16 / 30
雨の檻(前半)
しおりを挟む
雨の檻の先にあるのは雷雲か、暖かい陽の光か。
『我が主、別にここまでの大雨を降らせなくてもよかったのでは?』
土砂降りの雨の中、黒布を被いた青年が1人立っていた。黒布を被いているとはいえ、その隙間から雪融けのつららを思わせるようなきらきらと光る銀の髪が数房零れている。
『雨が降っていなければ荒魂の神気で焼け野原になっいただろうよ』
青年の頭の中で、柔らかな男の声が聞こえる。
『それで……今回の原因の男は今どのような感じ?』
男の無機質な声がさらに冷たいものへと変わり、青年は視線を水晶から別の方へと移した。
その視線の先には鞘に入った刀を腕に抱いてぐったりと座り込んでいる男がいる。顔の様子は漆黒の髪に隠され見えないが、衣から覗く肌はもはや死人ではないかと思わせる程である。
『最早生気が感じられません。此方にも気づいていないようですし、戦闘力は皆無かと』
青年は男の変わり果てた姿を見ながら淡々と報告する。しかし、海原の深い青を切り取ったような青い瞳には憐憫の色が浮かんでいた。
『なら好都合だ。今のうちに息の根を止めたらどうだい』
男の提案に青年は息を飲む。青年の瞳は凍りついたまま首を横に振った。
「……このまま放って置いても勝手に死にます」
そうだ。このままならあの子は勝手に死ぬ。生きる気力などとうに無い筈だ。時間に任せておけばいい。青年が命から逃げようとすると、主の声が畳み掛ける。
『荒魂が此方に目を向けていない今の内に殺すべきでだ。あの男のために大勢の人が死んでもいいの?』
主の言葉は正論だ。だが……。青年は唇を噛んでいたが、やがて口を開いた。
「……分かりました」
青年は刀の柄に手をかけると立ち上がる。そして絶望して気づかない時雨に一歩一歩近づいていった。
「ところで、君は時雨の何処が好きになったんだ?」
騰蛇は走りながらそんなことを政暁に訊いてきた。突然訊かれたものだから走るのに必死になっていた政暁はしばらくそれに気づかなかったが、やがて自分が質問されたことに気づいて答えた。
「時雨の好きになった所か……あの瞳だな」
あの瞳は綺麗だ。まるで焔を閉じ込めた紅玉のようで初めて会った瞬間に目を奪われた。花街の女の纏った着物や簪、桜の散り様、花火。美しいものは確かに世界のあちこちに存在する。
だが、どれもあの瞳の美しさに敵うものは無いだろう。怒ったときの焔の激しく燃える色。涙に濡れる濡れた紅玉の色。そして快楽で潤んだ時の色。どれもこれも美しくて飽きることがない。
幸い、時雨の妹が貸してくれた笠と簑や騰蛇がそれらや衣に神気を込めてくれたお陰で、走りながらそれだけのことに答えるだけの体力余裕はあった。それを言うと、騰蛇は笑みを浮かべた。
「時雨の瞳を怖がる者はいてもそんなことを言う者は君が初めてだよ。やっと分かった。だから時雨はお前に忠誠を捧げようと思うようになったのか」
そのあとぽつりぽつりと話している内に先の方に小屋が見えてきた。
「俺が言ったのは森の中の泉だぞ。あんな小屋なんかじゃなくて」
政暁は少し眉をひそめた。どういうことだ?また眠らされるのか? 政暁が警戒の色を見せると、騰蛇は小屋の先にある森を指差した。
「君が森の中の泉と言ったからだ。この小屋の近くに森がある。この周辺の森を捜索すれば恐らく見つかる筈………何?」
騰蛇が突如政暁の前に庇うように背を向けると戦闘体勢になり、太刀の柄に手をかける。小屋の方を睨みつけるので何だと疑問に思っていると、小屋の方から吹いてくる風に政暁の背筋が凍りついた。まただ。さっきよりも神気が濃い。まさかあの小屋に……荒御魂と呼ばれる者がいるのか。時雨を探したいのに、恐怖で足がすくんでしまい震えそうになる。その時、後ろから声がした。
「若君、騰蛇! 大丈夫ですか!」
振り返ると、影縄が走って此方に近づいている所だった。
