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それから二人はさまざまな角度から景色を眺めていき時には双眼鏡を使ったりなど展望台からの眺めを満喫していたが、その途中仁美がなにかを見つけ足を止めた。
円盤上の広間の中心、エレベーターの裏側に一ヶ所大人4,5人が一気に通り抜けられそうな扉があった。扉の上には緑色のランプが点っておりガラス張りになっている部分から向こう側が透けて見え、奥には階段が顔を覗かせている。
「どうしたの?」
急に立ち止まった仁美が覗き込んでいる扉を弘樹も覗き込んでみる。
「そちらは緊急時にのみ使用される非常階段となっております」
二人して扉の中を覗き込んでいると後ろから声をかけられた。
エレベーターで案内をしていたスタッフと同じ制服を着込んでいる女性が笑顔を称えながら二人が気にしていた扉について説明をする。
「非常階段ってこれ下まで下りられるんですか?」
「はい、と言っても非常用電源もありますし余程の事がなければ使われませんが」
制服の女性は台本でもあるかのようにすらすらと弘樹の質問に答えていく。
「じゃああれはなんですか?」
仁美が指し示しているのは下へ続く階段の奥、最上階であるはずのこのフロアよりもさらに上に続く階段が鎮座していた。
「あちらは屋上へと続く階段です。主に点検や工事の出入りの為に使われております。それと時々ですがテレビの撮影など、特別な許可を取った方達もご利用されます」
「屋上・・・」
制服の女性が話を聞き終えた仁美はもう一度奥の階段に目を向け呟いた。
「九条さんって高いところ好きなの?」
制服の女性にお礼を言い扉の奥を見つめている仁美に問いかける。
「・・・好きと言うか」
そこで少し考える素振りを見せ弘樹に向き直った。
「安心する?」
「なんで疑問系?」
自分の事であるのによくわかっていないような言いぐさに弘樹は苦笑混じりに聞き返す。
しかし仁美は弘樹の質問には答えず歩き始めた。弘樹の脇を通り抜け腕を伸ばしてギリギリ届くか届かないかという距離で足を止め振り向く。
「そろそろ下りよう」
それだけ言いまた前を向いて歩き始め、弘樹も遅れてそのあとを着いていく。
展望台から出てきたときには太陽も頂上から折り返し始めており二人は外の寒さを凌げる場所を探して展望台の周辺を散歩がてら散策する。
昼時も過ぎた頃散歩コースにもなっている芝生の敷き詰められた広めの公園の向かい側に屋内の休憩スペースを見つけ公園を一望できる長椅子にまず弘樹が座り仁美はその右隣に腰を掛け持ってきていた弁当を食べ始めた。
「九条さんはお弁当自分で作ってるの?」
仁美の弁当の中身を覗き見ながらなんとなしに問いかける。
「そう」
「へえ~すごいね中身もちゃんとしてるし」
何度か一緒に昼食を共にしたが仁美の弁当は毎回整っていて見ているだけで食欲がそそられるような作りになっていた。
「慣れてるだけ、そっちは?」
端的に答えながら弘樹に質問を返す。
「俺のは義理の兄さんに作ってもらってるんだよ」
自分の弁当を箸で指しながら返された質問に答える。
「義理の兄さん?」
「そう、今姉さんの家に住まわせてもらってて義理の兄さん、宗一さんが仕事をしてる姉さんに代わって家事をしてくれてるんだ」
弘樹は一息に言い終えたあと弁当の中身を口に運んだ。
「そうなんだ」
会話が終わってしまい二人はその後話すこともなく弁当を食べ終えた。
「九条さんは明日からどうする?」
弁当箱を仕舞い込みながら今朝と同じような質問をする。
「特に決めてない」
「そっか」
鞄から持参していた飲み物を取り出し喉を潤していた仁美はカップから口を離し目の前に視線を向ける。
その先には子供がはしゃいで母親であろう女性の回りを駆け回りベンチには散歩をしていた老夫婦が休憩がてら座りながら会話をしている、奥にはここからでは近すぎて全貌は見えないが先刻まで自分達が上っていた展望台が二人を見下ろしていた。
弘樹には今仁美がなにを見てなにを考えているのか検討もつかなかったが彼女に倣い目の前の風景を眺め続ける。
しばらくして弘樹はなんとなく携帯を取り出した。何件か連絡は来ていたが帰ってから確認すればいいかと再び携帯を仕舞おうとしたが、あることを思いつき携帯を手に持ったまま仁美に話しかけた。
「ねえ九条さんって携帯持ってる?」
自分の携帯を仁美に見えるように掲げながら彼女に質問をする。
