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008-① 結婚!?
しおりを挟む「………」
俺はウィルと睨み合う。
一応は男同士だから、恥ずかしがるのもおかしいように思えてきた。
「脱ぐ。わかった。脱ぐ」
俺がそう言ったことで、ウィルは掴んでいた俺の手首を放してくれた。
この時点で俺は半分脱ぎかけてるわけだ。こうなりゃヤケである。
浴槽の横で、湯気を浴びながら服を脱ぐ。躊躇いなど持ってはダメだ。脱いだそばから帯も何もかも全部、ウィルに向かって投げつけてやった。
「脱いだぞ」
「お前……、細いな」
ウィルには全身を舐め回すように確認された。特に腹の部分、下半身。
見られるとさすがに疼いてくるんだが……。
「も、もう終わり。見せ物じゃないんだよ」
「背中は?」
「ハア?」
背後を取られるとか怖いんだけど!?
「ついてるかついてないか見たかっただけだろ! もおぉ、一人にさせろ! 出ろ!!!」
裸の俺が近づいたらウィルが引いたので、浴室から追い出した!
バタンと扉を閉める。
何なんだ、あいつは!
そんなことよりだ。
湯船だ。絶対的に寛げる広々としたサイズ感。深くもなく浅くもなく。湯の加減も丁度良い。
信じられない。ここだけ日本! 懐かしの日本!?
浴槽の外に据えられた大きな平たい石がある。その上に桶と白い四角い塊を載せた金属製の皿があった。白い塊を手に取ると柑橘系の香りがした。
「おお……!」
このとき、俺の目は輝いていたと思うんだ。手の中でみるみるうちに泡立っていく石鹸。モワモワとよく泡立つ。
頭から爪先まで全部アワアワにしてやる。
桶で湯を汲んで、ザバーッと頭から浴びて泡を流す。排水されていく。
ウィルはもう入ってこないな?
脱げとか横暴なことを言ってきたと思ったら、俺の言うこと聞いて出てってくれるとか、何だかんだと素直な奴だ。
途中まではアホの所業だったが。
でもまあ、風呂を用意してくれたんだから許そうじゃないか? なんてな。それにしても、仲居さんでもいるのかな、この家。
異世界なのに、違和感がないことに違和感がある。
俺の世界の道理が通じるのは逆に何故……?
湯船に浸かりながら、ぼんやり考えた。
これから、どうなるんだろう。
物思いに耽っていたら、のぼせそうになるまで浸かってしまった。急いで湯船から出た。
浴室の脱衣所のような隣の部屋に戻ったら、棚にタオルと着替え一式が置いてあった。
「………」
ウィルはこんな気遣いできる奴じゃないと思うんだな。やっぱり、この家には誰かいる……。
まあ、いいか。
この世界の服は、丈さえ合えば体に合うということがわかっている。例によって下は袴のようなものだが、紐で調整ができる。
この世界だと明らかに小柄な俺は丈が長くなってしまうし、腰紐はギリギリまで締めねばならないのだが、そこは捲ればいい。捲ったところを紐で縛る。捲ることを前提に、裏地に刺繍が施されている。
着替えた。身も心もスッキリした。
リビングに行くと、ウィルはテーブルで書き物をしていた。
ホント、童話の世界なんだけど。
俺は何も言わずに寝室に戻り、ベッドに倒れ、拉致されてからの記憶を反芻することなく。
秒で寝た。
「カイ。大丈夫か」
俺を見下ろすウィルがいる。
「あれ?」
俺はベッドから起き上がることができない。
「気持ち悪い……」
部屋の中は薄暗い。扉横の橙色の電球が、ノスタルジックな雰囲気の部屋をほんのりと照らしていた。
「ウィル、……もう夕方だよな? 用があるって言ってなかったか?」
「ああ」
ウィルはベッドの横に椅子を持ってきて座っていた。
心なしか耳が垂れ下がっていた。
頭痛が止まない。
寝て起きたら、世界が戻ってるなんてことはなかったな。
「具合はどうだ?」
ウィルだな。犬だな。……犬人間に心配されてる、俺。
「いいよ。昨日より」
ウィルの後ろの窓の外はまだ明るい。
時間の感覚がどんどん失われていく。
「体に変化は?」
「ない」
相変わらず、ウィルは俺の体のことを気にしている。
ずっとここにいたんだろうか。まさかな。
その手を額に触れられる。ベッドに沈み込むように横になっている俺はなされるがまま。
「まだ熱いな」
「俺は寒い」
「何か食うか?」
「食べたくない」
「それなら、水だけ」
ここ数日、何も食べてないこともあって、今の俺には体力もない。
ウィルに助けられながら起き上がり、コップの水を飲む。
先生、若返るって言ってなかった? 猫背の俺って、老化してない?
ごほごほ。
水は飲めた。ウィルにコップを返し、どたん、と仰向けになり、そこからまた俺は夢の中。
どこまでが現実でどこまでが夢なんだろう。
真夜中に目が覚めた。
部屋の灯りは消えており、窓からの月光が部屋に差し込んでいる。
窓枠の影に人影が重なっている。
「ウィール……」
ウィルを呼びながら、見れば。
「!?」
ウィルではない。
椅子に座っていたのは!
「あ! ブラウニーのババア!」
許すまじ! 俺は起き上がろうとするが、体は金縛りにあったように動けない。
「……な、なんでここに、……お前の手引きで俺は散々な目に」
俺は朦朧としているが、口だけ動く。精一杯、罵ってやる!
「卑怯者っ、詐欺師っ、誘拐犯っ」
藍色のマントを羽織った白猫はゆっくりと顔を上げ、俺に向かって低い声で諭すように何か言ってくる。
だから、この世界の言葉は俺には全然わからないんだってば。
「む……」
俺が反応できないでいたら、そのうちに歌まで歌い始めた。しゃがれ声で。
老猫が杖を突いて立ち上がり、俺を見下ろしてまた何か言ってる。
「だから、お前が何言ってんだか俺にはわからな……」
「今ここで死ぬか、苦しみながら生きながらえるか。お前はどっちがいい」
その瞬間だけ、思考が奪われた気がした。
老猫は、蝋燭の炎が消えるように、フッといなくなった。
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