「影縄! お前、怪我は大丈夫なのか!」
政暁は思わず叫んだ。先ほどまでぐったりと本性を露にするほど苦しんでいたというのに、こんなにすぐ飛び出してくるとは思わなかったのだ。政暁の心配をよそに影縄は雨風を切って騰蛇と政暁のもとに着いた。
「ええ、桔梗の薬のお陰で何とか動けます。……それより、あの荒御魂はあの小屋にいるようですね。どうします?」
まるで怪我をしていないように凛と背を伸ばして影縄は騰蛇の方を向く。そんな影縄を見て思わずニヤリと笑うと騰蛇は小屋の方に視線を戻した。
「丁度良かった。事の発端はあそこにおられるようだ。影縄、お前はこの若と一緒にあそこの森を捜索しろ。時雨は雨でも濁らない泉の傍にいるかもしれないそうだ。霊脈の側の可能性がある。土行のお前なら分かる筈だ」
いつも笑ってばかりの騰蛇が真面目な面持ちをしている。そしていつも任せておけと太刀と焔で敵を殲滅する彼女が初めて私を頼ってくれる。そんなこそばゆい何かを表情に出さないようにして、漆黒の男は頷くと、丸薬を包んだ油紙取り出した。
「承知しました。騰蛇、荒御魂の神気で傷ついたらこれを飲んでください。桔梗の作った物ですから効力は保証出来るでしょう」
騰蛇はそれを受け取ろうとしたが、その前に影縄に尋ねた。
「いいのか? これはお前のための物なんじゃ……」
影縄は答える代わりに、悲しげに微笑んで首を横に振る。
「騰蛇、私は若君と一緒に時雨様を見つけ出します。だから貴女も必ずあの荒御魂を鎮めてください」
あの荒御魂を鎮められるのは貴女しかいませんと言うように、影縄は騰蛇の金色の瞳を見据える。
影縄の漆黒の瞳は、いつもなら式神の中でも最も穏やかで優しげな光がある。だが今は怒りや後悔、そして強い決意の光が宿っていた。この男にもこんな激しい感情があるとは。騰蛇はそれを口にする代わりに背を向ける。
「承知した。俺が小屋に向かったらすぐ森へ行け」
いつもの軽口を口にせず、騰蛇は小屋へと駆ける。そして小屋に着き、背後で影縄と政暁が森へと向かうのを横目で確認すると、太刀を鞘から引き抜いた。
『どうしてあんなことをしたの?』
あの方の声がする。目の前にいるあの方は生前ならするはずの無かった悲しい顔をしていた。
__憎かったからです。貴女の生き写しのくせに、貴女の顔で上辺だけの笑みを繕うあいつが__
『なら、何故心の底から笑えるようになったあの子にこんな仕打ちをしたの?』
__それは………__
答えられなかった。どうして俺はこんなことをしようと思ったのだろう。最初は上辺だけの笑みが憎かっただけのはずだ。なのにいつの間にか、『本当』の笑みでさえ憎くなった。あの方や楓を守れなかったのはあの時里に居た全員に責任がある。そんなことを認めたくなかった。
だから時雨をいじめていた者や俺は、あいつに全ての責任を押しつけた。あいつだって辛かったのを知っていたのに、いじめが過激になっていくのを俺はただ、ざまあみろとほくそ笑むだけだった。
なのに、あいつは泣かなかった。あの事件までは泣き虫だったのに、泣くことなく困ったように笑うだけだった。それが気持ち悪かった。
だから犯した。頭領が京に出ていて二人の式神もそれについていき、桔梗が風邪で苦しむ里の童の様子を診に行っている間だった。
その夜、井戸の水で行水をしていた時雨をあの小屋に連れ込んで犯した。そこでようやくあいつは泣き叫んだ。激しく抵抗するので何度も殴りつけ、気絶をすれば冷たい水をかけて起こし、意識を取り戻したらまた犯す。半刻経っていたであろうか、我に返ると時雨はぐったりとしており、自分がとんでもないことをしてしまったことに気がついた。だから謝ろうとした。だが、その時あいつらが入ってきた。
『楽しそうなことをやっているなあ。俺達も混ぜろよ』
そう言うが早いか、あいつらは俺を押し退けて時雨に近づく。ぐったりしていた時雨も危険を察知したのかよろよろと後退りしようとしたが、捕らえられて身体中をまさぐられる。時雨は微かな悲鳴を上げて、俺の方に手を伸ばした。
