少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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56:突然の壁ドン(3)

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「違うから。なんでそんな発想が出てくるの」
「えー、だっておれ、戸川さんのこと好きだし」
「何を言うかと思えば……ついさっき他の女子とキスしてたのはどこの誰。よくそんな台詞がさらりと言えるね」
 私は呆れ果てて保坂くんを見上げた。
 こうして近くで見上げると、悠紀くんより身長が高い。

 180近くありそうだ。
 悠紀くんは171センチって言ってたな。亜紀くんより一センチ低い。

「だからあれはセフレで、彼女とかじゃないんだって。お互い、要らないと思えばすぐ切れる関係だよ。戸川さんがおれのこと好きって言ってくれたら、いますぐ全員を切るよ?」
 保坂くんは笑顔で首を傾げた。
 窓から差し込む陽光を受けて、耳元の赤いピアスがきらりと光る。

「いや、なんでそういう話になるの。私が好きって、そんなわけないでしょ。私たち、出会ってまだ半月も経ってないよ? からかうのは止めて」
「一目惚れって言葉があるだろ? 出会ってすぐに人を好きになることだってあるんだよ。おれ、戸川さんに惚れてるの。戸川さんが望むことならなんでもする。だからおれのこと好きになってよ」
「………………」
 私はただただ、困惑するばかり。

「……本気なの?」
「うん」
 保坂くんはにこにこ笑っている。

 胡散臭い笑顔だ。
 嘘にしか見えない。

「……いや、ごめん。とても信じられない」
 価値観が合わない人種とはいえ、彼とは席が隣同士、これまでそこそこうまくやっていけていると思っていたのに、なんで急にこんなことになったんだろう。

 私は急展開についていけず、こめかみを押さえて片手をあげた。

「なんで?」
「悪いけど、保坂くんの言動は軽薄すぎるんだよ。笑いながら愛の告白をされて喜ぶ女子がいると思う? 本気だって言うなら、もっと真剣に――」

「それじゃあ」
 とん、と保坂くんは壁際にいた私の肩を押した。

 背中が壁にぶつかり、軽い衝撃が走る。
 驚く間もなく、保坂くんは私の背後にある壁に右手をついて、私を自分の身体と壁の間に閉じ込めた。

 ――えっ。
 こ、これはまさか、俗にいう『壁ドン』!?

 ちょっと待って、私、ヒロインでも何でもないんですけど!?
 相手を間違ってませんか!?

「真剣に、本気で好きって言ったら、応えてくれる?」

 保坂くんは壁に手をついたまま肘を曲げ、顔を近づけてきた。

 その綺麗な顔は見たことがないほどに真剣そのもの。

「――!!!」
 吐息が触れてしまいそうな至近距離まで迫られて、私の頭は爆発し、パニックに陥った。

 彼自身がつけているものか、それともさきほどキスしていた女子がつけていたものか、フルーティーな香水な香りがする。

 保坂くんの顔と共に、その香りがさらに近づいてきて――
 ふっと悠紀くんの顔が脳裏を掠めると同時、身体の支配権を奪っていたパニックが魔法のように消え去った。

 ――いやいや無理無理絶対無理!!
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