無明剣零

青鳥翔

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渾沌渦巻くセキト

デストロイ収容所

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 「やめて!!お、お父さん!!行かないで!!」

 「エリ!!」

 デストロイ収容所。そこは、魔導戦士になる事を拒否したブルの人間が収容されている場所。そこに入る際、二つの道へと分かれる。一つ目は強制労働をさせる為に健康的な成人男性だけを通す道。二つ目は死路。そう、ここには人権など存在しない場所だった。そこにいる戦闘員が家族を無理やり分裂させ、独断でその人間の生か死を決める。

 その後、生の道に送られた人間は不毛の土地に作物を植えるという無謀な計画に無理やり参加させられ、餓死するまで働かされる。そして死路に選ばれた人間は今後のブルの発展の為の材料にされる。時には原子力発電所の原子炉の中にぶち込まれ、何分耐えられるのかという実験をさせられた。

 つまりデストロイ収容所に入った人間は一生外に出る事なく、その生涯を終えるのだ。

・・・

 「あの遠くに見える建物がデストロイ収容所…。真っ黒の壁の建物の周りに有刺鉄線が張られている。つまり逃げ道は……ない。」

 カヤは木の上に登り、遠くから遠隔魔法を使い収容所の内部を見ていた。そこに映っているものは酷いものだった。

 「佐助。いや5640の発言によると、魔導戦士を拒否した非国民が収容される場所。そして戦闘員は……自ら隊に志願した上級国民のみで構成される軍隊。酷い……酷いよ。」

 カヤは収容所から数10キロメートルある地点で呟く。既にカヤは数千人を手にかけてしまった。その瞳には以前のような紫色の色彩はなく、真っ黒になっていた。

 「5640。私はもう取り返しのつかない事をしてしまった。もう限界だよ。」

 そう言いながら偵察していると、戦闘員に見つかり銃の乱射を受ける。しかし極限まで研ぎ澄まされたカヤの感覚は全てを見通せる。空間魔法でどこに何人敵がいるのか、一瞬で分かっていたのだ。カヤは敵を見る事もせず、空中に剣を浮かせ、それを落とした。

 「もしかしたら今まで倒した戦闘員にも大切な家族がいたのかもしれない。でも、こんな間違った国は止めないと。」

 カヤの真っ黒な瞳は、絶望と同時に覚悟の意を持っていた。そして木から降りると佐助から通信が来た。

 『4771。俺は今Ⅹの敷地内にいる。俺はもう何百人の戦闘員を手にかけたがお前もそうだろう。だがこれは、仕方のない事。情に流されないように。』

 「分かった。私は今デストロイ収容所を遠くから魔法で見ている。一応こっちの情報を教える。敵にはグレネードランチャーやライフル、地雷爆弾といった最新鋭の罠があちこちに張り巡らされていた。そっちはどう?」

 『同じく。おっと危ない。……やはりみねうちはだめみたいだな。倒さなくてはいけない。この国の国民を救うにはやらないといけないのだ。』

 佐助は敵を斬りながら、カヤと通信していた。カヤほどではないが、順調に計画を進めていた佐助は「武運を祈る」と言い、通信を切った。そしてカヤは収容所を破壊する為に、収容所入り口に出現した。

 「なんだお前は!!」

 戦闘員は一瞬で気づく。するとカヤは何故かヘルメットを外し、顔を見せた。

 「この顔に見覚えないか?」

 「お、お前は…!サウンドラ王国の王女…!!なぜここに!!」

 「ブルを滅ぼし無実の国民を助ける為。」

 カヤは正体を明かした上で、近くにいた国民の手を取り笑顔を見せる。

 「私は貴方方を救う為に来ました。これまで貴方方の同胞を倒してきた。これは許されない事実。ですが、必ずここにいる全員を解放します!!」

 「か、神様…。」

 紫髪をした少女の笑顔を見た国民は思わず泣く。するとカヤに向けて銃弾が撃ち込まれる。

 「だから、それは通用しないんだよ。」

 カヤはその場にいた国民全員を壁で覆い、銃弾を止め、次の瞬間数十人の戦闘員は倒れた。それを見た国民たちはただただ安心する。異次元の力を見たカヤに救ってくれる事を願い祈りを捧げた。