『助……けて……』
だが……俺はその手を払い除けて逃げた。小屋を逃げるように出て、戸を閉めようとした時、血涙を流しているような絶望に彩られたあの赤い瞳と目が合ってしまった。
その後は、夜が明けるまでつんざくような時雨の泣き叫ぶ声を小屋の外から聞いていた。殴る音、粘膜がぶつかる水音それら全てを聞きたくなくて耳を塞ぐ。それでもいくらかは耳を塞いだ手をすり抜けて聞こえていたのだ。いつまで座り込んで
いただろうか。夜が明けた頃にあいつらが出てきた。
『菊之介、後は片付けておけ』
そう言うと、さっさと里へと帰っていく。俺は小屋の様子を見た瞬間吐きそうになった。時雨の髪はぐちゃぐちゃで、首から下は殴られた痕で痣だらけになっていた。
そして女が生娘ではなくなった時のように白い液体と血が混じったものが太腿を伝っている。顔を覆ってはいるが、苦しそうにしゃくりあげていた。
時雨に近づいた瞬間、無表情で胴を蹴られた。
「菊之介……二度と貴様を友だとは思わない」
そう言うと、時雨はふらつく足取りで小屋を離れる。その後、書き置きを残して2日程行方をくらませた。
陵辱されたという事実を弱味として握り、俺やあいつらは何度も時雨を犯した。最初は泣いていたのに、また泣かなくなった。
ただ冷たい目で己を陵辱する者を見る姿で心なしか安心している自分がいた。上辺の笑みより、憎悪の方が気持ち悪くないからだ。その態度が気に食わないと口実にしてその身体を痛めつける。
あいつの抜き身のような鋭い目を見れば罪悪感など無くなって、頭領の側近の夜萩殿が時雨に監視の目を向けるまで三年もの間あいつを犯した。
そして、あのうつけに抱かれていたあいつを見てから、またあいつに対しての憎しみが沸き上がった。その結果がこれだ。
時雨の本気で怒る筈が無いと高を括っていた。時雨の怒りに触れてようやく己がとんでもないことをしたと気づいた。
__………自分の無力さをあいつに押しつけたのです。申し訳ございませんでした__
そう言うが、あの方は悲しげに首を横に振った
。
『貴方が謝る相手は私じゃない。貴方が謝る相手は』
その名前を聞く前に、あの方の姿に霞がかる。手を伸ばしてもそこには届かなかった。
「早く起きろ馬鹿‼」
そんな大声で菊之介が目覚めると、目の前の泉一が必死の形相で何かと対峙していた。いつの間にか全身に針が刺さるような荒れ狂う神気が周囲に充ちている。そして、泉一が対峙している相手を見た瞬間、冷や水を頭から被ったような衝撃が背筋を貫いた。
「目覚めよったか、虫けらが」
そこにいたのはたった一人の男だった。否、あれは人の筈が無い。男はただそこに立っているだけだというのに、放たれる殺気はそれなりに戦闘経験を積んでいる筈の己の戦意を削ぎ、恐怖が己の思考を塗り替えていく。
下弦の月を思わせるような笑み、ぞっとするような人ではない美しい顔立ち、そして先ほどまで俺たちが犯していた時雨とよく似た真っ赤な瞳をしていた。
「和魂の恩恵を受けながら我の愛し子を穢しよって……。万死に値する」
男がそう言った瞬間、泉一の張った結界がひびが入った。その結界を維持したまま、泉一は腰を抜かしている俺の方を振り返った。
「何をぼさっとしているんだ、死にたいのか!!」
泉一は誰よりも神気を浴びているせいか、泉一の肌は神気で切り裂かれて血がぽたぽたと垂れていた。
「死んで償おうとか許さんぞ!まず、時雨に謝れ。あいつは許してくれないかもしれない。それでも反省の態度ぐらい見せろ‼」
結界はパリパリとひび割れ、泉一の顔にも苦痛の色が見える。それでも、泉一は菊之介に向かって叫び続けた。
「少しでも悪かったと思うなら………まずは今、生き残れ!!」
