「そろそろ行こう。遅刻する」
「はい……」
私が内心で頭を抱えてのたうち回っていることなど露知らず、悠紀くんは昇降口に向かって歩き出した。
おとなしく従いつつも、私の頭の中では「誰!?」の文字がグルグルと回っていたのだった。
◆ ◆ ◆
一方、その頃。
「……誰、あの子」
昇降口へと消えて行った悠紀たちを遠くから見つめる者がいた。
彼女は一部始終を見ていた。
特に、紬を見つめて微笑む悠紀の姿はしっかりと目に焼き付いている。
「あたしにはあんな風に笑ったことなんてないのに……」
嫉妬に満ちた凄絶な表情を浮かべた美少女の名は、神谷朱莉《かみやあかり》という。
悠紀くんはまた第三校舎のほうを見た。
私には見えないけれど、悠紀くんの視線の先には巨大な白蛇の顔があるのだろう。
「人前で話すわけにはいかないから、人がいないタイミングを見計らって中庭のベンチとか、屋上とかで会話してたんだけど。それでもやっぱり誰かが見てたらしくて。俺は虚空に向かって独り言を喋る変人だと思われてるらしい」
悠紀くんは感情を見せることなく淡々と語った。
その無表情が、胸に刺さって痛い。
他人に変人扱いされて嬉しい人間はいないだろう。
悲しいし、悔しいはずなのに、悠紀くんは無表情でそれを覆い隠してしまっている。
悠紀くんが見ている世界を共有できる人間は誰もいない。
誰も自分の言葉を信じない――それは、どれほどの孤独だろう。
「……。悔しいな」
第三校舎を見つめて目を凝らしても蛇の影も形も見えず、私は下唇を噛んで顔を伏せた。
「私にも悠紀くんと同じものが見えたらいいのに。何か特殊な修行をしたらあやかしが見える力が手に入るとか、そんな都合のいい話はないか山神さまに聞いてみてよ」
「聞いてもいいけど……特殊な修行って何。厳しい滝修行とかでも要求されたらやるのか?」
面白かったらしく、悠紀くんが口元だけで笑った。
「やるよ。私にできることならなんでもする。だって、このままじゃ悠紀くん、誰からも理解されなくて、独りぼっちじゃない。私は悠紀くんを独りにさせたくない」
感情が高ぶって、泣きそうになった。
悠紀くんは目を丸くして私を見つめ、それからまた笑った。
「気遣ってくれてありがとう。でも、独りじゃないんだ。見える奴を一人だけ知ってる」
「えっ!? 誰!?」
私は仰天し、一歩悠紀くんに近づいたけれど。
「内緒」
是非とも聞き出したかったのに、悠紀くんはさらりと私の疑問を断ち切った。
「本人が言ってないのに俺が言うのは違うだろ」
「………………」
そう言われると何も言えず、私はぐっと息を飲みこんだ。
ええ、あなたのそういう義理堅いところ、好きですよ。
好きですけど。
でも。
でも――誰!?
あああああ気になる!!
気になりすぎるんですけど!!
「そろそろ行こう。遅刻する」
「はい……」
私が内心で頭を抱えてのたうち回っていることなど露知らず、悠紀くんは昇降口に向かって歩き出した。
おとなしく従いつつも、私の頭の中では「誰!?」の文字がグルグルと回っていたのだった。
◆ ◆ ◆
一方、その頃。
「……誰、あの子」
昇降口へと消えて行った悠紀たちを遠くから見つめる者がいた。
彼女は一部始終を見ていた。
特に、紬を見つめて微笑む悠紀の姿はしっかりと目に焼き付いている。
「あたしにはあんな風に笑ったことなんてないのに……」
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