「一応、持ってるけど」
この後になにを言われるのかを大体察しながらも仁美は素直に持っていることを打ち明けた。
「じゃあさ連絡先交換しない?」
案の定弘樹の次の言葉は仁美の予想していた通りのものでなんだか呆れてしまい一つため息を吐いた。
「わかった」
脇に置いてある鞄から携帯を取り出し操作を始めるも慣れていないのかたどたどしい動きで指を動かしていく。
しかし急に指の動きをぴたりと止めたかと思えばゆっくりと弘樹の方を振り向き首をかしげた。
「ねえ、連絡先の交換ってどうやるの?」
「・・・したことないの?」
「家の電話番号は登録してるけど交換はしたことない」
あっけらかんと言い放つ仁美に信じられない物を見るようにまじまじとその顔を見つめてしまう。
弘樹も今まで勇人と小春の二人としか付き合ってこなかったがそれでなくても家族もそれぞれ携帯を持っているので連絡先の交換をする機会はあると思うのだが。
「家の人と交換とかしてないの?」
「・・・私しか持ってないから」
言い辛いようなことでもあるのか目を伏せながら弘樹の疑問に答える。
「ん~じゃあ教えるから見せてみて」
仁美の雰囲気の変化を感じ無理矢理に大きめの声を出して取り繕う。
少し間を置いたが仁美は携帯の画面が見えるように腕を動かした。右手で携帯の操作をしていたため二人の距離は肩が触れるまで近づき弘樹は思わず身を固くさせる。
「・・・どうしたの?」
「な、なんでもない」
携帯画面を見せているのにいつまで経ってもなにも声を発さない弘樹に声をかけるが当の弘樹は顔を隠すように手を広げはぐらかした。
腑に落ちないような表情を見せたが特に言及することもなく携帯の画面に目を移す。
仁美は見逃していたが弘樹の顔は紅葉のように紅潮していた。
なんとか自分を落ち着かせた弘樹の指南によって連絡先の交換を終え、取り出していた携帯で時間を確認すると思ったよりも時が流れていたようで。
「もうこんな時間か」
すでに学校であれば終業になっている時分で仁美も時間を確認し荷物をまとめ始めた。
「そろそろ帰る」
「そっかじゃあ俺も」
元々そこまで広げていない荷物をまとめ上げ二人は駅まで歩いていく。
今の状況に慣れたのか弘樹はいつも通りに話をし仁美もそれにいつも通り受け答えをしながら駅へとたどり着いた。
二人とも同じ方向の電車に乗り込む。車内は混雑はしていないものの座るスペースはないほどには人混みがあり二人は空いている扉の前に寄り合い自分達の最寄りの駅まで運んでくれるのを待つ。
その間も弘樹は仁美と会話を続けていく。最近では仁美も当たり障りのない話題だけではなく自分の事を話してくれるようになりその変化が弘樹には嬉しかった。
家事は自分でほとんどこなしていること祖母と二人で暮らしていること最寄りの駅は弘樹と二駅しか離れことなど今日だけで仁美のことを多く知ることができた。
それでも終わりの時は訪れるもので気付けば弘樹の最寄りの駅に到着する時間が近づいていく。
「じゃあ、俺はもう次の駅だから」
肩の鞄をかけ直し下りるための準備をする。
ホームが見え始め電車が徐々にその速度を落とし始めていく。
「それじゃあ九条さん今日はありがとう時間あるときに連絡するね」
弘樹はホームに下りるため反対の扉へ向かおうと足を踏み出した。
「望月くん」
だが一歩踏み出したところで仁美に呼ばれ足を止め彼女を振り返る。
そういえばこちらから呼び掛けることの方が多く仁美から名前を呼ばれるのが新鮮で呼び止められたことよりそちら方に驚いた。
「その、今日はありがとう、じゃあ」
そこで仁美は顔の横で小さく振り。
「またね」
始めて話しかけたときと同じように真っ直ぐ弘樹の顔を見据えながら仁美はそう声を掛けた。
弘樹は一度大きく目を見開いたがやがて満面の笑みを咲かせ。
「うん、またね」
仁美と同じように小さく手を振り返し駅のホームへと降り立つ。
帰りの道中弘樹はなんだか胸が一杯で寒さも気にならず軽い足取りで帰路についた。
「ただいま」
少し高めの声で自宅の扉を開けながら帰宅の挨拶をする。
「おかえり」
居間から宗一が弘樹の声に応えるが心なしかその声も若干高めで嬉しそうに上擦っている。
玄関に目を向けるとここ一週間以上見ていない女性ものの靴がきちんと整列されていた。
弘樹が家に上がりそのまま居間へと入っていくと。
「おう、弘樹おかえり」
