8 / 9
8
しおりを挟む
「帰ってくるなら連絡くれればいいのに」
「サプライズだ、驚いただろう」
得意気な顔でグラスを傾ける香里に呆れを隠さずに思いきりため息をついたが次の瞬間には呆れながらも香里が無事に帰ってきたことに安堵し自然と顔がほこんで。
「おかえり」
「ただいま」
家でくつろいでいる香里へ労いの意味を込め久方ぶりの挨拶を交した。
「でっ」
しかし和やかな雰囲気もつかの間、再び弘樹はうんざりした表情で香里に詰め寄る。
「これはいったいどういう状況?」
居間を見渡してみるとソファを端に追いやりテレビやテーブルの位置をずらし最低限の人の動線を確保されてはいるが部屋の半分程が山積みの段ボールで埋まっていた。
宗一も香里のためにつまみを作って運んだりしているがずいぶん窮屈そうに動いている。
「また無駄な買い物したの?」
弘樹の詰問にも涼しい顔をしつつグラスの中身を喉に流し込んでいた香里だが最後の言葉に対しむっと口を尖らせた。
「心外な、これまで無駄な買い物なんてしたことないだろう」
「あるよ!」
沢山と弘樹は叫びこれまで香里が買ってきたもので納得のいかないものを順に挙げていく。
懐かしいと古いレコードを、聴くための機械もないのに買ってきたり水圧で汚れを落とせる機械は宗一の毎日の掃除のお陰で活躍せず1日3分と謳い文句のダイエット器具は結局使われることもないまま香里の部屋の隅に佇んでいる。
挙げていけば切りが無く香里の部屋は普段使っている空間以外そういった不要なものが溜まりちょっとした倉庫のようになっていて香里自身も理解しているのか仕事を家に持ち帰って来たとき以外自分の部屋であるのにほとんど近づこうとしなかった。
列挙されていく無駄遣いに反論していくもののごにょごにょと聞き取るのも困難な程小さい声で喋っているため弘樹の声にかき消され誰の耳にも届かないでいる。
「まあまあもうそこまでにしてあげなよヒロくん」
丁度つまみをテーブルに運んできた宗一がどんどん小さくなっていく香里に見かね、絶え間ない追及を繰り返す弘樹を宥めるように苦笑混じりにその勢いを遮った。
「そーいちー弘樹がいじめるー」
つまみの乗った浅皿をテーブルに置いた宗一にまるでいたずらが見つかり叱られた子供のように泣きつき取って付けたようなわめき声を発している。
「はあ、宗一さんがそうやって甘やかすから調子に乗るんですよ」
纏わり付く香里の頭を撫でている宗一にまた一つ諦めのため息を吐きながら身に付けていた鞄とコートを脱ぎ香里の向かいの椅子に腰を下ろした。
「それで、無駄じゃないならこれはいったいなに?」
居間を占拠している段ボール群について咎めるように問い質す。
宗一から離れた香里はグラスの中身を一息に飲み干すと先程とはうってかわって真面目な顔つきになり急な変化に弘樹は思わず息を呑んだ。
「少し多めに買いすぎたがこれらは大体一月分の生活用品だ」
「生活用品?」
「そう、保存の利く食料に日々使うものをまとめて取り寄せた」
言いながら宗一の用意したつまみを口に運び満足そうに頷いて空のグラスを赤い液体で満たしていく。
宗一もエプロンを外し香里の隣に座って話を聞く態勢に入った。
「なんでまた急に」
香里の行動の意図が図れず弘樹は困惑した様子で問い掛ける。
「急ではないぞ」
弘樹の問い掛けに否定の言葉を返した香里は一度グラスに口をつけ立て続けに口を開いた。
「二人とも会見を見たのなら一月後に何が起こるかわかるだろう?」
その言葉に場の雰囲気は凍りついた。確かに香里が帰って来たのなら今後の事について話をしなければならないとわかってはいたのだがこうもあっさりと切り出されてしまい、弘樹と宗一は息が止まり声を出すこともかなわずただ彼女の次の言葉を待つことしかできなかった。
「今はまだ事の大きさ故に周りに変わった様子もないが、もう少し時間が経てば世の中は確実に変わっていく。そうなってから行動してたのでは手遅れになるからな」
香里の様子は真剣そのものであったがなんでもないことのように言い放ち宗一の用意したつまみを美味しそうに頬張るその雰囲気の落差に二人は未だに固まったまま動けずにいた。
「今後について話すのは私が帰ってくるのを待っていたのだろう?」
黙って視線のみ向けてくる二人に喋り続ける。
「ならば今話をしよう、こういうことは早いに越したことはないからな」
提案する香里に弘樹は相変わらず決断は早いなと場違いなことを考えていた。
香里の部屋に溜まっている物も悩まずに即断即決で購入しているため止めることができず随分頭を抱えたな、とそこまで考えたところで。
「それでまず手始めに」
香里の言葉に思考が打ち消され現実に引き戻された弘樹はまた頭を抱えることになる。
「買ったはいいがこの荷物をどこに置いたらいいだろうか」
三人の話し合いはまず弘樹が爆発することから始まった。
