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005-⑤ 先生!
しおりを挟む「嘘ですよね?」
気性が荒いとかウィルっぽいけど。
ウィルの部屋とか隠居老人ぽくなかったか?
王子様ってなんかもうちょっと……。
先生からハンカチのような布を渡されたので、それで顔を拭いた。
「嘘吐いてどうすんの」
「あ、いや。他に娯楽がなさそうだから。俺を揶揄って遊んでるんじゃないかって」
「失礼だね、君」
俺はこの村に来たときの異様な歓迎っぷりを思い出していた。
「第一報を聞いたときは興奮したよね。今頃、ティタジェイルは上を下にの大騒ぎだろう。君の方からウィルに会いに行ったって本当?」
「語弊がありますけど」
そうと言えばそう。でも、別にウィルがいるとわかって風車の塔に向かったわけではない。
俺がウィルの子供を産むとか恐ろしいこと言ってるよ、この人。そんなの異次元だよ。ウィルとは相性が悪いし。大前提として俺は男だし。そんなことになるわけない。
「ティタ……」
「ティタジェイルね。王宮のある場所。あとで地図をあげよう。ちなみに、王宮はグランバーグっていう」
先生は書き物を続けている。
「向こうでみんな待ってるよ、君のこと」
「子供を産むから?」
「そう。男のままで産みたくない? 女になると結構大変だよ」
「……俺は産めません。絶対に、産、み、ま、せ、ん!」
「………」
口をへの字に曲げた先生に、頑固だな、みたいな顔をされた。
「うーん、普通のオメガならフェミニジールングの前から完全にウィルレベルのアルファに屈服するもんだけどね。君はだいぶ嫌がってるなあ?」
「あいつに屈服!? しませんよ!」
先生が吹き出した。
「えらい嫌われようだな、ウィル!」
笑いながら言っだと思ったら、先生が急激にスンとした。
「……一度にたくさんのことを詰め込み過ぎたかな? 君が何でも素直に聞くもんだからさ。反応も面白くて。アジアンは若く見えるからさ、つい」
ついって何だ。俺は先生がこんなヘンテコな状況を受け入れ過ぎだと思ってるぞ。
「ねぇねぇ、ウィルは本当にダメ?」
先生が面白がって聞いてくる。
「ウィルも俺みたいなのは対象外だと思いますけど。最初の印象はお互い最悪でしたし。何事も例外はあるんじゃないんですかね」
「君って、ノリがいいんだか悪いんだか」
変な沈黙が流れた。
そういえば、ウィルはどこに行ったのだろう。
俺は紅茶を啜って心を落ち着ける。
「僕もサベラと結婚してるんだ」
唐突に先生が言った。
「僕はサベラのオジサンの後妻になった。彼はティタジェイルに住んでるけど、しょっちゅう僕に会いに来る。年食っててあんまりカッコ良くないんだよね。僕はこんな若くて綺麗なのにな、我ながら勿体無いよ。まあ、何度も言うけど僕は中身五十のオッサンだから、旦那とは気は合うよ」
「それは良かったですね……」
「うん。気が合い過ぎるくらい。だから僕らは運命の番なんだって言われたときは納得しちゃったよね」
運命の番。
「ウィルと番になればここでの君の立場は安定するんだけどさぁ……。ウィルなんて若くていいじゃん」
「犬ですけどね」
「あ!? 差別だからね、それ!?」
先生、今日一番の凄い剣幕。
「整理するとだね」
先生は机に立てかけられていた黒板のようなものを取り出して、チョークで『α』『Ω』と書く。
「王家、グランバーグにいるのがサベラのアルファね。で、僕ら空間を超えてきたニンゲンがオメガ。オメガは公式文書ではヴァンダラーと呼ばれてる」
先生は黒板にカツカツカツと筆記音を鳴らし、俺の知らない文字を書きつらねていく。
「アルファには破壊衝動を抑えてくれるオメガが必要だ。破壊衝動は衝動制御障害みたいなもの。それを止められるのはオメガだけ」
『α』『Ω』の間に矢印を書く。
「で、オメガには発情期を抑えてくれるアルファが必要。Win-Winの関係だ。はい、ここまでオッケー?」
「は?」
俺は前のめりになる。何がオッケーなんだ。
「発情期?」
「そうだよ。だって子供を産むんだよ」
「何ですかそれ。ニンゲンに発情期なんてありますか?」
「オメガにはある!」
先生は黒板に何か書き込んだ。読めない。……字が汚い。どこの言語?
「君、名前は?」
「カイです」
「カイ。ここはそういう世界なの。女オメガになっちゃったら今後どうなるのかわかんないよ? 今は王家に適齢期のいいの残ってないから、売られるかもよ」
「売られる!?」
人身売買!?
「展開がエクストリームじゃないですか!?」
「だからって逃げるとか考えないでね。外はもっと危ないから。今を楽しめ!」
オズと言い、この先生と言い、なんなの!
まあでも。
ポジティブって大事だと思わせられた。
グズグズしてても仕方ないわけで。
「オメガの発情期はアルファとオメガ以外の、少なからずベータと呼ばれる大多数の人々の神経系統にも影響を及ぼすことがわかっている。番のいないオメガはある一定期間以外、外に出られなくなるから覚悟して。運命の番が国内で見つからなければ、他国のアルファに差し出される。人道的措置として」
先生が俺を見る。俺は何も言えなくなった。
「わかる? 他国との取引材料になるってことだ。つまり、あの子みたいになる」
「あの子って」
「オズギュルのことだよ」
俺は、オズとウィルがあの人気のない塔に二人きりでいた理由を想像して。
凄まじい嫌悪感に襲われた。
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