その叫びで菊之介はようやく立ち上がった。菊之介が立ち上がったのを見てほっとしたのも束の間、霊力が底を尽きた泉一はぐらりと傾ぐ。泉一が張っている結界は鬼祓いがよく使っているもので、菊之介もそれを知っていた。泉一が必死になって維持した結界を引き継ぐと、菊之介は壊れかけの結界を補強する。それを見て、男はくすりと嗤った。
「そこの男に興味がないが、貴様は許しておけん。さっさと首を出せばいいのに抗う姿は益々虫けらだな」
男は嘲るようにくすくすと嗤う。それが、時雨が怒った時の態度に似ていた。まさか、時雨と繋がっているのは和御魂ではなく荒御魂なのか。
今更そんなことに気づいたが、遅すぎる。菊之介は結界にありったけの霊力を流しながら口を開いた。
「申し訳ございませんが、時雨に今までのことを謝るまで死ぬことは出来ません」
菊之介の言動に、荒御魂は驚いたように目を見開いたが、そのあと高笑いをした。
「謝る? 今まで散々、我の愛し子を苦しめていたくせに? 愛し子の怒りに触れてから謝る姿勢を見せるとはなんと傲慢な虫けらだ。虫けらの謝罪など火に油を注ぐようなもの。せめてもの情けに、さっさと殺して我の血肉にしようとしようと思ったが、気が変わった」
荒御魂はにいっと嗤うと神気を強める。すると、ありったけの霊力を込めて張っている筈の結界がみしみしと音を立ててきしんだ。
「そこの男以外の不届き者どもの四肢を引きちぎり、腸を引きずり出して社に飾ってやろう。それでも貴様どもの罪は許されぬがな」
荒御魂が突然腕を片腕上げたかと思うと、菊之介に向かって腕を降り下ろす。その瞬間、今まで張っていた結界が玻璃が砕けたような澄んだ音を立てて砕け散る。結界が破られた途端、荒御魂の神気をもろに受けた菊之介は内腑を潰されるような衝撃を受けてごぼりと血を吐いてその場に崩れ落ちた。
何度も咳き込んで呼吸を塞ぐ血を吐き出す。荒御魂を見れば此方に一歩一歩と近づいている。まずい、殺される。いや、殺されるよりも酷い目に遭わされる。
菊之介は覚悟を決めて目を瞑る。荒御魂が神気で作った太刀を振り上げる。
「荒御魂、ちょっと落ち着いたらどうだ?」
その女の声と共に、よく知った灼熱の神気が荒御魂と菊之介の間に入った。
「……騰蛇、何故我の邪魔をする」
不機嫌さを露にする荒御魂に騰蛇は涼やかな表情をしていた。
「死んで詫びろとは後味が悪いだろう?」
「だが、こやつらは生かしておくことなど出来ん」
そう言って、菊之介を斬ろうとするが、騰蛇の太刀がそれを受け止める。
「生きて償わせるべきなんだけどな。どうやらその気は毛頭ないか」
「当たり前だ。で……騰蛇、お前は我の意を知ってもなお抗うか」
騰蛇と荒御魂の太刀と神気とぶつかり火花が飛び散る。
「当然だ。死体は無いようだから時雨は殺さなかったのだろう?ならばここでお前にこいつらを殺させれば、時雨の思いを無駄にする」
そう言って、騰蛇は間合いを詰める。すると、つんざくほどの金属音が響き渡った。荒御魂は舌打ちをすると、数尺後方に飛び退いた。
「その心意気は確かに式神の忠誠としては見事なものだ。しかし、荒魂である我に歯向かうとは。その愚かさを思い知らせてやろう」
荒御魂は僅かに苛立ちを表情にすると、太刀の切っ先を騰蛇に向ける。荒御魂に敵意を向けられても騰蛇の戦意は削がれるどころか、騰蛇の神気は鮮やかな炎の色に彩られるだけだった。
「式神とは言え、十二天将でも驚恐を司る俺をなめないで頂きたい」
騰蛇の神気がいっそう輝いたかと思うと、騰蛇の姿が女武者から凛々しい武者姿に変わった。
「荒御魂よ。この騰蛇が全力でお相手しよう」
そう言い終える前に、二人は再び刃を交え激しい神気がぶつかり合った。
『我が主、別にここまでの大雨を降らせなくてもよかったのでは?』
土砂降りの雨の中、黒布を被いた青年が1人立っていた。黒布を被いているとはいえ、その隙間から雪融けのつららを思わせるようなきらきらと光る銀の髪が数房零れている。
『雨が降っていなければ荒魂の神気で焼け野原になっいただろうよ』
