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54:突然の壁ドン(1)
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奏城の図書館は広大な学園の敷地のほぼ中央にあり、十万冊以上の蔵書数を誇る。
保管されている図書は漫画から新聞、雑誌、辞書、図鑑、大学入試過去問といった受験教材など多岐に渡り、高等部の生徒だけではなく、中等部の生徒も日常的に利用している。
九月十三日、月曜日の昼休み。
昼食を終えた私は入口の自動ドアをくぐり、入学時に貰ったICカードをゲートに通して歩を進めた。
書棚に近づくにつれて本の匂いが濃くなる。
インクと、わずかに黴の混じったような、独特な匂い。
この匂いは結構好きだ。
本屋や図書館に行くとテンションが上がる。
本を開けば先人の知識が学べる。
それがファンタジー小説ならば読み手である自分も未知なる冒険に胸を躍らせ、ミステリーや推理小説ならページをめくるたびにハラハラドキドキし、主人公の気持ちになって犯人は誰だろうと真剣に悩むことができる。
でも。
図書館に向かう途中、仲良く同じベンチに腰を下ろし、中庭で会話している悠紀くんと神谷さんの姿を目撃してしまったいまは、どんなに面白そうな本を見かけても手に取る気になれなかった。
「…………はあ」
自分の背丈よりも高い本棚の前でため息をつく。
奏城の図書館は三駒の図書室よりも遥かに規模が大きく立派だから、訪れるのを楽しみにしていたのに。
無表情の悠紀くんの傍で楽しそうに笑う神谷さんの姿が頭から消えてくれない。
片手に本を抱えた女子生徒が不審そうに見てきたため、私は本棚から離れ、目についた階段を上った。
悠紀くんの話によれば、始業式の放課後、神谷さんに呼ばれて屋上に行ったときに浴びた突風は山神さまの仕業だったそうだ。
第三校舎からいつも学生たちを見下ろしている山神さまは、悠紀くんと一緒に登校してきた謎の少女――つまり私――が自分の目の前、つまり屋上に現れたことに興奮し、ついテンションが上がって挨拶代わりに息を吹きかけてしまったらしい。
現場にいた神谷さんは当然、山神さまの行動を目撃している。
すぐそこにいる山神さまの仕業とも知らず、神谷さんは突風に驚く私を見て、どう思っていたのだろうか。
いや、はっきり言われたな。
何も見えない凡人は可哀想、って。
「………………」
神谷さんは悠紀くんと最近新しく見かけたあやかしの話でもしているのかな。
もしそうだとしたら、私はその会話に混ざることはできない。
たとえ二人と同じベンチに座ったとしても、疎外感を覚えて虚しくなるだけ。
あのベンチはまさに不可侵、二人だけの世界だ――
――ズキズキと胸が痛む。
ああ、まただ。
悠紀くんと神谷さんのことを考える度、私は胸の痛みに襲われる。
この痛みは何なのだろう。
もしかして、私は悠紀くんのことが好きなのか?
実は、その可能性にはとうに気づいている。
気づいていて知らないフリをしている。
だって、私と悠紀くんじゃ立場が違いすぎる。
私は親も、家も、何の資産も持たない小娘で、悠紀くんは超一流企業の社長令息。
恋をしたところで許されるはずがない。
悠紀くんに相応しいのは、それなりの資産家に生まれた可愛らしい少女。
当たり前みたいにブランド品を身に着けて、パライバトルマリンを知り、さらに悠紀くんと同じく妖怪が見える神谷さんはまさに理想の相手。
保管されている図書は漫画から新聞、雑誌、辞書、図鑑、大学入試過去問といった受験教材など多岐に渡り、高等部の生徒だけではなく、中等部の生徒も日常的に利用している。
九月十三日、月曜日の昼休み。
昼食を終えた私は入口の自動ドアをくぐり、入学時に貰ったICカードをゲートに通して歩を進めた。
書棚に近づくにつれて本の匂いが濃くなる。
インクと、わずかに黴の混じったような、独特な匂い。
この匂いは結構好きだ。
本屋や図書館に行くとテンションが上がる。
本を開けば先人の知識が学べる。
それがファンタジー小説ならば読み手である自分も未知なる冒険に胸を躍らせ、ミステリーや推理小説ならページをめくるたびにハラハラドキドキし、主人公の気持ちになって犯人は誰だろうと真剣に悩むことができる。
でも。
図書館に向かう途中、仲良く同じベンチに腰を下ろし、中庭で会話している悠紀くんと神谷さんの姿を目撃してしまったいまは、どんなに面白そうな本を見かけても手に取る気になれなかった。
「…………はあ」
自分の背丈よりも高い本棚の前でため息をつく。
奏城の図書館は三駒の図書室よりも遥かに規模が大きく立派だから、訪れるのを楽しみにしていたのに。
無表情の悠紀くんの傍で楽しそうに笑う神谷さんの姿が頭から消えてくれない。
片手に本を抱えた女子生徒が不審そうに見てきたため、私は本棚から離れ、目についた階段を上った。
悠紀くんの話によれば、始業式の放課後、神谷さんに呼ばれて屋上に行ったときに浴びた突風は山神さまの仕業だったそうだ。
第三校舎からいつも学生たちを見下ろしている山神さまは、悠紀くんと一緒に登校してきた謎の少女――つまり私――が自分の目の前、つまり屋上に現れたことに興奮し、ついテンションが上がって挨拶代わりに息を吹きかけてしまったらしい。
現場にいた神谷さんは当然、山神さまの行動を目撃している。
すぐそこにいる山神さまの仕業とも知らず、神谷さんは突風に驚く私を見て、どう思っていたのだろうか。
いや、はっきり言われたな。
何も見えない凡人は可哀想、って。
「………………」
神谷さんは悠紀くんと最近新しく見かけたあやかしの話でもしているのかな。
もしそうだとしたら、私はその会話に混ざることはできない。
たとえ二人と同じベンチに座ったとしても、疎外感を覚えて虚しくなるだけ。
あのベンチはまさに不可侵、二人だけの世界だ――
――ズキズキと胸が痛む。
ああ、まただ。
悠紀くんと神谷さんのことを考える度、私は胸の痛みに襲われる。
この痛みは何なのだろう。
もしかして、私は悠紀くんのことが好きなのか?
実は、その可能性にはとうに気づいている。
気づいていて知らないフリをしている。
だって、私と悠紀くんじゃ立場が違いすぎる。
私は親も、家も、何の資産も持たない小娘で、悠紀くんは超一流企業の社長令息。
恋をしたところで許されるはずがない。
悠紀くんに相応しいのは、それなりの資産家に生まれた可愛らしい少女。
当たり前みたいにブランド品を身に着けて、パライバトルマリンを知り、さらに悠紀くんと同じく妖怪が見える神谷さんはまさに理想の相手。
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