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小柳《こやなぎ》先生が一人ずつ生徒の名前を呼び、出席確認する声が聞こえる。
朝のホームルームの時間。
私は第三校舎の三階にある『1年D組』のプレートがかけられた教室前の廊下に立ち、真新しい自身の上履きを見下ろして、静かにそのときを待っていた。
「――はい、全員出席ですね。誰一人欠けることなく無事二学期初日を迎えられて何よりです。それでは、いまから転入生を紹介します」
教室内がざわめき、私は暴れ出そうとする心臓をなだめた。
大丈夫、みんなカカシだ、かぼちゃだ、落ち着け。
1年D組の皆さまごめんなさい、転入生って言うと物語が始まりそうな超級美少女を期待されがちですが残念ながら違います。
がっかりするのは仕方ないけども露骨にがっかりするのは止めてください傷つくから!
中学の時に転入した学校で「なんだ、普通じゃん」と最前列の席の男子に呟かれたのは私の中でちょっとしたトラウマになっている。
「戸川さん、入ってきて」
どうか皆が大人な対応をしてくれますように、と祈りながら、私は教室の前方にある入口から中へと入った。
教壇の前で笑顔の小柳先生が待っている。
小柳先生は四十歳くらいのボブカットの女性だ。担当教科は英語。
悠紀くんに聞いた情報によると、普段は温厚だが授業中の先生はとても厳しく、居眠りなんてしようものなら一発退場らしい。
教壇の傍に立ち、身体の向きを変えてクラスメイトたちに向き直る。
ほとんどの生徒が興味の目で私を見つめ、後ろの席の生徒が聞き取れないほどの小声で囁き合う中、桃色の唇をきゅっと結び、不機嫌そうに私を見ている女子がいた。
教室のほぼ中央、前から三番目の席に座る彼女は久実先輩に負けないくらいの可憐な美少女だった。
白く透き通った肌に華奢な身体。
天使の輪がくっきりと浮かび上がった艶やかな黒髪を肩口で切り揃え、黒目がちな瞳でじっと私を見つめている。
なんという存在感だろうか。
一目で意識が奪われ、そしてふと既視感が脳裏を掠めた。
私、彼女を見たことがあるような気がする。
いつ、どこでだろう?
記憶を探っていると、彼女が「何見てんのよ」と言わんばかりにキツく睨んできたため、私は慌てて視線を逸らした。
彼女の斜め前。
一列飛ばした廊下側、前から二番目の席に悠紀くんがいる。
目が合うと、悠紀くんは机に置いていた右手の指先を軽く上げて合図してくれた。
「戸川紬さんです。戸川さん、挨拶して」
小柳先生は黒板にチョークで『戸川紬』と私の名前を書いた。
「はい。三駒高校から転入してきました、戸川紬です。よろしくお願いします」
鞄を両手で持って頭を下げる。
「じゃあ戸川さん、保坂《ほさか》くんの隣に座って。保坂くん、手を上げて」
「はーい」
手を上げたのは窓際の最後列の美少年。
ネクタイを取り払ってはだけたシャツの胸元、耳のピアス、ド派手な金髪。
カラーコンタクトをつけているらしく、彼は不自然なほどに明るい茶色の瞳で私を見返して軽薄に笑い、上げた手をひらひら振った。
どう見てもチャラい……いやいや、人を見た目で判断しちゃダメだと自分を諌めつつ、私は彼の隣の席に向かった。
鞄を机のフックにかけてから椅子に座り、背筋を伸ばす。
転校生が珍しいのか、保坂くんは私から視線を外そうとしない。
若干の居心地の悪さを感じつつ、私は小柳先生の話に耳を傾けた。
朝のホームルームの時間。
私は第三校舎の三階にある『1年D組』のプレートがかけられた教室前の廊下に立ち、真新しい自身の上履きを見下ろして、静かにそのときを待っていた。
「――はい、全員出席ですね。誰一人欠けることなく無事二学期初日を迎えられて何よりです。それでは、いまから転入生を紹介します」
教室内がざわめき、私は暴れ出そうとする心臓をなだめた。
大丈夫、みんなカカシだ、かぼちゃだ、落ち着け。
1年D組の皆さまごめんなさい、転入生って言うと物語が始まりそうな超級美少女を期待されがちですが残念ながら違います。
がっかりするのは仕方ないけども露骨にがっかりするのは止めてください傷つくから!
中学の時に転入した学校で「なんだ、普通じゃん」と最前列の席の男子に呟かれたのは私の中でちょっとしたトラウマになっている。
「戸川さん、入ってきて」
どうか皆が大人な対応をしてくれますように、と祈りながら、私は教室の前方にある入口から中へと入った。
教壇の前で笑顔の小柳先生が待っている。
小柳先生は四十歳くらいのボブカットの女性だ。担当教科は英語。
悠紀くんに聞いた情報によると、普段は温厚だが授業中の先生はとても厳しく、居眠りなんてしようものなら一発退場らしい。
教壇の傍に立ち、身体の向きを変えてクラスメイトたちに向き直る。
ほとんどの生徒が興味の目で私を見つめ、後ろの席の生徒が聞き取れないほどの小声で囁き合う中、桃色の唇をきゅっと結び、不機嫌そうに私を見ている女子がいた。
教室のほぼ中央、前から三番目の席に座る彼女は久実先輩に負けないくらいの可憐な美少女だった。
白く透き通った肌に華奢な身体。
天使の輪がくっきりと浮かび上がった艶やかな黒髪を肩口で切り揃え、黒目がちな瞳でじっと私を見つめている。
なんという存在感だろうか。
一目で意識が奪われ、そしてふと既視感が脳裏を掠めた。
私、彼女を見たことがあるような気がする。
いつ、どこでだろう?
記憶を探っていると、彼女が「何見てんのよ」と言わんばかりにキツく睨んできたため、私は慌てて視線を逸らした。
彼女の斜め前。
一列飛ばした廊下側、前から二番目の席に悠紀くんがいる。
目が合うと、悠紀くんは机に置いていた右手の指先を軽く上げて合図してくれた。
「戸川紬さんです。戸川さん、挨拶して」
小柳先生は黒板にチョークで『戸川紬』と私の名前を書いた。
「はい。三駒高校から転入してきました、戸川紬です。よろしくお願いします」
鞄を両手で持って頭を下げる。
「じゃあ戸川さん、保坂《ほさか》くんの隣に座って。保坂くん、手を上げて」
「はーい」
手を上げたのは窓際の最後列の美少年。
ネクタイを取り払ってはだけたシャツの胸元、耳のピアス、ド派手な金髪。
カラーコンタクトをつけているらしく、彼は不自然なほどに明るい茶色の瞳で私を見返して軽薄に笑い、上げた手をひらひら振った。
どう見てもチャラい……いやいや、人を見た目で判断しちゃダメだと自分を諌めつつ、私は彼の隣の席に向かった。
鞄を机のフックにかけてから椅子に座り、背筋を伸ばす。
転校生が珍しいのか、保坂くんは私から視線を外そうとしない。
若干の居心地の悪さを感じつつ、私は小柳先生の話に耳を傾けた。
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