青年の頭の中で、柔らかな男の声が聞こえる。
『それで……今回の原因の男は今どのような感じ?』
男の無機質な声がさらに冷たいものへと変わり、青年は視線を水晶から別の方へと移した。
その視線の先には鞘に入った刀を腕に抱いてぐったりと座り込んでいる男がいる。顔の様子は漆黒の髪に隠され見えないが、衣から覗く肌はもはや死人ではないかと思わせる程である。
『最早生気が感じられません。此方にも気づいていないようですし、戦闘力は皆無かと』
青年は男の変わり果てた姿を見ながら淡々と報告する。しかし、海原の深い青を切り取ったような青い瞳には憐憫の色が浮かんでいた。
『なら好都合だ。今のうちに息の根を止めたらどうだい』
男の提案に青年は息を飲む。青年の瞳は凍りついたまま首を横に振った。
「……このまま放って置いても勝手に死にます」
そうだ。このままならあの子は勝手に死ぬ。生きる気力などとうに無い筈だ。時間に任せておけばいい。青年が命から逃げようとすると、主の声が畳み掛ける。
『荒魂が此方に目を向けていない今の内に殺すべきでだ。あの男のために大勢の人が死んでもいいの?』
主の言葉は正論だ。だが……。青年は唇を噛んでいたが、やがて口を開いた。
「……分かりました」
青年は刀の柄に手をかけると立ち上がる。そして絶望して気づかない時雨に一歩一歩近づいていった。
「ところで、君は時雨の何処が好きになったんだ?」
騰蛇は走りながらそんなことを政暁に訊いてきた。突然訊かれたものだから走るのに必死になっていた政暁はしばらくそれに気づかなかったが、やがて自分が質問されたことに気づいて答えた。
「時雨の好きになった所か……あの瞳だな」
あの瞳は綺麗だ。まるで焔を閉じ込めた紅玉のようで初めて会った瞬間に目を奪われた。花街の女の纏った着物や簪、桜の散り様、花火。美しいものは確かに世界のあちこちに存在する。
だが、どれもあの瞳の美しさに敵うものは無いだろう。怒ったときの焔の激しく燃える色。涙に濡れる濡れた紅玉の色。そして快楽で潤んだ時の色。どれもこれも美しくて飽きることがない。
幸い、時雨の妹が貸してくれた笠と簑や騰蛇がそれらや衣に神気を込めてくれたお陰で、走りながらそれだけのことに答えるだけの体力余裕はあった。それを言うと、騰蛇は笑みを浮かべた。
「時雨の瞳を怖がる者はいてもそんなことを言う者は君が初めてだよ。やっと分かった。だから時雨はお前に忠誠を捧げようと思うようになったのか」
そのあとぽつりぽつりと話している内に先の方に小屋が見えてきた。
「俺が言ったのは森の中の泉だぞ。あんな小屋なんかじゃなくて」
政暁は少し眉をひそめた。どういうことだ?また眠らされるのか? 政暁が警戒の色を見せると、騰蛇は小屋の先にある森を指差した。
「君が森の中の泉と言ったからだ。この小屋の近くに森がある。この周辺の森を捜索すれば恐らく見つかる筈………何?」
騰蛇が突如政暁の前に庇うように背を向けると戦闘体勢になり、太刀の柄に手をかける。小屋の方を睨みつけるので何だと疑問に思っていると、小屋の方から吹いてくる風に政暁の背筋が凍りついた。まただ。さっきよりも神気が濃い。まさかあの小屋に……荒御魂と呼ばれる者がいるのか。時雨を探したいのに、恐怖で足がすくんでしまい震えそうになる。その時、後ろから声がした。
「若君、騰蛇! 大丈夫ですか!」
振り返ると、影縄が走って此方に近づいている所だった。
「影縄! お前、怪我は大丈夫なのか!」
政暁は思わず叫んだ。先ほどまでぐったりと本性を露にするほど苦しんでいたというのに、こんなにすぐ飛び出してくるとは思わなかったのだ。政暁の心配をよそに影縄は雨風を切って騰蛇と政暁のもとに着いた。
「ええ、桔梗の薬のお陰で何とか動けます。……それより、あの荒御魂はあの小屋にいるようですね。どうします?」
