少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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47:たとえ見えなくても(2)

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「あのね。神谷さんから山神さまの目がこんな色だって聞いたとき、びっくりしたんだ。白い蛇だっていうから、てっきり目が赤い、アルビノみたいな蛇だと思ってたの。まさかこんな綺麗な青い目をしてるとは思わなかった。悠紀くんたちは毎日こんな色の目をした蛇を見てるんだね。一度でいいから本物を見てみたいなあ……なんて、無理だけど」
 パライバトルマリンを見つめて頰を掻く。
 すると、悠紀くんが意外な提案を口にした。

「……興味があるなら蛇の絵を描いてみせようか? 過去に見たあやかしとか……」
「見たい!!」
 私は悠紀くんの台詞に被せるように叫び、期待に胸を膨らませて彼を見つめた。

 そこまで食いつかれるとは思わなかったのか、悠紀くんはきょとんとしてから小さく笑った。

「画材を取ってくる」
 彼は一時停止したゲームはそのままに、テレビを消して大広間を出た。

「あのさあ、紬ちゃん。あいつが絵を描いても全然伝わらないと思うよ?」
「?」
 亜紀くんの苦笑の意味は、戻ってきた悠紀くんがスケッチブックに濃い鉛筆で絵を描いてみせたことでわかった。

 校舎に巻き付いている白い蛇の絵なのだが、なんというか……ハッキリ言って、幼稚園児のような絵なのである。

「……。えっと……前衛的な絵だね!」
「いや、紬ちゃん。はっきり言っていい。『このド下手くそ!』って」
「………………」
 私たちに両側から手元の絵を覗き込まれている悠紀くんは、心なしかムッとしていた。
 それでも声に出して抗議しないあたり、絵が下手だと自覚はしているらしい。

「貸して」
 亜紀くんは悠紀くんの手からスケッチブックを取り上げ、彼が描いた絵を参考にすらすらと鉛筆を動かした。

「おおおお!! 凄い!!」
 亜紀くんは写真かな? と思えるレベルで絵が上手かった。
 ページの右側に悠紀くんの絵があるため、余計に上手さが際立って見える。

「目はもう少し大きくて……いや、それだと大きすぎ。尻尾は校舎の縁に軽くかかってる感じで。違う。そんなきっちり巻きついてない。本当に軽くでいいんだ」
「細かいなー」

 文句を言いながらも、悠紀くんの指示通りに亜紀くんは訂正を繰り返す。

 亜紀くんが線画を描き終わると、せっかくだからと悠紀くんは色鉛筆を差し出した。
 五十色もある本格的な色鉛筆セットだ。

「えー。色まで塗るの? オレ実物を見たことないんだよ?」
「色なら俺が指示する」
「いや、面倒くさいんだけど。そろそろイラストロジックに戻りたいんだけど」
「お願い、お兄ちゃん」
 どうしても着色された山神さまが見たかった私は卑怯な手段に出た。

 具体的には目を潤ませ、胸の前で手を組み、上目遣いに懇願した。

「……仕方ないなー」
 亜紀くんは頭を掻いて悠紀くんの手から色鉛筆を受け取り、色を塗り始めた。

「本物そのままだ」
 十分以上もかけて完成した絵を見て、悠紀くんが頷き、太鼓判を押す。

「だってさ。はい、どうぞ」
 亜紀くんはスケッチブックを私に手渡した。

「へえー……山神さまって、こんな姿なんだ……」
 太陽を浴びて燦然と輝く白い鱗。
 爬虫類らしく切れ上がった瞳は青く透き通り、まさにパライバトルマリンと同じ色をしていた。

 亜紀くんが描いた校舎に巻き付く蛇の姿はリアリティに溢れ、いまにも動きだしそうな躍動感がある。
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