いくら暖房を掛けているとはいえ冬にしては薄着で椅子に腰掛け夕方とはいえこんな早い時間からワインを飲み始めている香里が弘樹を出迎えた。
円盤上の広間の中心、エレベーターの裏側に一ヶ所大人4,5人が一気に通り抜けられそうな扉があった。扉の上には緑色のランプが点っておりガラス張りになっている部分から向こう側が透けて見え、奥には階段が顔を覗かせている。
「どうしたの?」
急に立ち止まった仁美が覗き込んでいる扉を弘樹も覗き込んでみる。
「そちらは緊急時にのみ使用される非常階段となっております」
二人して扉の中を覗き込んでいると後ろから声をかけられた。
エレベーターで案内をしていたスタッフと同じ制服を着込んでいる女性が笑顔を称えながら二人が気にしていた扉について説明をする。
「非常階段ってこれ下まで下りられるんですか?」
「はい、と言っても非常用電源もありますし余程の事がなければ使われませんが」
制服の女性は台本でもあるかのようにすらすらと弘樹の質問に答えていく。
「じゃああれはなんですか?」
仁美が指し示しているのは下へ続く階段の奥、最上階であるはずのこのフロアよりもさらに上に続く階段が鎮座していた。
「あちらは屋上へと続く階段です。主に点検や工事の出入りの為に使われております。それと時々ですがテレビの撮影など、特別な許可を取った方達もご利用されます」
「屋上・・・」
制服の女性が話を聞き終えた仁美はもう一度奥の階段に目を向け呟いた。
「九条さんって高いところ好きなの?」
制服の女性にお礼を言い扉の奥を見つめている仁美に問いかける。
「・・・好きと言うか」
そこで少し考える素振りを見せ弘樹に向き直った。
「安心する?」
「なんで疑問系?」
自分の事であるのによくわかっていないような言いぐさに弘樹は苦笑混じりに聞き返す。
しかし仁美は弘樹の質問には答えず歩き始めた。弘樹の脇を通り抜け腕を伸ばしてギリギリ届くか届かないかという距離で足を止め振り向く。
「そろそろ下りよう」
それだけ言いまた前を向いて歩き始め、弘樹も遅れてそのあとを着いていく。
展望台から出てきたときには太陽も頂上から折り返し始めており二人は外の寒さを凌げる場所を探して展望台の周辺を散歩がてら散策する。
昼時も過ぎた頃散歩コースにもなっている芝生の敷き詰められた広めの公園の向かい側に屋内の休憩スペースを見つけ公園を一望できる長椅子にまず弘樹が座り仁美はその右隣に腰を掛け持ってきていた弁当を食べ始めた。
「九条さんはお弁当自分で作ってるの?」
仁美の弁当の中身を覗き見ながらなんとなしに問いかける。
「そう」
「へえ~すごいね中身もちゃんとしてるし」
何度か一緒に昼食を共にしたが仁美の弁当は毎回整っていて見ているだけで食欲がそそられるような作りになっていた。
「慣れてるだけ、そっちは?」
端的に答えながら弘樹に質問を返す。
「俺のは義理の兄さんに作ってもらってるんだよ」
自分の弁当を箸で指しながら返された質問に答える。
「義理の兄さん?」
「そう、今姉さんの家に住まわせてもらってて義理の兄さん、宗一さんが仕事をしてる姉さんに代わって家事をしてくれてるんだ」
弘樹は一息に言い終えたあと弁当の中身を口に運んだ。
「そうなんだ」
会話が終わってしまい二人はその後話すこともなく弁当を食べ終えた。
「九条さんは明日からどうする?」
弁当箱を仕舞い込みながら今朝と同じような質問をする。
「特に決めてない」
「そっか」
鞄から持参していた飲み物を取り出し喉を潤していた仁美はカップから口を離し目の前に視線を向ける。
その先には子供がはしゃいで母親であろう女性の回りを駆け回りベンチには散歩をしていた老夫婦が休憩がてら座りながら会話をしている、奥にはここからでは近すぎて全貌は見えないが先刻まで自分達が上っていた展望台が二人を見下ろしていた。
弘樹には今仁美がなにを見てなにを考えているのか検討もつかなかったが彼女に倣い目の前の風景を眺め続ける。
しばらくして弘樹はなんとなく携帯を取り出した。何件か連絡は来ていたが帰ってから確認すればいいかと再び携帯を仕舞おうとしたが、あることを思いつき携帯を手に持ったまま仁美に話しかけた。
「ねえ九条さんって携帯持ってる?」
自分の携帯を仁美に見えるように掲げながら彼女に質問をする。
「一応、持ってるけど」
この後になにを言われるのかを大体察しながらも仁美は素直に持っていることを打ち明けた。
「じゃあさ連絡先交換しない?」