 「皆さん。ここで待っていて下さい。私が内部にいる全ての戦闘員を倒し、全員救います!!」

 するとカヤはその場から消えた。

 「彼女は一体…。」

 ブルの国民たちはただ茫然と建物を見ていた。

・・・

 「ザイヤ指揮官!!例の女がデストロイ収容所に現れました!!」

 「なに!?…だがそれでいい。引っかかったな魔女め。魔法封じの結界を張れ。」

 「はっ!!」

 ザイヤの目にはカヤの事しか見えていなかった。カヤを捕まえようと企み、極秘に魔法研究していたのだ。それも、人体の生命エネルギーを使った結界。カヤは順調に収容所内を進んでいたが、そこにいた人間たちが苦しむのを目の当たりにして驚いた。

 「えっ…?あれ、無明剣を生みだせない!!それになんだ、魔力が吸い取られていく!!」

 この結界は魔力を持つサウンドラ国民にはなんの支障もない。しかし生身の人間には毒ガスと同じくらいの殺傷力のあるものだった。そしてどんどん人が倒れていく。

 「待って、待ってよ!!」

 カヤは次々に倒れていく人間に怯える。そして周囲に張り巡らされていた結界は全ての人間の生命力を吸い取り、息絶えた。戦意喪失するカヤ。すると映像モニターにある人間の顔が映る。それはザイヤ本人だった。

 『やあ、サウンドラ王国の王女、カヤよ。貴様はもうなにも出来まい。魔法を生みだせないのならただの人間と同じだからな。……それより、これまでの騒動は許されない。ただちに降伏しろ。」

 「誰が……許すもんか!!お前のせいで国民が、罪なき人間がどんどん倒れていっている!!この愚行、私は許さない!!」

 カヤは魔力を生みだそうとする。しかし自然から拒絶された空間では魔力を生みだせなかった。それはカヤにとって致命的な弱点だった。魔法研究では、自身の血液から魔力を引きだす実験をしていなかったから。それが今回仇となったのだ。

 『終わりだな。そこのお前、こいつを撃て!!』

 モニターの横についている銃口がカヤの頭に狙いを定める。絶体絶命の境地。しかしカヤはなにか企んでいるのか含み笑いをした。

 『なんだ、なぜ笑っている…。』

 「私が魔法だけしか特訓していなかったとでも?」

 そう。佐助と剣を交える時に、実際の剣であっても扱えるよう独自に特訓していたのだ。空間魔法が使えなくても自身を守れるように。

 「さようなら。」

 なにか言おうとしたザイヤのモニターを落ちていた剣で斬り、ギリギリのところで弾丸を避ける。しかし、2発の銃弾がカヤの右足を撃ち抜いてしまった。

 「うっ…。」

・・・

 その頃佐助は魔導戦士排出所Ⅹを制圧していた。その場所には改造された人間もいなく、ただの戦闘員しかいなかった為、すぐに終わった。しかし、佐助はおかしいと思っていた。何故なら、西側に強い戦闘員がいなかったから。それに加えカヤの「数千人は倒した」という発言。その数は異常だ。まだ半日しか経っていないというのに、それもほぼ同時に計画を実行し始めたというのに。すると佐助の持っていたトランシーバーから声が聞こえてきた。

 「4771!どうした!!」

 『ごめん、私……やらかし、…あ。』

 次の瞬間トランシーバーから大量の銃声が聞こえてきた。

 「カヤーーーー!!!」

 時は夕暮れ。佐助は叫ぶが、それ以降トランシーバーから音がしなくなった。
 

 
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