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勘違いの話
ちぃちゃんとひろくん
「あ、“千尋“」
いつものように授業をサボり、どこかで時間を潰そうと思って校内をふらついていたところだった。
廊下で最近になって、よく見るようになった後ろ姿を見つけて声をかける
「...洸人も、サボり?」
千尋はいつものように振り返らないが、歩く速度を遅めて、まるで俺が追いつくのを待っているようだ。
...千尋に限って、そんな事ないと思うけど
「そりゃな...今音楽室って移動教室で使われてるっけ」
「...うん、たしか3年が使ってる、地雷地区。だから屋上行こうと思って」
千尋に追いつくと、千尋は俺をいつものムスッとした顔で見つめたあと、俺から目を逸らし、情報提供をしてくれる。
これが最近日常になってきてる。
保健室をギリギリまで使い込んで、保健の先生に追い出されると、他の授業をサボるために使われてない場所に駆け込んでいる。
それは千尋も同じなようで、たまに授業中、校内をふらついていると千尋の姿を見かけるようになったので話しかけると、先生と追いかけっこ中だったようなので、そうゆうことだろう。
何も言わずにサボっているため、本来サボった授業の担当教科の先生と追いかけっこをするはずで、けど、最近は追われているのかどうかも知らないし、分からない。
「じゃあ、俺も行こ~」
「...勝手にすれば」
勝手にすればとは言っても、千尋もこれが日常的になってきたのか、前みたいに俺を拒絶することはなくなった。
千尋は俺が千尋について行っているというスタンスを崩さないが、最近は心なしか千尋が俺から顔をそらすと嬉しいことがバレたくない...みたいな意味なんじゃないかと錯覚している。
ナチュラルに俺が千尋と呼んでいたら、千尋も俺を“洸人“と呼ぶようになったし...
もうこれ、俺主人公すぎる...!!
「うわー!ほんとにいない、やるな千尋!」
屋上、穴場スポットである。
屋上の鍵は壊れてるらしく、屋上に入ること自体は容易いものだ。
こんなにも、サボりにも先生とのかくれんぼにも向いているのに人が少ないのか不思議だ。
千尋が屋上の扉を背にして座ると、俺は膝を抱えて座る、千尋は大袈裟に興奮している俺を見て、息を吐いた。
「別に...元々、学年関係なく“そうゆう目的“の奴らと会ってたから...」
千尋は、多分...前々から“そうゆう目的“の他の学年の後輩や先輩と繋がりがあったので、他学年の時間割を知っている。
だから千尋に話しかけたのもある。
てか絶妙に俺が触れていいのか分からないラインの話を振らないでほしいんだが...
“主人公!“な俺は触れていいのか分からない話に戸惑っていると、俺といると俯きがちな千尋の目が真っ直ぐと俺を捉えた。
...え、なんか言えってこと?
BL本の主人公に助けを求める暇もなく、口が勝手に動く。
「そ...そうゆう目的...って何!?」
...あ、やばいかコレ?
