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ERROR.01 人類を脅かすバグが発生しました。

Code.21 パートナーを解消してください。

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 軽い。自分が思ったとおりに身体が動く。ただ、それだけのことが、こんなにも嬉しいだなんて。
 亮介とともに暴走したアンドロイドの強化機体に攻撃を浴びせる。亮介のパンチの応酬で相手が後ずさりをしたところに、僕が蹴りを加える。重量にして三百キログラムは下らないんじゃないかという巨体が押し負けた。
 強化機体は膨れ上がった装甲のせいで、上半身が重たく、アンバランスだ。そこを突けば有利な状況を作り出すのは容易い。

「種島社長の装備を自ら引き剥がしたか」
「やっぱり、自分で戦った方が気分がいいってもんだ。そうだろ? ニーナ」

 同意を求めようと呼びかけてみたが、返事はなかった。

「ニーナ……?」

 首を傾げていたところに、相手の光線銃から放たれるエネルギー弾が風を斬る。

「聡、危ないっ! うああああっ!」

 目の前に亮介が立ち塞がり、盾となった。特殊スーツはエネルギー弾を受けて、火花を散らし、亮介はその場に崩れ落ちる。

「亮介、大丈夫か!?」
「よそ見をするな! 相手だけを見ろ!」

 言われて視線を移す。光線銃の銃口にエネルギーが集中し、巨大な火球を作り出している。まずい! あれが放たれたら!!
 咄嗟にリモートセイバーを取り出し、紅いプラズマの刃を展開する。できるかどうか分からない。けど――やるしかない!

「馬鹿、逃げろっ!!」

 まさに撃ち出されようとする火球を前にして仁王立ちになる僕の背後で、亮介の怒号が響く。確かに無茶苦茶だけど、こうでもしないと、亮介を守れない!

“FULL CHARGE!!”

 ついに放たれた火球。こっちに向かって一直線で向かってくる。タイミングを見計らって――今か、今か!?

「今です!!」

 不意に聞こえたニーナの声に身体が反応して、リモートセイバーを振り回す。一度や二度ではない、叩き込めるだけの斬撃を火球に浴びせ、打ち返した。跳ね返った火球は相手の機体を直撃し、爆炎を上げる。

「――無茶しやがって」
「亮介、お前を助けるためなら、いくらだって無茶はするさ」

 けっ、と乾いた笑いを漏らして、亮介は僕が差し伸べた腕を掴んで立ち上がる。そして、爆炎が薄まって、地面に倒れて這いつくばるだけとなった相手の機体を確認し、僕らは顔を見合わせて頷いた。

「「とどめを刺すぞ!」」

 僕らは空に向かって跳躍した。
 亮介の右脚に稲妻が纏わりつく。僕の右脚につけたリモートセイバーが火を噴く。
 呼吸を合わせ、咆哮する! 亮介は雷の――、僕は炎の槍となって、二本の槍は地面で這いつくばる相手の機体を貫いた!
 がりがりと道路を抉って二本のラインを描きながら着地する僕らの背後で、爆炎が上がった。
 破壊せずに回収することは叶わなかったが、ひとまず一件落着か。

 「キャスト・オフ」と唱えて、パワードスーツを脱着する。亮介も特殊スーツのヘルメットを脱いだ。その瞬間、今までの疲労がどっと押し寄せて、よろけてしまう。倒れかけたところを亮介に支えられて、何とか立ち直る。

「俺が言えたことじゃないが、聡、お前もめちゃくちゃだな」
「僕のおかげで命拾いしたくせに」

 互いにふて腐れた笑みを交わしながら、生還を祝い、握手を交わす。戦いを乗り越えたことは喜ばしいが、問題は山積みだ。満を持して迎えた株主総会も、バグによる人類への宣戦布告でぶち壊されてしまった。どこかで仕切り直ししなければ――
 ため息をついたところに、スマートフォンに着信が入る。かけてきたのは株主総会の会場にいた邦山さんだ。

「聡、安心しているところ悪いが、大変なことになり始めているぞ」

 彼の声には相当な焦りが見える。
 話は、AIC株式会社の株価のことだった。

「急速に株価が落ちている。問い合わせの電話がひっきりなしに鳴っている」

 その事態は予測できていた。あの株主総会に出席していた報道陣の中にはライブ撮影をしていた者もいたのだろう。それに、実際にバグによってハッキングされたアンドロイドが暴走し、人的被害が起きれば、その情報は瞬く間に全国に広がる。

「それからよく聞いて欲しい。その問い合わせのうちの大部分が、『うちで使っているアンドロイドも暴走して人を襲い始めた』というものだ」

 何だって……。

「じゃあ、他にもまだまだ暴走したアンドロイドがたくさんいるってことですか!?」
「ああ。それも一件や二件じゃない。今確認しているだけで百件は越えている」
「ひゃ、百件って!」

 驚きのあまり、邦山さんから聞いた数をオウム返ししてしまう。

「このままだと会社自体の存続は絶望的。――良くても買収されて名前だけが残るかだろう」
「買収って、親父から会社を受け継いだばかりなのに……」
「とにかく、君の一手一手に全てがかかっている」

 現状、伝えておきたいことはそれだけだ。何かを覚悟したかのような声で、一方的に電話は切られた。引き留めようとしたけれど、何も言葉は思いつかず、電話が切れてもしばらくは、耳元にスマートフォンを添えたままになっていた。

「聡、お前は会社のことに集中しろ。アンドロイドの暴走は俺が止める」

 亮介が狼狽えている僕の肩にぽんと手を置く。

「でも、もっと強い強化機体が現れたら、亮介も太刀打ちできなくなる! そうなったら、亮介は――!」
「それは聡さんも同じです!!」

 亮介と半ば言い争いになりかけていたところでニーナが割って入った。

「聡さん、なんで種島社長の装備を無理矢理引っこ抜いたりしたんですか? あれはパワードスーツの機動力を向上させるために必要なものだったんです。聡さん、あなたは状況を軽んじています。」
 
 スーツケースの形態になったニーナがじわじわと詰め寄り、僕を責め立てる。そして彼女は、僕のすぐ隣を通り過ぎて、亮介の隣でぴたりと止まった。

「ニーナ……?」

「聡さん、あなたをこれ以上戦わせるわけにはいきません。利根川さんの戦力が不安だというのならば……、これからは、私が利根川さんをお守りします」
「ちょ、ニーナ、何を言ってるんだよ。ニーナは僕のパートナーだろ? 亮介からも何か言ってやれよ」
「いや、それで聡が前線に出てこなくなる上に、俺の戦力が上がるなら、これ以上のことはない」

 何で、亮介までそんなこと言うんだよ。
 嘘だよな。嘘だよな? 僕が何か悪いことをしたか? 種島社長の装備を僕が受け入れなかったからか?

「聡さん、ごめんなさい……。あなたとのパートナーは解消させてもらいます」
「ニーナ、待ってくれ!」
「聡、ニーナの気持ちぐらい察しろ。ニーナは、お前に死んでほしくないんだよ」
 
 亮介にそう言われて、彼女を引き留めようとした腕が、だらりと垂れた。
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