こじらせ悪役ループ中、異国の皇子に甘く口説かれる

ひがらく

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蝶の羽ばたき

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「せんせい。ぼくがオトナになったら、ツガイになってくれる?」

 その教え子は、まだ幼い竜の子だった。

 無垢で大きな瞳をこちらにまっすぐ向けて、愛の告白をためらいもなく口にする。
 ふざけた様子も冗談めかした様子もない。その真剣さに少し驚く。

「番?」
「うん、ぼくのツガイ」

 この世界には、魔力を安定させるための特別な相手〈番〉という存在がいる。
 人は成長すると、持って生まれた魔力の大きさによって階級が分かれる。魔力が大きい者ほど制御が難しく、その力を暴走させず保つには、自分と相性の良い〈番〉が必要だ。
 この子が将来どれほどの魔力を持つのかはまだわからない。だが彼からは確かに強い魔力の気配を感じた。きっと高位に分類されるだろう。
 
「番っていうのは、簡単になれるもんじゃないんですよ」
 
 俺は事実としてそう答えた。
 そもそも、これは子ども特有の「先生と結婚したい」みたいな、ちょっと背伸びした憧れにすぎないだろう。
 そう思っていたのに。

「ちがう。つがいじゃなくて、ツガイ」

 ツガイ。
 発音は同じでも、彼の中ではまったく別の意味だったらしい。
 言葉の意味は曖昧だけれど、彼が何かを伝えようとしていることだけはわかった。

「ぼくのツガイになって」
 
 真面目な顔でそんなことを言われると、正直、返答に困る。
 けれど子どもの言葉は、あくまでその場かぎりの想いであることが多い。覚えていない約束なんて山ほどある。だったら、彼の懐かしい記憶として残しておくのもいいかもしれない。あんなこともあったな、と振り返って笑えるような。

「そうですね。では、君が大人になったら考えましょうか」
「ぼくがオトナに? ほんとっ?」

 ぱぁっと、顔が一瞬で明るくなる。嬉しそうに口元が綻び、瞳の奥がきらりと輝く。
 その純粋さに思わず微笑ましくなるが、少しだけ胸が痛くなる。
 嘘は言っていない。だが、正直すぎるほど素直な反応だ。

「これ、やくそくのあかし」

 小さな手のひらに乗せられたのは、彼がいつも身につけていたピアスだった。その片方を俺に手渡す。
 それは控えめな黒曜石の粒に細い銀鎖がぶら下がった、垂れ下がるタイプのもの。
 揺れるたびにきらきらと輝くそれを、俺は密かに綺麗だなと思っていた。

「大事なものじゃないんですか?」
「うん。でもせんせいは、ぼくのツガイだから」
 
 そう聞いた俺に、彼は当たり前のように言った。
 ああ、なんてこった。
 もうそのつもりで話は進んでいたらしい。

「ぜったいに、しあわせにするね」
 
 けれど、そんな風に一途に想われることが、まったく嫌じゃなかった。
 たとえ今はおままごとのような想いでも、こうして無垢に自分を想ってくれる気持ちは、確かに嬉しかったから。

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