まるで怪我をしていないように凛と背を伸ばして影縄は騰蛇の方を向く。そんな影縄を見て思わずニヤリと笑うと騰蛇は小屋の方に視線を戻した。
「丁度良かった。事の発端はあそこにおられるようだ。影縄、お前はこの若と一緒にあそこの森を捜索しろ。時雨は雨でも濁らない泉の傍にいるかもしれないそうだ。霊脈の側の可能性がある。土行のお前なら分かる筈だ」
いつも笑ってばかりの騰蛇が真面目な面持ちをしている。そしていつも任せておけと太刀と焔で敵を殲滅する彼女が初めて私を頼ってくれる。そんなこそばゆい何かを表情に出さないようにして、漆黒の男は頷くと、丸薬を包んだ油紙取り出した。
「承知しました。騰蛇、荒御魂の神気で傷ついたらこれを飲んでください。桔梗の作った物ですから効力は保証出来るでしょう」
騰蛇はそれを受け取ろうとしたが、その前に影縄に尋ねた。
「いいのか? これはお前のための物なんじゃ……」
影縄は答える代わりに、悲しげに微笑んで首を横に振る。
「騰蛇、私は若君と一緒に時雨様を見つけ出します。だから貴女も必ずあの荒御魂を鎮めてください」
あの荒御魂を鎮められるのは貴女しかいませんと言うように、影縄は騰蛇の金色の瞳を見据える。
影縄の漆黒の瞳は、いつもなら式神の中でも最も穏やかで優しげな光がある。だが今は怒りや後悔、そして強い決意の光が宿っていた。この男にもこんな激しい感情があるとは。騰蛇はそれを口にする代わりに背を向ける。
「承知した。俺が小屋に向かったらすぐ森へ行け」
いつもの軽口を口にせず、騰蛇は小屋へと駆ける。そして小屋に着き、背後で影縄と政暁が森へと向かうのを横目で確認すると、太刀を鞘から引き抜いた。
『どうしてあんなことをしたの?』
あの方の声がする。目の前にいるあの方は生前ならするはずの無かった悲しい顔をしていた。
__憎かったからです。貴女の生き写しのくせに、貴女の顔で上辺だけの笑みを繕うあいつが__
『なら、何故心の底から笑えるようになったあの子にこんな仕打ちをしたの?』
__それは………__
答えられなかった。どうして俺はこんなことをしようと思ったのだろう。最初は上辺だけの笑みが憎かっただけのはずだ。なのにいつの間にか、『本当』の笑みでさえ憎くなった。あの方や楓を守れなかったのはあの時里に居た全員に責任がある。そんなことを認めたくなかった。
だから時雨をいじめていた者や俺は、あいつに全ての責任を押しつけた。あいつだって辛かったのを知っていたのに、いじめが過激になっていくのを俺はただ、ざまあみろとほくそ笑むだけだった。
なのに、あいつは泣かなかった。あの事件までは泣き虫だったのに、泣くことなく困ったように笑うだけだった。それが気持ち悪かった。
だから犯した。頭領が京に出ていて二人の式神もそれについていき、桔梗が風邪で苦しむ里の童の様子を診に行っている間だった。
その夜、井戸の水で行水をしていた時雨をあの小屋に連れ込んで犯した。そこでようやくあいつは泣き叫んだ。激しく抵抗するので何度も殴りつけ、気絶をすれば冷たい水をかけて起こし、意識を取り戻したらまた犯す。半刻経っていたであろうか、我に返ると時雨はぐったりとしており、自分がとんでもないことをしてしまったことに気がついた。だから謝ろうとした。だが、その時あいつらが入ってきた。
『楽しそうなことをやっているなあ。俺達も混ぜろよ』
そう言うが早いか、あいつらは俺を押し退けて時雨に近づく。ぐったりしていた時雨も危険を察知したのかよろよろと後退りしようとしたが、捕らえられて身体中をまさぐられる。時雨は微かな悲鳴を上げて、俺の方に手を伸ばした。
『助……けて……』
だが……俺はその手を払い除けて逃げた。小屋を逃げるように出て、戸を閉めようとした時、血涙を流しているような絶望に彩られたあの赤い瞳と目が合ってしまった。
