少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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44:不健全な執着(2)

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「もし日向くんのことが好きならご愁傷様。あたしはこの学園でただ一人、日向くんが見てる世界を共有できる人間よ。最初っからあたしと日向くんの間にあんたみたいな凡人が入り込む余地なんてないんだから!」
 腰に手を当て、びしっと私を指さす神谷さん。

「容姿の面でもあたしのほうが遥かに日向くんに相応しいわ! あたしと日向くんなら素敵な美男美女カップルになれる! あんたと日向くんじゃ月とすっぽん、並んで立つ日向くんが可哀想よ! 身の程をわきまえなさい、凡人!!」
 屋上に勝ち誇ったような神谷さんの笑い声が響く。

 でも、その笑い声は五秒ともたずに終わった。
 神谷さんは顔色を青くし、幽霊でも見たような顔で私の背後を見ている。

「?」
 突然彼女が哄笑を止めたため、不思議に思って振り返ると、亜紀くんが立っていた。

「亜紀くん?」
 いつの間にそこにいたのだろう。
 そういえば扉を閉めてなかったなと、いまならながら気づいた。

「どうしてここに?」
「友達が『妹ちゃんが階段を上っていくところ見たよ』って教えてくれた。何してんのかなと思って来てみました」
 亜紀くんは私にピースしてから、手を下ろして神谷さんに向き直った。

「あのさー、さっきから――正確には『もし日向くんのことが好きならご愁傷様』のあたりから聞いてたんだけど」
「は、はい……」
 神谷さんは青い顔で返事をした。

「神谷さんがうちの弟激ラブなのは知ってるよ? そこまで愛されてうちの弟は幸せだなーとか思ってたりしてたよ? でもいまのは無いわ。うちの妹を馬鹿にする奴に悠紀はやらん」

 ビシッ!!!!

 片思いの相手の兄に『NO』を付きつけられ、神谷さんは冷凍マグロのように凍り付き、直立したまま固まった。

「悠紀は紬ちゃんのことめちゃくちゃ気に入ってるっぽいんだよね。紬ちゃんといるとよく笑うし。さてここで問題です。いまの発言をそっくりそのまま伝えたら何て言うでしょう」
「す、すみません……もう二度と戸川さんを侮辱するようなことは言わないと約束します。誓いますのでどうか許してください……日向くんに嫌われたら生きていけない……」
 大きな目に涙をいっぱい溜めて神谷さんは懇願した。

「って言ってるけど、どう?」
「もういいよ。気にしてない」
 亜紀くんに訊かれて、私はかぶりを振った。

 私が見えない凡人なのは事実だし、悠紀くんと並んで立つなら私よりも神谷さんのような美少女のほうが相応しいと思う。

 ……想像すると、やっぱり胸がズキズキするけれど。

「そう。じゃあオレも聞かなかったことにする。神谷さん、悠紀のことが本気で好きならあいつを悲しませるようなことはしないで。神谷さんは悠紀と同じ世界が見える唯一の人間なんだ。神谷さんの代わりになれる奴はどこにもいない。できれば神谷さんにはずっとあいつの味方でいて欲しいと思ってる」
「……はい。そのつもりです」
 手の甲で涙を拭って、神谷さんは頷いた。

「あと、これは余計なお世話かもしれないけどさ。悠紀にばかり執着してないで、他の人間とも交流してみたらどうかな。もう五年も経つわけだし、いつまでも目を閉じて耳を塞いでないで、勇気を出してよ。神谷さんが思ってるほど世界はそんなに冷たくないし、味方も案外近くにいるかもしれないよ?」
 神谷さんは俯いたまま何も言わない。
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