案の定弘樹の次の言葉は仁美の予想していた通りのものでなんだか呆れてしまい一つため息を吐いた。
「わかった」
脇に置いてある鞄から携帯を取り出し操作を始めるも慣れていないのかたどたどしい動きで指を動かしていく。
しかし急に指の動きをぴたりと止めたかと思えばゆっくりと弘樹の方を振り向き首をかしげた。
「ねえ、連絡先の交換ってどうやるの?」
「・・・したことないの?」
「家の電話番号は登録してるけど交換はしたことない」
あっけらかんと言い放つ仁美に信じられない物を見るようにまじまじとその顔を見つめてしまう。
弘樹も今まで勇人と小春の二人としか付き合ってこなかったがそれでなくても家族もそれぞれ携帯を持っているので連絡先の交換をする機会はあると思うのだが。
「家の人と交換とかしてないの?」
「・・・私しか持ってないから」
言い辛いようなことでもあるのか目を伏せながら弘樹の疑問に答える。
「ん~じゃあ教えるから見せてみて」
仁美の雰囲気の変化を感じ無理矢理に大きめの声を出して取り繕う。
少し間を置いたが仁美は携帯の画面が見えるように腕を動かした。右手で携帯の操作をしていたため二人の距離は肩が触れるまで近づき弘樹は思わず身を固くさせる。
「・・・どうしたの?」
「な、なんでもない」
携帯画面を見せているのにいつまで経ってもなにも声を発さない弘樹に声をかけるが当の弘樹は顔を隠すように手を広げはぐらかした。
腑に落ちないような表情を見せたが特に言及することもなく携帯の画面に目を移す。
仁美は見逃していたが弘樹の顔は紅葉のように紅潮していた。
なんとか自分を落ち着かせた弘樹の指南によって連絡先の交換を終え、取り出していた携帯で時間を確認すると思ったよりも時が流れていたようで。
「もうこんな時間か」
すでに学校であれば終業になっている時分で仁美も時間を確認し荷物をまとめ始めた。
「そろそろ帰る」
「そっかじゃあ俺も」
元々そこまで広げていない荷物をまとめ上げ二人は駅まで歩いていく。
今の状況に慣れたのか弘樹はいつも通りに話をし仁美もそれにいつも通り受け答えをしながら駅へとたどり着いた。
二人とも同じ方向の電車に乗り込む。車内は混雑はしていないものの座るスペースはないほどには人混みがあり二人は空いている扉の前に寄り合い自分達の最寄りの駅まで運んでくれるのを待つ。
その間も弘樹は仁美と会話を続けていく。最近では仁美も当たり障りのない話題だけではなく自分の事を話してくれるようになりその変化が弘樹には嬉しかった。
家事は自分でほとんどこなしていること祖母と二人で暮らしていること最寄りの駅は弘樹と二駅しか離れことなど今日だけで仁美のことを多く知ることができた。
それでも終わりの時は訪れるもので気付けば弘樹の最寄りの駅に到着する時間が近づいていく。
「じゃあ、俺はもう次の駅だから」
肩の鞄をかけ直し下りるための準備をする。
ホームが見え始め電車が徐々にその速度を落とし始めていく。
「それじゃあ九条さん今日はありがとう時間あるときに連絡するね」
弘樹はホームに下りるため反対の扉へ向かおうと足を踏み出した。
「望月くん」
だが一歩踏み出したところで仁美に呼ばれ足を止め彼女を振り返る。
そういえばこちらから呼び掛けることの方が多く仁美から名前を呼ばれるのが新鮮で呼び止められたことよりそちら方に驚いた。
「その、今日はありがとう、じゃあ」
そこで仁美は顔の横で小さく振り。
「またね」
始めて話しかけたときと同じように真っ直ぐ弘樹の顔を見据えながら仁美はそう声を掛けた。
弘樹は一度大きく目を見開いたがやがて満面の笑みを咲かせ。
「うん、またね」
仁美と同じように小さく手を振り返し駅のホームへと降り立つ。
帰りの道中弘樹はなんだか胸が一杯で寒さも気にならず軽い足取りで帰路についた。
「ただいま」
少し高めの声で自宅の扉を開けながら帰宅の挨拶をする。
「おかえり」
居間から宗一が弘樹の声に応えるが心なしかその声も若干高めで嬉しそうに上擦っている。
玄関に目を向けるとここ一週間以上見ていない女性ものの靴がきちんと整列されていた。
弘樹が家に上がりそのまま居間へと入っていくと。
「おう、弘樹おかえり」
いくら暖房を掛けているとはいえ冬にしては薄着で椅子に腰掛け夕方とはいえこんな早い時間からワインを飲み始めている香里が弘樹を出迎えた。
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