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007-② 契約!?
しおりを挟む一人だけウィルの傍らに居残っていた護衛からジッと見られているのに気づいた。それはそれで居た堪れない。
ウィルが俺を抱っこしながら片手で家の扉を開ける。俺に対する扱いはどういうことなんだって。
内部は風車の塔の雰囲気によく似ていた。室内は橙色の灯が燈っている。古い木造建築の匂いがした。
「とはいっても、準備しておかないとな」
「ん?」
「俺はこれから行かなければならないところがある。夕刻には戻る」
「えっ」
「その間、お前はここで寝てろ」
ここに残るの、俺と護衛だけ!?
外からウィルに呼びかける護衛の声がした。護衛はウィルに駆け寄って耳打ちする。ウィルの顔つきが変わる。
それでウィルは俺を解放した。
ウィルは外に出て、家から少し離れたところで神妙な様子で立ち話を始めた。
俺は家から出て、玄関の前で二人を見ていた。
犬人間同士が会話している。
昔、子供の頃に母さんが読んでくれた童話の世界だ。これは是非とも母さんに見せたい。
……母さん、心配してるだろうな。
一瞬、一瞬だけだ。感傷に浸る。
その護衛はフードを外して顔を晒していた。ウィルよりも体が大きい。茶色い毛並みにところどころ白い毛が混じっているからそれなり歳がいっているとみた。精悍な顔立ちが渋くてカッコいい。
俺も犬人間をだいぶ判別できるようになってきたな……。
大柄な犬人間の二人に見惚れていたら、急に肩をグリグリと押された。避けるが、まだグリグリされる。
「なに……」
振り向いて見たら、そこにいたのはエーファだった。大きな頭を俺の肩に擦り寄せてくる。
「何。ちょっと、おい……、どうしたの」
エーファの肩に掛けられている手綱は別の護衛が持っていて、引っ張られるのを抗って、俺にスリスリ寄ってくる。
まさかこの俺が、馬に懐かれている!?
エーファは牝馬だそうだが、非常に逞しい体躯で存在感があって頼もしい。その上でこんなに可愛いなんて! ギャップ萌えか! この馬には好かれたい!
「オスだと思っててごめんな? 今後も宜しく!」
その漆黒のタテガミを指で梳りながら無心で撫で回した。
「馬に触ったのは初めてだけど、触り心地がいいなぁ?」
あはは、なんてエーファと笑い合ってたら。
ウィルに後頭部を掴まれてエーファから引き剥がされた。
「痛って!」
「何してる」
「ちょっ、どこ掴んでんだ、こら! お前こそ何するんだよ。さっきから俺のことを子どもか犬猫みたいに扱って……」
「……お前、聞いてなかったな?」
「え? え? 何を? ごめん。聞いてなかった。何か言った?」
「目が良くなった代わりに耳が悪くなったらしいな」
「……ふうん。厭味たらしいのと怒りっぽいのは健在なんだなぁ」
「………」
こんな睨み合いをしている間に、エーファは連れていかれてしまった。あとで会いに行こう。
「中で話す。入れ」
ウィルは有無を言わさない雰囲気を醸し出しながら言うのだった。
不穏な空気を作り出すのはやめて欲しい。
今再び、ウィルが家の扉を開ける。
重そうな木製扉は開けたそばから勝手に閉まろうとするタイプの扉である。扉を押さえてくれたウィルに早くしろと促されて室内に入る。
「ここって誰の家なんだ?」
「俺の家だ」
「これも!? お前って家、何個持ってんの!?」
「普段は本宅以外殆ど貸してる。どう考えても俺はここに住めないだろ」
俺と違って体がデカいからか。ウィルにこの家は狭そうだ。
「じゃあ何で持ってんの」
「お前の世界では自分が住まない家は持ったらいけないのか」
背伸びしただけで天井に頭がつきそうなウィルから、お前ってバカなの? みたいな呆れ顔をされる。犬人間の表情がすっかりわかってきてしまったな。わからなくていいのに。
「財テク王子……」
「ザイテク?」
「いや。俺にはこのくらいの家がぴったりだよ。風車の塔みたいに広い家はやっぱり落ち着かない。ありがとう」
「………」
ウィルが黙ってしまった。
「何だよ。俺用に良さそうな家を考えて、あてがってくれたって話だろ?」
「そうだな?」
「そうだろ?」
小さい俺にはこのお菓子の家みたいな小さな家で充分だろうという判断。間違ってないぞ。俺は満足だ。
壁面も床も平衡感覚を失うほど歪んでいる。植物の根が床を押しているに違いない。建物の基礎もないんだろう。
「ここって建ってからどれくらい建ってるんだ?」
「二百年」
年のカウントは同じなのかな?
ウィルは壁に飾られた写真を見ている。初めて見るようだ。時間をかけて見ている。
白い壁に焦茶色に塗装された木の柱、天井の梁。
金色の金具が付いた調度品には長い年月を感じた。風車の塔に置いてあったものと意匠が似ている。床にも同じ意匠のカーペットが敷いてあった。
暖炉の前にロッキングチェアが二台置かれている。
居心地の良さそうな家だ。
期せずして、リタイア後に住むような田舎の一軒家をゲットだぜ?
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