萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部

戸ケ苫 嵐

文字の大きさ
57 / 58

第五十六話 死にはする。だが、ただでは死なん!

しおりを挟む
「…なんだよそれ! そんなこと、最後に言うことかよ。名前じゃなかったとか、どうでもいいよミスズさん。キミはミスズさんだよ…」

 別れは別れだが、泣くのは違うと思った。悲しさと、祝福してやりたい気持ちが綯い交ぜになって、俺に大声を出させた。
「くそおおおおおッ!!」

『…シオン様』
 俺の傍で、いつからか黙り込んでいたアリアが言葉を発した。
『申し訳ありません、シオン様。…私もお暇させていただきます』

「なんだって? アリアも俺を置いていくのか?」
 遠くない未来に別れは来るのだと予告されていたが、まさか今とは。しかもアリアに訪れたのは、ミスズとは違って本当の死である。

『蠱龍は青い石を与えれば蘇ります。魔物も今のシオン様は魔法が使えますから、私が居なくても、きっと城に戻れるでしょう』
「そんなこと心配するな。なんでこんなときにまで俺の…」

『城に戻ったら、お父様に…大神官に言えば、元の世界に…』
 俺に手を差し伸べたアリアの姿が揺らぎ、ノイズにまみれる。その手を掴もうと手を伸ばしたが、もちろん触れられない。

「アリア!」
『消えた…ない…私は…ずっと…旅…消え…シオ…!』
 雑音だらけで途切れ途切れの叫びを残し、アリアの姿が消えた。

「…アリア?」
 返事はなかった。
 アリアもまた消えた。俺の脳内から消えた。

 ミスズと違うのは、眼に見えるものを何ひとつ残していかなかったことだ。
 俺の前から消えたミスズは、元の世界で生きている。二度と会えないのだとしても、生きているというだけで我慢できる。

 だがアリアは…。
 広くて薄暗い空間に、俺はひとり残された。
「…くそォ…」

 なにに対してか分からぬまま、俺は悪態をついた。

「…帰るか」
 口にしたものの、その前に証拠になるものを手に入れなくてはならない。間違いなく魔女を倒したという証拠を。

 勝ったのに、倒したのに、俺はすべてを失った。
 国を救った英雄の一人のはずなのに、なんでこんな気分にならなくてはならないのか。俺の姿もまた、勝者のそれではなかっただろう。

 俺は俯いたまま、玉座に向けて歩き出した。
「…!」
 そのとき、玉座で膨大な魔法力が発生した。

 反射的に顔を上げた俺の前で、動かなくなった動死体の山を掻き分けて、魔女がゆらりと立ち上がった。
「…おい、こんなときに、冗談だろ…?」

 純粋な魔術師であったはずの魔女から、高位回生術の青い光が発している。今までは一度も、アリアが俺の腕を再生したときですら見られなかった濃い青だ。

 頭と手足はまだしも、少なくとも胴体は細かな肉片になったはずだ。あの状態から蘇生するなんて、なにが起こったのだ?
「野郎、三味線弾いてやがったのかよ…」

 魔女は二、三度頭を振ると、俺に向けてふらふらと歩き出した。
 着衣は身体と一緒に弾け飛んだせいで全裸になっているが、身体は完全に再生し、まったくダメージは残っていないようだ。

 俺は瞠目した。これを恐怖というのだろう。
『俺はヤツの胴体を貫いたはずだ。俺の目の前で、ヤツの身体は四散したはずだ。手ごたえだってあった!』

 あれが幻覚だったなら、俺の身体を染めている赤いものはなんなのか? この血は誰のものだというのだ?

『死ねば俺も帰れるのか?』
 そんな考えが一瞬過ぎった。

『いや、たとえ帰れるとしても、アリアを犠牲にしてまで召還されて、なにも成すことなく帰ることなどできるものか!』

 しかも、向こうに帰ってもそれを覚えていて、情けない記憶を引きずったまま生きるなど、怖気がする。
「死にはする。だが、ただでは死なん!」

 総力戦だが、乾いてしまった蠱龍を起こす暇はないだろう。
 現に、なにをするつもりか分からないが、魔女は右手を眼の高さに挙げ、こちらに近付きつつある。

 石の床と裸足が触れ合うヒタヒタという音が、次第に大きくなる。
 重くて硬い剣は壊れてしまったので、予備に持っていた両手剣を抜き、柄に手持ちの最高のアプリを突っ込み、炎魔術を剣に相乗させる。

 自分の身体には、アリアが残していった強化系法術を使えるだけ使い、ミスズが残していった魔法石を叩き込む。
「ぐうっ…!」

 身体がきしみ、悲鳴を上げるが、構わず魔女に向かって突撃をかけた。剣と身体を一塊の武器と化して、魔女への一撃に賭ける。
「おおおおおおおっ!」

 俺の攻撃が魔女に届く刹那、魔女はなぜか膝を衝いて、やけに低い位置で破魔魂聖を発動させた。
 そのせいで俺の身体は、破魔魂聖の上を滑るようにして、魔女の背中側に飛ばされた。

「ぐぅはぁっ…!」
 石の床を転がる。
「なに…? 破魔魂聖だと…?」

 高位回生術と破魔魂聖。
 この魔女は、今まで使える能力を使わずに、俺たち四人の攻撃を凌いでいたというのか? こんなヤツには勝てない、敵うはずがない。この世界に来て最大に膝が震えた。

『ふたりの魔法使いのお陰で、ここまで来られたんだ』
『もう居ない。ふたりはもう居ない』
『俺など、ただの一般人だ。ただでかいだけの、ゴミだ…』

 反対側に転がった俺は、立ち上がることもできないまま、震えながら魔女の後姿を見ていた。伏せていた魔女が、すっくと立ち上がった。
 できることなら、永遠に振り向いてくれるなと思った。

 だが、その願いは誰にも届かなかった。魔女はゆっくり振り返り、俺はその、光る眼を見て心底恐ろしくなった。
 死を覚悟した。

「くっ…そぉ…っ」
 だとしても、座して死を待つわけにはいかない。

 震える足を叱咤し、残った力を注ぎ込んで立ち上がる。ミスズに買ってもらった両手剣が、とてつもなく重く感じる。

 切先を引きずりながら、一歩を踏み出す。
 俺なんかを召喚するために、命を捧げたアリアの、気高き聖女の勇気に報いるために。俺は!

「お前を倒さなきゃ、アリアに合わせる顔がないんだよォ!」
 俺と魔女以外動く者のない、ただっ広い地下空間に声が響いた。
 そのとき、魔女の眼から光るものが零れ落ちた。 

「お…待ちください」
 魔女が口を開いた。
「あ…?」

「…私です。アリアです。シオン様…」
「なん…っ!」
 言ったきり絶句した。そして重力に耐え切れずに膝を衝いた。

 自分をアリアだと名乗った、魔女の姿をした聖森人は、よろめきながら俺に駆け寄ると、怪我を優しく癒してくれた。
 青い光が地下空間に広がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...