その後は、夜が明けるまでつんざくような時雨の泣き叫ぶ声を小屋の外から聞いていた。殴る音、粘膜がぶつかる水音それら全てを聞きたくなくて耳を塞ぐ。それでもいくらかは耳を塞いだ手をすり抜けて聞こえていたのだ。いつまで座り込んで
いただろうか。夜が明けた頃にあいつらが出てきた。
『菊之介、後は片付けておけ』
そう言うと、さっさと里へと帰っていく。俺は小屋の様子を見た瞬間吐きそうになった。時雨の髪はぐちゃぐちゃで、首から下は殴られた痕で痣だらけになっていた。
そして女が生娘ではなくなった時のように白い液体と血が混じったものが太腿を伝っている。顔を覆ってはいるが、苦しそうにしゃくりあげていた。
時雨に近づいた瞬間、無表情で胴を蹴られた。
「菊之介……二度と貴様を友だとは思わない」
そう言うと、時雨はふらつく足取りで小屋を離れる。その後、書き置きを残して2日程行方をくらませた。
陵辱されたという事実を弱味として握り、俺やあいつらは何度も時雨を犯した。最初は泣いていたのに、また泣かなくなった。
ただ冷たい目で己を陵辱する者を見る姿で心なしか安心している自分がいた。上辺の笑みより、憎悪の方が気持ち悪くないからだ。その態度が気に食わないと口実にしてその身体を痛めつける。
あいつの抜き身のような鋭い目を見れば罪悪感など無くなって、頭領の側近の夜萩殿が時雨に監視の目を向けるまで三年もの間あいつを犯した。
そして、あのうつけに抱かれていたあいつを見てから、またあいつに対しての憎しみが沸き上がった。その結果がこれだ。
時雨の本気で怒る筈が無いと高を括っていた。時雨の怒りに触れてようやく己がとんでもないことをしたと気づいた。
__………自分の無力さをあいつに押しつけたのです。申し訳ございませんでした__
そう言うが、あの方は悲しげに首を横に振った
。
『貴方が謝る相手は私じゃない。貴方が謝る相手は』
その名前を聞く前に、あの方の姿に霞がかる。手を伸ばしてもそこには届かなかった。
「早く起きろ馬鹿‼」
そんな大声で菊之介が目覚めると、目の前の泉一が必死の形相で何かと対峙していた。いつの間にか全身に針が刺さるような荒れ狂う神気が周囲に充ちている。そして、泉一が対峙している相手を見た瞬間、冷や水を頭から被ったような衝撃が背筋を貫いた。
「目覚めよったか、虫けらが」
そこにいたのはたった一人の男だった。否、あれは人の筈が無い。男はただそこに立っているだけだというのに、放たれる殺気はそれなりに戦闘経験を積んでいる筈の己の戦意を削ぎ、恐怖が己の思考を塗り替えていく。
下弦の月を思わせるような笑み、ぞっとするような人ではない美しい顔立ち、そして先ほどまで俺たちが犯していた時雨とよく似た真っ赤な瞳をしていた。
「和魂の恩恵を受けながら我の愛し子を穢しよって……。万死に値する」
男がそう言った瞬間、泉一の張った結界がひびが入った。その結界を維持したまま、泉一は腰を抜かしている俺の方を振り返った。
「何をぼさっとしているんだ、死にたいのか!!」
泉一は誰よりも神気を浴びているせいか、泉一の肌は神気で切り裂かれて血がぽたぽたと垂れていた。
「死んで償おうとか許さんぞ!まず、時雨に謝れ。あいつは許してくれないかもしれない。それでも反省の態度ぐらい見せろ‼」
結界はパリパリとひび割れ、泉一の顔にも苦痛の色が見える。それでも、泉一は菊之介に向かって叫び続けた。
「少しでも悪かったと思うなら………まずは今、生き残れ!!」
その叫びで菊之介はようやく立ち上がった。菊之介が立ち上がったのを見てほっとしたのも束の間、霊力が底を尽きた泉一はぐらりと傾ぐ。泉一が張っている結界は鬼祓いがよく使っているもので、菊之介もそれを知っていた。泉一が必死になって維持した結界を引き継ぐと、菊之介は壊れかけの結界を補強する。それを見て、男はくすりと嗤った。
「そこの男に興味がないが、貴様は許しておけん。さっさと首を出せばいいのに抗う姿は益々虫けらだな」