「サプライズだ、驚いただろう」
得意気な顔でグラスを傾ける香里に呆れを隠さずに思いきりため息をついたが次の瞬間には呆れながらも香里が無事に帰ってきたことに安堵し自然と顔がほこんで。
「おかえり」
「ただいま」
家でくつろいでいる香里へ労いの意味を込め久方ぶりの挨拶を交した。
「でっ」
しかし和やかな雰囲気もつかの間、再び弘樹はうんざりした表情で香里に詰め寄る。
「これはいったいどういう状況?」
居間を見渡してみるとソファを端に追いやりテレビやテーブルの位置をずらし最低限の人の動線を確保されてはいるが部屋の半分程が山積みの段ボールで埋まっていた。
宗一も香里のためにつまみを作って運んだりしているがずいぶん窮屈そうに動いている。
「また無駄な買い物したの?」
弘樹の詰問にも涼しい顔をしつつグラスの中身を喉に流し込んでいた香里だが最後の言葉に対しむっと口を尖らせた。
「心外な、これまで無駄な買い物なんてしたことないだろう」
「あるよ!」
沢山と弘樹は叫びこれまで香里が買ってきたもので納得のいかないものを順に挙げていく。
懐かしいと古いレコードを、聴くための機械もないのに買ってきたり水圧で汚れを落とせる機械は宗一の毎日の掃除のお陰で活躍せず1日3分と謳い文句のダイエット器具は結局使われることもないまま香里の部屋の隅に佇んでいる。
挙げていけば切りが無く香里の部屋は普段使っている空間以外そういった不要なものが溜まりちょっとした倉庫のようになっていて香里自身も理解しているのか仕事を家に持ち帰って来たとき以外自分の部屋であるのにほとんど近づこうとしなかった。
列挙されていく無駄遣いに反論していくもののごにょごにょと聞き取るのも困難な程小さい声で喋っているため弘樹の声にかき消され誰の耳にも届かないでいる。
「まあまあもうそこまでにしてあげなよヒロくん」
丁度つまみをテーブルに運んできた宗一がどんどん小さくなっていく香里に見かね、絶え間ない追及を繰り返す弘樹を宥めるように苦笑混じりにその勢いを遮った。
「そーいちー弘樹がいじめるー」
つまみの乗った浅皿をテーブルに置いた宗一にまるでいたずらが見つかり叱られた子供のように泣きつき取って付けたようなわめき声を発している。
「はあ、宗一さんがそうやって甘やかすから調子に乗るんですよ」
纏わり付く香里の頭を撫でている宗一にまた一つ諦めのため息を吐きながら身に付けていた鞄とコートを脱ぎ香里の向かいの椅子に腰を下ろした。
「それで、無駄じゃないならこれはいったいなに?」
居間を占拠している段ボール群について咎めるように問い質す。
宗一から離れた香里はグラスの中身を一息に飲み干すと先程とはうってかわって真面目な顔つきになり急な変化に弘樹は思わず息を呑んだ。
「少し多めに買いすぎたがこれらは大体一月分の生活用品だ」
「生活用品?」
「そう、保存の利く食料に日々使うものをまとめて取り寄せた」
言いながら宗一の用意したつまみを口に運び満足そうに頷いて空のグラスを赤い液体で満たしていく。
宗一もエプロンを外し香里の隣に座って話を聞く態勢に入った。
「なんでまた急に」
香里の行動の意図が図れず弘樹は困惑した様子で問い掛ける。
「急ではないぞ」
弘樹の問い掛けに否定の言葉を返した香里は一度グラスに口をつけ立て続けに口を開いた。
「二人とも会見を見たのなら一月後に何が起こるかわかるだろう?」
その言葉に場の雰囲気は凍りついた。確かに香里が帰って来たのなら今後の事について話をしなければならないとわかってはいたのだがこうもあっさりと切り出されてしまい、弘樹と宗一は息が止まり声を出すこともかなわずただ彼女の次の言葉を待つことしかできなかった。
「今はまだ事の大きさ故に周りに変わった様子もないが、もう少し時間が経てば世の中は確実に変わっていく。そうなってから行動してたのでは手遅れになるからな」
香里の様子は真剣そのものであったがなんでもないことのように言い放ち宗一の用意したつまみを美味しそうに頬張るその雰囲気の落差に二人は未だに固まったまま動けずにいた。
「今後について話すのは私が帰ってくるのを待っていたのだろう?」
黙って視線のみ向けてくる二人に喋り続ける。
「ならば今話をしよう、こういうことは早いに越したことはないからな」
提案する香里に弘樹は相変わらず決断は早いなと場違いなことを考えていた。
香里の部屋に溜まっている物も悩まずに即断即決で購入しているため止めることができず随分頭を抱えたな、とそこまで考えたところで。
「それでまず手始めに」
香里の言葉に思考が打ち消され現実に引き戻された弘樹はまた頭を抱えることになる。
「買ったはいいがこの荷物をどこに置いたらいいだろうか」
三人の話し合いはまず弘樹が爆発することから始まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる