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×××周目 4*
しおりを挟む同時にふわりと、空気が甘く変わる。
さきほどから微かに感じていた、雨に濡れて分かりにくかったあの甘い香りが、一気にあたりを満たしていく。カナトのピアスから漂うフェロモンより濃く、甘く、抗えない香りに、身体がぞくりと反応した。その甘さに全身が包まれ、思わず身震いする。
「……え?」
「ッ!」
咄嗟に視線をそらし、フードを深く被る。
心臓の鼓動がどくどくと、体内で大きく鳴り響いていた。
なんだ、これは。
危険な予感が全身を走り抜けて、身体が強張ってしまう。頭の中は心臓と同じように警報が鳴り響いていた。何かよくないことが起きている気がする。腹の奥がじわじわと熱くなってきて、苦しい。
「すみませ、……俺、」
この場にいられない。
思わず背を向け、雨の中を走りだそうと足を一歩前に踏み出した、そのときだ。
後ろから伸びてきた手が、俺の腕を掴んだ。
「あっ」
振り返る間もなく、そのまま強い力でぐいっと引き寄せられる。そして後頭部に手が添えられ、目の前に大きく開いた口と、牙が見えて――
「いッ……!」
ガリッ、と鋭い痛みが首筋に走る。何かが肌を貫き、深く食い込む。熱い衝撃に息が詰まった。
痛みに顔を歪めて必死にそれを押しのけようとしたが、力が上手く入らない。
そのままぐらりと視界が揺れて、反転する。背中に激しい振動と石床の冷たい感触。地面に押し倒されたのだと、遅れて理解した。
はっとして顔を上げると、銀色に鈍く光る瞳がすぐそこにあった。
「……なに、を……」
彼、クロヴィスは俺の上に馬乗りになり、肩を上下させながら荒く息を吐いていた。額には汗が滲み、乱れた前髪が貼りついている。
間近で見るその顔は、思っていた以上に整った顔立ちだった。すっきりとした輪郭に、長い睫毛に縁どられた切れ長の目。高く通った鼻筋と、薄く形の良い唇から覗く鋭い牙。異国めいた雰囲気もあいまって、整いすぎてどこか現実感がない。目を逸らせなくなるほどに綺麗で、息を呑むのも束の間、あきらかに様子がおかしいことに気付いた。
先ほどまで普通に喋っていたというのに、まるで別人のように瞳の奥が濁っている。
「どいて、ください」
返事は、ない。
その唇には俺の血が残っていた。その時になってようやく噛みつかれたのだと気付いた。気付いてしまえば、噛まれた首がズキズキと痛んでくる。
彼は無意識のようにゆっくりと舌を動かし唇をなぞる。血の味を確かめるようなその動きが、なぜかいやに艶っぽく、生々しく感じられ、思わずぞくりとした。
まるで本能だけに支配されたその表情は、理性の欠片もない。獣が獲物を見定めているかのような鋭い視線を俺に向けている。
頭が危険だと、告げていた。
「っ、クロヴィス。俺の声が、聞こえますか?」
少しだけ辛そうに、熱い吐息だけを吐いている。俺の声は聞こえていないようだ。
もしかすると、俺が持っているカナトのピアスが原因かもしれない。カナトは、魔力の強い者の性的衝動を誘発するフェロモンを持っている。
それにクロヴィスは、雨に濡れると魔力が不安定になると言っていた。そのせいで俺をカナトと誤認して押し倒している可能性が高い。そうとしか考えられない。
だがそんなことを考えている余裕もなく、再び顔を近付けてくる。
「やめ……んぅっ」
ふわりと柔らかい髪が頬に触れ、首筋に顔を埋めてきた。舌が傷口を這うように動いて、ぞわりとした感覚が背筋を駆け抜けた。
「……っぁ、ひっ」
声にならない息が漏れる。思わず喉の奥から出てしまったような、そんな高い音だった。痛いはずなのに、なぜかほんの少し気持ちいいと思ってしまった。
駄目だ。このままでは押し切られてしまう。
腰のポーチに抑制剤を入れていたはずだ。カナトの魔力に飲まれそうになった時に使っていたもので、即効性がある。
だが上半身を潰されるように押し倒されていて、必死にポーチに手を伸ばすが届かない。
その間も、クロヴィスは首筋の噛み痕をずっと舌で舐めている。
「離せっ、……てっ」
舌打ち、ぐぐっと肩を押してもびくともしない。
「なんだよ、これ……ぁっ」
様子がおかしいのはクロヴィスだけではなかった。
俺の身体もおかしかった。力が上手く入らず心臓もうるさい。どくどくと、全身の血という血が沸騰しているような熱さにぐらりと眩暈がして、どうにかなってしまいそうだった。
俺もカナトのピアスから漂う魔力の誘惑に飲まれているのかもしれない。
そんなの、冗談ではない。
長い舌は一滴残らず血を吸い取るように首を舐め上げて、耳元へとやってきた。耳の中にまで舌が入り込み、ぐちゅりと湿った音が頭の中に響く。
「ぁ、やめっ……んッ」
ふっと熱い吐息が耳の奥へ入り込み、体がびくりと小さく震えた。
気付けば、腰まわりにも違和感があった。
いつのまにかズボンがずり落とされ、下着も引き下ろされている。肌が雨でしめった空気に晒され、大きく開かされた足と足の間、そこに、つぷりと何かが入り込んでくる。
「ぅあ、……?」
それはぐり、と内から押し上げ、出たり入ったりを繰り返している。
何をされているのか、ぼんやりとしてきた頭では全く理解できなかった。
なにかが、おかしい。なのに、それがわからない。俺は今、何をされている?
熱のせいで頭がぼうっとして、考えがうまくまとまらなくなってきた。
それが指だと気付いた時には、ぐちぐちとナカでばらつくそれが、内壁の柔らかい膨らみに触れたときだった。そこを押し潰されると、ぴくりと腰が震える。擦られると、ぴりぴりとした何かが、腰から背中へと這い上がってくる。
「っ、……ぁ、んんっ」
なんだ、これ。頭が、ふわふわする。
たまらずにクロヴィスにぎゅっと縋りつくと、指の動きがぴたりと止まった。代わり、ぬるりと引き抜かれたそこに、熱いものが押し当てられていた。
「え……な、に」
すぐ耳元で、はっ――と、耐えきれないような熱い息がかかった。
押しつけられたものが、かすかに脈打つのがわかった。大きくて、硬くて、熱い。ぬちぬちと擦りつけてくる、その異物の存在。それが何なのか、恐ろしいほどに、はっきりとわかってしまった。
何をしようとしているのか、何をされるのか、やっとそれを理解したときには、もう遅かった。
「ま、待っ、て……そんな、はいらな……っひ」
喉から引きつった声が出る。
逃げようとした俺の腰を掴んで引き寄せ、ゆっくりと身を沈ませてきた。
「……うっ、ぁあっ」
身体の奥に、ぐぷりとねじ込んでくる。大きな質量が突然、体のナカに入ってくる。内臓を内側から押し上げられる気持ち悪さと違和感に、息が詰まって上手く呼吸ができない。
頭は混乱していて、抜いてほしくて、クロヴィスの腕に爪を立てるほど強く掴むけれどびくともしなかった。
そんな俺に構わず、もっと奥へねじ込もうと、ゆさゆさと腰を揺らしてきた。
「っ、ぁ、うそ」
痛い、痛いはずなのに。苦しいはずなのに。そんな大きなモノが入るはずなんてないのに。勝手に体が受け入れようとしている。いや、受け入れてしまっている。
身体が、おかしい。なんで。
腹の奥底から得体の知れない熱が、ずくんと溢れてくる。繋がったところがじんじんと痺れ、むしろ奥へ、奥へと抉られるたび、甘い衝撃が腰を揺らす。
「あっ、うそ、……んっ、やっ、あぁっ」
なんで、うそだろ。きもちいい、だなんて。おかしい。身体がおかしい。なんだこれ。知らない。こんな感覚知らない。
「……あは、すごい。ずっと、きゅって締め付けてくる。ねぇ、気持ちいい?」
熱に浮かされた声が、上から降ってきた。
見上げた先、白銀の瞳がとろんと溶けていた。恍惚とした表情で、さっきまで理性をもって話していたはずの彼の面影は、もうどこにもなかった。
「僕もすごく気持ちいい。ナカ、熱くて、うねっていて、……ほら、前も触ってあげたらもっと気持ちいいでしょ」
「ひっ……! ぁ、……あっ、やめ、……ん、あぁっ」
先走りで濡れていた熱を、ぐちゅんと手で擦り上げられ、喉の奥がひくつく。前も後ろも同時に責め立てられ、これ以上の刺激はだめだと頭を振ると、涙が溢れてきた。
「ああ、泣かないで」
ちゅっと、目尻にキスをされる。優しいキスなのに、腰は激しくナカを掻き回すように動いている。
「……ん、っ、あぁ、や、いやだ……ぁうっ」
「どこが嫌なの? 突く度にひくついて嬉しそうだよ……んっ、あ、すごい。全部持っていかれそう」
耳元でずっと囁かれる声が、余計に熱を上げていく。
理性すら残っていない本能的な揺さぶりに、指で弄られた弱いところを突かれるたびに、気持ちよすぎて頭が真っ白になる。快感が身体中に走って、変な声をあげてしまう。自分のものとは思えないような、乱れた声で。
「っぁ、あぁ、……んっ、ふぅ、っぁあ」
「ふふ、奥まで、たくさん満たしてあげるね」
ぐちゅぐちゅと激しく揺さぶられる。暴力的なまでの甘い痺れに身体も頭も支配され、何もかもが溶けていく。
「……かわいい。やっと会えた、僕の――」
額にキスをされ、吐息混じりにぽつりと呟かれた言葉は、最後まで聞き取れなかった。
終わりのない揺さぶりのなか、ただその快楽に身を委ねることしかできなかった。
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