こじらせ悪役ループ中、異国の皇子に甘く口説かれる

ひがらく

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 生徒記録簿を抱えて、理事長室の前に立つ。
 クロヴィスのクラスだけでは怪しまれると思い、全員分の生徒記録簿を借りていた。特に目ぼしい情報も得られず確認を終えた今、それを返しに来ていた。

 扉を叩き、許可を得て足を踏み入れる。相変わらず静かで落ち着いた部屋だった。
 椅子に座って書類を確認していた理事長は視線を上げ、穏やかな笑みを浮かべながら俺を迎え入れた。

「こんにちは、ヴァレンス先生」
「お疲れ様です、理事長。お借りしていた生徒記録簿を返却しにきました」
「持ってきてくださったんですね。確認します」

 俺は軽く会釈しながら持ってきた記録簿を渡す。
 理事長は書類の抜けがないかさらっと目を通しながら口を開く。
 
「留学生の彼はどうです? あなたによく懐いていると聞いてますよ」
「……なんのことでしょうか」
「〈ツガイ〉を申し込まれたと、私たちの間でも噂になってますよ」

 揶揄われるようにくすくすと笑われてしまった。
 プロポーズととられても仕方のないような、あの食堂での告白のことだろう。理事長の耳にも入っているとは思っていたが、こうやって面と向かって聞かれるとは思ってもみなかった。
 
「あれは一時の気の迷いです。あの年頃は、運命だの恋だの青春に忙しいですから」
「ヴァレンス先生はそう思っていても、彼の方はどう思ってるか。クロヴィスは一度決めたことはそう簡単に引きませんよ」
「……彼のことをご存じなのですか?」

 理事長は書類に落としていた視線をこちらに向ける。
 
「ええ、知り合いの大事な息子さんなので、それなりに親しい間柄ではあります」
 
 怪しすぎる。やはり、あきらかに一般生徒ではない口ぶりだ。
 少しカマをかけてみようか。
 
「あの時期に留学とは珍しいですよね。何か事情があったのではないかと少し心配してました」
「ああ、彼は本来なら来年訪れる予定だったんですよ。東国の学院とここの学園では学年に一年差がありますから、向こうを卒業してからの予定だったんです。ですがどうしてもと頼まれましてね、時期を早めたんです」

 なるほど、そうだったのか。
 来年ならば俺はもうこの世界にいない。今まで出会わなかったのも頷ける。何か予測不可能な出来事が起きて、クロヴィスの行動も変わってしまったということか。そうなった原因が一番知りたい所なんだが。

「家庭の事情、とかでしょうか」
「さあ、どうでしょう。知りたいのでしたら、クロヴィスから直接聞くといいですよ。彼はヴァレンス先生のことをとても信頼しているようですし」
「買い被りすぎです。俺と彼はただの教師と生徒の間柄ですので」
「はは、一筋縄ではいかないようですね」

 理事長は、自分の口から詳しく話すつもりはないらしい。クロヴィスから口止めされている可能性も出てきたな。
 
 そのとき、扉のノック音が聞こえた。別の誰かが訪ねてきたようだ。理事長は「少々お待ちを」と言い残し、扉の方へ歩み寄り応対する。

 机の前に一人残された俺の目に、ふと一枚の紙が映った。机の端にさりげなく置かれているそれは、さきほど返却したはずの生徒記録簿の書類、ではなく別のものだ。生徒記録簿と似ているが、少し違う。しかしそれは、クロヴィスのものだった。

 頭がひやりとする。手を伸ばすべきではない、と理性が警告する。だが視線はどうしてもそこに引き寄せられる。気づけば、ためらいながらも俺は書類をそっと指先でずらし、目を走らせた。
 当たり障りのない内容。しかしこの書類にも空欄がある。ここにも魔法が使われているが、これはそもそも持ち出し禁止の書類なのだろう、生徒記録簿ほど強いものではない。
 少しだけ指先に魔力を練り込んで、それを一瞬だけ解する。少しだけ、少しだけならバレない。

 焦る気持ちを抑え、空欄を指先でなぞる。
 そこに記されていた文字を見た瞬間、眉をひそめた。

 クロヴィス・リリ・アンソウジュ。東国の皇子の名前だ。
 そしてその隣に――〈時廻〉という単語が目に入った。

 聞いたこともない単語に、心臓が高鳴る。何度もループしてきた中での初めての情報だ。だが考える暇もなく、扉の方から会話を終えた理事長が近づいてくる。

 慌てて解した魔力をはりなおし、書類も元の位置に戻す。何事もなかったかのように背筋を伸ばして、机の方へと戻ってきた理事長を迎えた。
 理事長は椅子に座りなおし、生徒記録簿を全部確認し終えたあと、満足そうに頷く。

「それでは、こちらは確かにお返しいただきました。また何かありましたらまたお尋ねください」
「はい。ありがとうございました」

 そして一言二言、当たり障りのないやりとりを交わし、礼をして理事長の部屋を去る。

 廊下に出ると、緊張で強張っていた肩がわずかに落ちる。

 東国の皇子だということは父から聞いて知っていた。しかし、それ以外の情報が出てきたことに、驚いていた。
 〈時廻〉――その単語が、頭の中で何度も反響する。言葉の意味はまだはっきりとはつかめない。ただ、重要な情報であることだけは、確かだった。

 これは調べるべきだ。そう考え、俺は歩き出した。

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