千尋は少し目を見開いたあと、また俯き、千尋の長いまつ毛は下を向いた。
ぼーっと見つめていると、千尋はやっと口を開いた。
「僕と...ヤリたい奴らの事だよ...いや、別に“僕と“ではないかもしれない、“女の子“とヤリたい奴らの事。」
「え...女の子?なんで?」
「僕、女みたいな見た目だからさ、代わりになるのかもね。男と同じもん生えてるの見たら萎えたとか言ったやつもいたよ。」
「...はぁ?」
...なんで、
話しながら自嘲気味に笑う千尋になぜだか、思わず声が出た、
その声に千尋は肩を震わせて、俺の顔を伺い、除くように見た。
俺がどんな顔してるかとか分かんないし、どうでもいいけど。
「なんで...そんな奴に、身体を許すんだよ」
あ、自分でもわかった、今俺は眉間にシワが寄っていると思う。
こんな俺みたいな平凡な奴が険しい顔をしても、美人な千尋や...千透星くんぐらい怖いわけではないだろうに...千尋は気まずそうに目を逸らした。
「...洸人、今の洸人なら...僕の話、聞いてくれる?」
「...もちろん、」
そう言うと、千尋は決心したように俺と目を合わせた。
頭がおかしいとか、理解できないとは思うと前置きをすると、千尋は話を始めた。
千尋は昔から男が好きだった。
思春期に入っても、異性に興味は多少あったとしても、綺麗だとか、目を惹かれるのはいつだって男の人だったそうだ。
「それをダメだとか思ったことはなかったよ...けど、少し後悔することが多かっただけ、」
「後悔?」
「うん、好きな人が女の子を好きだったり...女の子には敵わないとつくづく思うよ。僕なんか結局、可愛いだけの“男“なんだから、」
それでも、男子校では、わざわざ可愛い“男“の千尋とヤろうってなる、さほど女に飢えているであろう奴は多かった。
けど、ガチ恋ユニコーン先輩みたいな、ノンケだったのに千尋にガチ恋する奴は珍しいらしかった、らしい。
「中学に上がる頃くらいかな、僕と付き合ってくれた人がいたんだ。好きだって言ったら受け入れてくれた。女の子じゃなくて、僕を選んでくれたのが、あの時はこの上なく嬉しかったな。」
「それでもさ、成長期になると僕だって男らしくなるんだ。それで女の子だってもっと可愛くなる。」
「いつからだろうな、あの人が、“女の子“を好きになったのは、」
千尋は膝を抱えて、うずくまった。
思い出すのが酷く辛いのだろう、
聞かなきゃ良かったかもしれない、と少し後悔をした。
「僕、女の子にモテるようになってさ、僕の好きな人の...好きな女の子が、僕のこと好きになったんだ。」
「あいつさぁッ...!仮にも付き合ってるんだよ、なのに僕のこと避けてきて、挙句の果てに...」
「僕とは幸せになれないってぇ...」
“男“として、千尋に負けている気がする。
そう言われたと、
千尋はか細く、震える声で言った。
顔を隠していても、千尋がどんな表情をしていて、思い出すだけでも、どれだけ辛いのかが...
「知ってるんだ、皆、僕の“女の子らしい“ところが好きなんだって...だから」
髪を伸ばした、
声も高くしようって、
所作もすべて、
男の望む“女の子“になった。
「けど、僕は...男、なんだよ...」
女の子のガワを借りているだけ、
“男“の僕とじゃ、だれも幸せになれないって知っているから、
だから、僕の“女の子“しか見てないって分かっていても、
愛してくれるなら、
「認められているようで...身体を許したんだ。」
性に囚われるのはどれだけ辛いだろうか、
千尋は女になりたい訳ではなかった。
女の子というのはいつだって千尋にとって憎悪の対象になりえた。
須藤千尋の中で、女というのは酷く醜かった。
男を奪う女、
自分が男だからいけないのか、
女の子なんて、
女なんて、
なんて、
なんで、
「僕はッ...」
千尋は顔を膝に埋めて泣いた。
俺は...
どうしても、千尋の隣で背中を摩ることしか出来なかった。
「なんで、僕はッ...“ちぃちゃん“であろうとするの...」
「なんで、幸せになれないの...?」
僕は何なのだろう、
男にとって、
僕は“ちぃちゃん“で、
女にとって、
僕は“ひろくん“だ。
須藤千尋はどこにいるのだろう。
「...俺に、とって...」
隣で僕の背中を摩っていた、
洸人が口を開いた。
「ずっと、千尋は、」
「“須藤千尋“だったよ、」
思わず顔を上げた、多分、今の僕はみっともない顔をしているけど...
洸人は、
真っ直ぐ、
“僕“を見つめていた。
嫌、だったんだ。
ヒロくんって呼び方も、
“ちぃちゃん“である僕の底を見透かしたような瞳も、口調も、
いつからか、
洸人が、
ちぃくん...千透星の事が好きだってことも。
そして、
洸人が僕を好きじゃないことも。
分かってた、全部。
全部
全部
気に食わない...
嫌い...嫌い...
「違う...」
千尋は目を伏せて、首を振ると、
洸人の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「千尋...?」
「洸人...」
「好きだ...好き、好きなんだ。」
「洸人の事が...好きっ...」
千尋は、潤んだ目で、
下手に笑って、
けど、
たしかに、
こちらを見つめて、
そう言った。
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