萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部

戸ケ苫 嵐

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第十五話 …あぁ酷い目に遭った…

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 風バイクに乗って、一番レベルが低い洞窟に向かう。テント住まいだった頃に街との往復で何度か乗ったので、俺もずいぶん慣れた。
 風バイクとは、言うなれば風のカプセルである。

 風の密度は、カプセル表面は高く、そこから離れるに従って低くなる。
 この密度の違いによって、何かにぶつかってもやんわりと受け止めるため、俺たちが乗っている中心部にダメージを及ぼすことなく、ぬるりとかわすことができるのだ。

「風バイク、最初は怖かったが、慣れると快適なものだな」
 慣れると快適どころか、“移動が楽なのは助かるが、立ったままなのは疲れる”とか思い始める。まったく人の欲望に果てはないな。

 なお、これを風バイクと名づけたのは当然俺だが、本当なら子供の頃に好きだった“仮免ライダー”のバイク、“バサータ”にしたかったのだ。
 どこかの言葉で“風”という意味らしいので、ちょうど良いとは思うが、なんとなく気恥ずかしかったので止めた。

「せやろ? 外の音が聞こえんのはアレやけど、中はめっちゃ静かやし、中で話してることも、多分外には聞こえんと思うわ」
 この静粛性から考えれば、風バイクというより風車と呼ぶべきか。
 なお、読み方は“かざぐるま”ではなく“かぜぐるま”である。

「なんでこんなものを作れると思ったんだ?」
「最初は困ったで。魔法が使えるんはじきに分かったけど、宵越の方は神様ぜんぜん教えてくれんし、石がジャラジャラ出るだけやし。まぁ、緑で怪我したり赤で火傷したり青で治したり、色々やってる内に。…まぁ偶然やね」

「ははは、ミスズさんも慣れか」
「ヒマと石だけは、ようさんあったさかいなー」

 風バイクが切れたので、一度緑の石を補充した。それがもう一度切れそうになった頃、ちょうど洞窟前の広場に着いた。
 ここの洞窟は土饅頭のような小高い丘の下にある。

 丘には天辺以外は殆ど木が生えていないので、禿頭に剣山が載ったような感じだ。
 ガイドブックによると、剣山部分の中央には古代人の墓があるらしいが、詳細は不明。古墳のようなものだろうか?

 最低ランクの洞窟らしく、内部は一層で、比較的単純な構造となっているため、数時間で踏破できる。
 出現するバケモノはヨートーク、チョーダなど。

 広場には、仲間との待ち合わせなのか、ここで仲間を見繕うつもりなのか、十人くらいの男女がたむろしていた。
「あー、けっこギリギリやったな」

「まぁ、途中でちょい道間違えたしな」
「おっちゃんがなんじゃかんじゃ話しかけてくるからやろがい」
「贅沢な話だが、立ちっぱなしというのもしんどいな」
「ホンマ贅沢やな。歩かんでエエこと感謝し」

 中身のない話をしながら、洞窟の入り口に向かう。
「おいおい、無視するなよおふたりさん」
 たむろしていた連中のうち、髪を立てた男が歩み寄ってきた。

「別に無視はしとらんわ。用事がないだけや」
「見た感じ、ふたりで潜るつもりのようだが?」
 髪立て男は、ミスズの棘を完全スルーして切り込んできた。

「洞窟は初めてなので、今日は浅いところを探ろうと思っている。四級なんだが、ふたりでは危ないか?」
「あー、四級か。悪くないねぇ。ここの最奥部まで行くならちょうどかな?」

 振り返って、仲間たちのほうに歩き出す。最後に左手を挙げて髪立て男は言った。
「頑張ってねぇ~」
 あの男が言ったことは解説本と齟齬はないので、嘘ではないようだ。

 洞窟の入り口をくぐると、明らかに空気が変わった。カビと埃と腐臭の混じった、慣れの必要な臭いである。確かにこんな場所では食欲は湧きそうにない。

「…なぁおっちゃん、あいつらなんやろな?」
「…ミスズさんも怪しいと思うか?」
 まぁ、怪しいと思わないわけがない怪しさだったわけだが。

「伊達に何年もひとり暮らししてないで」
「流石だな。ここを出るときは気をつけておこう」
 さっきの連中について話しながら、俺たちは奥に進んだ。

 地面は踏み固められ、ある程度平坦になっているが、壁面は倒れ込むと怪我をしそうなほどボコボコしている。
 人が掘ったものではない、火山の風穴のような、いかにも洞窟という雰囲気の穴だ。

「ここが最低レベルの洞窟て、ホンマかいな?」
「かなりおどろおどろしいな。地面も歩きにくいし…」
 その辺りに落ちていた棒に、赤い石をくっつけて光らせているので、灯かりはあるが、壁面の凹凸のせいで視界は良好とは言えない。

 考えてみれば、バケモノが居る洞窟にホイホイ入ってしまったわけだが、こんなところ、治癒魔法がなければ絶対に来ない。
 ミスズは治癒魔法が不得手らしいが、ないよりはるかにマシだ。

 地球でも、医療技術が進歩していなかった時代の戦争など、内臓が傷ついたらまず助からないし、毒ならもっと簡単に死ねる。
 まったく魔法さまさまだな。

「っつきゃあ!」

ドン!

 突然叫んだミスズが、前方に向けて爆発モードの赤い石を投げた。 
「お、おいミスズさん、どうしたんだ?」
「ななな、なんか居ったで?」

「ミスズさん、その“なんか”が人間だったらどうするんだ?」
 爆心地に向かうと、何かの痕跡と少量のアプリが転がっていた。
 幸い人間ではなかったようだ。

「ごめんな。気をつけるわっきゃあ!」

ドン! ドン! ドン!

 再び赤い石を放り投げるミスズ。周囲でいくつもの爆発が広がる。
「ちょちょちょ! 何が居たんだよミスズさん?」
「分からん」

 爆心地を回ると、痕跡とアプリが転がっている。
「おいおい、ちょっと落ち着け。赤い石は効率悪いから、前衛は俺に任せて魔法屋で魔法買ってくるって言ってなかったか?」

「ちゃんと当たってるやろ?」
「当たってるが、当たってるみたいだが!」
 アプリが稼げるのは嬉しいが、激しくモヤモヤする。

「…何に当たってるんだよ?」
「そこぉ!」

ドン!

 そんな調子で、ミスズの赤い石攻撃はその後も続き、アプリは稼げたものの、俺は活躍の機会を奪われっぱなしになった。

「そうか、分かったぞ。灯かりもなしで物陰に潜んでるやつは、バケモンか悪意のある洞窟探検者だから、人間だったとしても先制攻撃して問題なしってわけだな? そういうことだろう? ミスズさん!」

「なんやてぇ?」
 恐怖のためか、ミスズはガンギマリな目つきになっていた。

ドン!

「違うのかよ! うわあぁ!」

「…あぁ酷い目に遭った…」
「ごめんて。ちゃんと治したったから、堪忍してや」
 赤い石を前方に投げるということは、俺が爆発に直面するということだ。

 至近距離で爆発を食らい続けた俺は、ケガは治してもらったものの、革鎧の下に着ていたスーツが丸コゲになってしまった。
「けど、なんでこんなに怖いんやろ? 合点がいかんわ」

「まぁ、初めての洞窟探検だからな。俺もスーツじゃダメだな。外にいた奴らみたいに、鎧の下に着る専用のヤツを買わなくては」
「また今度、アプリが貯まってからな」

 会話を交わしながらも、周囲への注意は怠らない。
「一番簡単な洞窟で服がボロボロになるんやから、難しい洞窟へ行ったら、どないなるか分からんな」
「いやいや、キミがそれを言うかね?」

 ベコちゃんのように舌を出すミスズ。か、可愛いじゃねぇか…。
「そこそこアプリも稼げたし、怖いし、今日はもう切り上げん?」
「そうだな。キミが言うならそうしようか」

 入り口に戻るのは、爆発の痕跡を辿れば簡単だった。
「なんだか複雑な気分だが、楽でよかったと言うべきか。ううむ」
 俺が先に洞窟から出ようとしたところに、入り口の影に隠れていた男が、思い切り剣を振り下ろした。

 しかし、俺は出たと見せかけただけで、実際は出た瞬間に跳び退いていたため、その攻撃は空振りした。
「どきやがれ、この馬鹿が!」

 空振りした姿のまま固まっているならず者を、鞘ぐるみの剣で力任せにぶん殴る。
 ならず者は意味不明な叫びを上げて吹っ飛んだ。切れはしないが、かなり痛いだろう。
「んはは。やっぱりなんかあったな」

 少し奥で立ち止まっていたミスズが笑った。
 ならず者たちが、洞窟の入り口を半円形に取り囲む。
「不意打ちするようなヤツは、不意打ちが失敗した時点で諦めるべきだと思うが…。まぁ、諦めて逃げられても面倒だがな」

「ウチ頭脳労働やから、休んでてもええ?」
 壁面にもたれて手を振るミスズ。
「ああ、ミスズさんは働きすぎだから、休んでいてくれ」
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