男は嘲るようにくすくすと嗤う。それが、時雨が怒った時の態度に似ていた。まさか、時雨と繋がっているのは和御魂ではなく荒御魂なのか。
今更そんなことに気づいたが、遅すぎる。菊之介は結界にありったけの霊力を流しながら口を開いた。
「申し訳ございませんが、時雨に今までのことを謝るまで死ぬことは出来ません」
菊之介の言動に、荒御魂は驚いたように目を見開いたが、そのあと高笑いをした。
「謝る? 今まで散々、我の愛し子を苦しめていたくせに? 愛し子の怒りに触れてから謝る姿勢を見せるとはなんと傲慢な虫けらだ。虫けらの謝罪など火に油を注ぐようなもの。せめてもの情けに、さっさと殺して我の血肉にしようとしようと思ったが、気が変わった」
荒御魂はにいっと嗤うと神気を強める。すると、ありったけの霊力を込めて張っている筈の結界がみしみしと音を立ててきしんだ。
「そこの男以外の不届き者どもの四肢を引きちぎり、腸を引きずり出して社に飾ってやろう。それでも貴様どもの罪は許されぬがな」
荒御魂が突然腕を片腕上げたかと思うと、菊之介に向かって腕を降り下ろす。その瞬間、今まで張っていた結界が玻璃が砕けたような澄んだ音を立てて砕け散る。結界が破られた途端、荒御魂の神気をもろに受けた菊之介は内腑を潰されるような衝撃を受けてごぼりと血を吐いてその場に崩れ落ちた。
何度も咳き込んで呼吸を塞ぐ血を吐き出す。荒御魂を見れば此方に一歩一歩と近づいている。まずい、殺される。いや、殺されるよりも酷い目に遭わされる。
菊之介は覚悟を決めて目を瞑る。荒御魂が神気で作った太刀を振り上げる。
「荒御魂、ちょっと落ち着いたらどうだ?」
その女の声と共に、よく知った灼熱の神気が荒御魂と菊之介の間に入った。
「……騰蛇、何故我の邪魔をする」
不機嫌さを露にする荒御魂に騰蛇は涼やかな表情をしていた。
「死んで詫びろとは後味が悪いだろう?」
「だが、こやつらは生かしておくことなど出来ん」
そう言って、菊之介を斬ろうとするが、騰蛇の太刀がそれを受け止める。
「生きて償わせるべきなんだけどな。どうやらその気は毛頭ないか」
「当たり前だ。で……騰蛇、お前は我の意を知ってもなお抗うか」
騰蛇と荒御魂の太刀と神気とぶつかり火花が飛び散る。
「当然だ。死体は無いようだから時雨は殺さなかったのだろう?ならばここでお前にこいつらを殺させれば、時雨の思いを無駄にする」
そう言って、騰蛇は間合いを詰める。すると、つんざくほどの金属音が響き渡った。荒御魂は舌打ちをすると、数尺後方に飛び退いた。
「その心意気は確かに式神の忠誠としては見事なものだ。しかし、荒魂である我に歯向かうとは。その愚かさを思い知らせてやろう」
荒御魂は僅かに苛立ちを表情にすると、太刀の切っ先を騰蛇に向ける。荒御魂に敵意を向けられても騰蛇の戦意は削がれるどころか、騰蛇の神気は鮮やかな炎の色に彩られるだけだった。
「式神とは言え、十二天将でも驚恐を司る俺をなめないで頂きたい」
騰蛇の神気がいっそう輝いたかと思うと、騰蛇の姿が女武者から凛々しい武者姿に変わった。
「荒御魂よ。この騰蛇が全力でお相手しよう」
そう言い終える前に、二人は再び刃を交え激しい神気がぶつかり合った。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
神父様に捧げるセレナーデ
石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」
「足を開くのですか?」
「股開かないと始められないだろうが」
「そ、そうですね、その通りです」
「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」
「…………」
■俺様最強旅人×健気美人♂神父■
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる