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幕間:続・生徒たちの談笑
しおりを挟む「最近、クロヴィスってば上機嫌だね!」
昼休みの賑やかな食堂。
いつものように、クロヴィスとテオとぼくの三人でお昼ご飯を囲んでいた。
ぼくはパンとサラダとクリームスープ、それに甘いものに目がなくてデザートは多め。テオはいつも通りお肉たっぷりのボリューム重視。クロヴィスはその中間で、野菜サラダもお魚もバランスよく盛りつけている。
バイキング形式の学園の食堂は、三人の好みが綺麗に出る場所でもあった。それにここのご飯、すごく美味しいんだよね。毎日の楽しみにもなっている。
「ヴァレンス先生とは、良い感じってこと?」
「まあ、ね。あと少しってところかな」
「えっ本当!? 付き合ったら教えてね、お祝いしたいな!」
ふたりを応援しているぼくとしては、かなりの朗報だった。
友達の恋が実るのは、それだけで嬉しい。
ずっと見守っていたけれど、少しずつ仲を深めているようで、最近のクロヴィスはすごく機嫌がよかった。何かいいことがあったに違いない。
隣のクラスの男子生徒が、ヴァレンス先生に喧嘩を吹っ掛けたとかなんとかで、一時期は騒ぎにもなった。けれど、いつの間にかその噂も落ち着いていた。
それより今は、隣の、そのまた隣のクラスで五股をかけていた男子生徒が女子生徒たちの反感を買い、大変なことになっているという話で持ちきりだった。
この学園は、噂が流れるのも消えるのも、とにかく早い。恋に生きる学園は、今日も賑やかだ。
「はは、ありがとう。でも……あと少しが、なかなか折れてくれないんだ」
そういって、クロヴィスはほんの一瞬、遠い目をした。
何か引っかかるようなことがあるんだろうか。その表情にはどこか翳りがあって、光を通さない硝子みたいに見えた。綺麗だけど、少し冷たい。そんな顔。
「……オレの忠告を聞く気はないんだな」
テオがお肉を口に入れながら、ぽつりと呟く。
テオはヴァレンス先生の話になると、どうしても喧嘩腰になる。先生がぼくを口説かなくなってからは多少柔らかくなったものの、そのわけを知らないテオには、まだどこか警戒心が残っているのかもしれない。
「テオが心配してることは、ちゃんと片づけるよ。いろいろ探ってみたけど、かなり根が深くてね。一筋縄ではいかなさそうだ」
「それにアイツが関わっていないという証拠が、あるわけでもないだろ」
「でも、関わっているという証拠も出てないよね」
ふたりはまた難しい話を始めてしまった。
こういうときのぼくは話の流れに入れないから、そっとスプーンを取り、まろやかなクリームスープを口にする。あ、優しい味で美味しい。
今度、先生とも一緒にお昼ご飯を食べたいな。先生は甘いものが好きだとクロヴィスがいっていたから、このチョコムースケーキもきっと気に入ってくれると思う。
「テオは用心深すぎるよ」
「お前は盲目的になりすぎている」
「心外だな。盲目なのはテオの方じゃない? カナトに対する態度、最近は目も当てられないほどいちゃついてるじゃないか」
「なっ、オレはそういうつもりじゃ……!」
クロヴィスが、揶揄うように口の端を上げた。
ふたりの間に、ぱちぱちと小さな火花が散る。
ぼくは思わず、その二人のやり取りに笑ってしまった。喧嘩するほど仲が良いとは、きっとこういうことをいうんだろう。
この間の魔術実技の授業でも、攻防戦形式の模擬決闘でどちらが勝つか競い合っていたし。白熱した試合はクラスの生徒たちの間でも、どちらが勝つかで大きな声援が響いていて、すごく盛り上がっていた。
結果はクロヴィスの勝ちだったけれど、テオも本当にかっこよかったんだ。
「そういえば、さ。カナトとテオはもう付き合っているんだよね?」
「えっ……あ、えっと……うん?」
試合のときのかっこいいテオの姿を思い出していると、突然クロヴィスにそう聞かれて、ぼくの顔は一気にカァッと熱くなった。テオも恥ずかしそうに視線を逸らしている。
ぼくたちが付き合い始めたのは、本当に最近。野外学習で森の中を彷徨っていたとき、なんとなくそんな流れになったんだ。でも、まだ〈番〉にはなっていない。だって、恥ずかしいから。
「それを聞いて安心した。テオは奥手だからね、このまま卒業するまで告白しないんじゃないかと心配してたんだ」
「おいクロヴィス。それはお前に関係ないだろ」
「関係あるよ。カナトは僕の恋敵だからね」
そう言えばそうだった。
ヴァレンス先生は、ぼくに会うたびに口説いてきていた。あの頃は照れくさくて困っていたけれど、今はもうそんなこともなくなった。
「……でも先生は、ぼくに本気じゃなかったと思うよ?」
「だとしても、あんなに先生に一途に想われるなんて、羨ましくてね。嫉妬でどうにかなってしまいそうになる」
こんな言葉をさらりと言うところが、クロヴィスらしいのだけど、聞いているぼくまで顔が赤くなってしまう。
こんな台詞をヴァレンス先生はいつも聞いているのだろうか。もしぼくが先生の立場なら、きっと心臓が持たなさそうだ。
「……本当に、掴みどころのないずるい大人だよ。あの人は」
クロヴィスはふと目を細め、揺れる視線の先で何かを思い出しているようだった。おそらく、ヴァレンス先生のことだろう。
先生は確かにクロヴィスに心を許しているけれど、まだどこか線を引いているように見える。その線を、クロヴィスはどうしても越えたいのだ。
ここは、どうにかしてぼくが背中を押してあげないと。
「ぼくは先生のことは大事だけど、そういう目で見てないから安心して! それにクロヴィスなら大丈夫だよ! お似合いだし、きっと先生と幸せになれるよ!」
でも――と、心に引っかかっている言葉を言いかけて、口を噤んだ。
……でも、ヴァレンス先生はぼくと同じ転生者だ。
しかも、先生はこの物語において重要人物で、悪い側の人で、よくない立場だった。それに、気付いたらいつの間にかいなくなっていた気がする。
保健室で勇気を出して話したときに、先生は大丈夫だといっていたけれど、どうしても嫌な予感がしてならなかった。
けれど、このことをクロヴィスに話すことはできない。
クロヴィスなら力になってくれそうな気もするけれど、前世や、この物語の話なんて到底信じてもらえるとは思えなかった。テオにだって、ぼくは話せてないのに。
なにより口にした途端に、今の穏やかな日常が壊れてしまいそうで怖かった。
それに、たとえこの世界が物語の中だとしても、ぼくたちはちゃんと生きて、自分の意志で選んでいる。ぼくがテオを好きになったのも、誰かに決められたからじゃない。自分の気持ちで選んだことだ。
クロヴィスだって――……あれ、そういえば、クロヴィスはなぜここにいるんだろう。この時点で、彼の登場はなかったはず。断片的で曖昧だけれども、少なくとも、ヴァレンス先生とは関わっているような記憶はなかった。
だったらやっぱり、ぼくの考えすぎなのかもしれない。
物語はただの夢物語で、ここは現実だ。
……それでもやっぱり、少し嫌な予感はしていたんだ。
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