異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?

わをん

文字の大きさ
25 / 95

008-② 結婚!?

しおりを挟む




 翌朝。

 陽の光の眩しさで目覚めた俺の視界に真っ先に入ってきたのは。

「ヒッ!」

 あの病院にいた狐だ! その細い目で俺を冷たく見下ろしている……。

 無言で見つめ合う。

 狐が身を翻し、そのまま部屋からいなくなった。

 部屋は昨日のままとは言い難い。荷物が運び込まれて雑然としていた。

 俺が寝てる間に何があったんだ。

 現状把握だ。俺はベッドの上にいて、右腕に点滴を打たれている。点滴の管の先には茶色い袋があり、木のスタンドに垂れ下がっている……。

 な。

 何を投入されてるんだ、俺は!

 戻ってきた狐から、ビシッと睨まれた。

「起きろ。食え」

 英語で言われた。
 狐はシリアルボールのようなものを持っていた。

「それ、何」
「粥」

 狐、英語が話せるんだ。そりゃそうか、いつもあの先生と一緒にいるんだから。

 手を添えられて、まるで母さんから起こされているような気分になって、俺は起きた。

 あれ? 意外と簡単に起き上がれたな、とボーッとしていたら、木製スプーンを口に文字通り刺された。グサッ。

「うぐっ」

 それは冷たいミルク粥だった。甘い。冷たい。

 美味しい。

 しばらくは大人しく狐から食べさせられていたが、せめて自分で食べねばと気づいて、狐のフサフサした手に触れた。狐が俺を怪訝そうに見た。俺はミルク粥のシリアルボールを受け取った。

「ウィルは?」
「ウィルはティタジェイル」
「えっ」

 置いていかれた?
 そもそも俺が最後にウィルに会ったのはいつなのか?

「………」

 ジッとその薄く開いた碧色の目を見つめていたら、狐がフッと笑って言った。

「寂しい?」
「………」

 その質問には答えにくいんだ。
 
「……ティタジェイルは、ここから遠い?」

 俺の質問に、狐はまたフッと笑った。

「近い」

 近いのか。俺は心の底からホッとしてしまった。

「ウィルは直ぐに戻る」
「わかった」
「私はミシェル先生の代わり。ティタジェイル、グランバーグに行くまでのカイのお世話をする。ごめんね。あのとき、一人にして」
「え?」

 健康診断後の放置のことかな? 
 ミシェル先生とはあの元気な東欧系美人なことだ。

「謝るようなことじゃ」
「ごめんね」
「いや、あなたのせいじゃ……」
「私のせい。ごめんね」

 狐が項垂れている。

 別に、謝らなくていいんだけど。

 サベラって大抵年齢不詳だけど、もしかしてこの子、かなり若いんじゃないか? 気が回らなかったって後悔してる。普通にいい子では? 

 あの白い老猫はここにも現れたと思うんだ。

 ここには見張りがいるはず。大袈裟だなと思ったけど、あの不気味な白猫に見張りは意味がないんじゃないだろうか。

 ウィルにあの白猫のことを言い忘れたな。怪しい奴がいるんだよって。

 ——狐が逃げ切って報告を上げてきた。

 ——無事だ。狐だぞ。

 ウィルは言っていた。どういう意味だ? この子も危なかったってことでは?

 狐は俺の食べ残しを片付けに行った。甲斐甲斐しい。

 ウィルは狐ってそのまま呼んでたけど、狐はまんまだよな。狐さん、てわけにいかないし。早く名前、聞かなきゃ。

 そのとき、ドタドタと玄関側から足音がして、バーンと激しく音を立てて扉が開いた。

「カイ、起きたか、大丈夫か」

 ウィルだ。その後ろには例のやたらと渋い奴。狭い部屋を圧迫する大男二人。

「顔色が良くなったな!」

 ウィルが駆け寄ってきて、ベッドの上に座ったままの俺を引き寄せるように抱きしめてスリスリしてくる。

「やめろ、ウィル」

 今の俺には全く力がなくてウィルを引き剥がせない。

 ウィルの肩越しに狐と目が合った。フッと笑われる。年頃の女子にこんな場面を見られる気恥ずかしさといったらない。

 一方のウィルの側近みたいな護衛は相変わらず俺を睨んでくるし。怖いし。

「離せってば。やめろ。落ち着け」
「俺を心配させたお前が悪い」

 スリスリが止まらない。なんかこいつ、キャラ変わってないか!?






 しばらくの間、俺は療養する、ということになった。

 俺がベッドから出て活動し始めたその日に初めて会ったマルチーズ。

 彼女こそがこの家を整えてくれていた張本人だと知ったのは、看護師で『狐』のアンバーが俺とマルチーズの間に入って通訳してくれたおかげである。

 マルチーズは大変気のつくマルチーズで、家の中はいつも綺麗。同じような顔をしたマルチーズの赤ん坊をいつも背中におぶっている。

 マルチーズ親子は近くの村に住んでいるらしい。

 マルチーズの奥さんは、ともすれば相手に噛みつきそうな危ない雰囲気をまとうウィルとは対照的な、丸っこい愛嬌のある顔をした品のあるご婦人である。嫌な顔ひとつせず毎日やってくる。

 ……見返りがあるんだろうか?

 俺はこの奥さんから挨拶程度の会話を教わることに成功した。アンバーを介すことなくである。

 そのうちに、マルチーズの奥さんとよちよち歩きの赤ん坊とともに森を散歩しながら片言で話すのが、言語特訓の大事な日課となった。

 ちなみに散歩のときは俺と奥さんの周りをあからさまに五人ほどの護衛がウロウロしている。

 アンバーは二日に一度ほどの頻度でやって来る。

「先生から」

 アンバーからは会う度に本を渡された。
 俺にこの世界について勉強しろということらしい。
 英語の本だった。日本語の辞書も付けてくれ……。
 
 ウィルは三日に一度来る。その時は目つきの怖い、渋い護衛も連れて。

 会うときは、まずハグ。

 この世界の作法はわからないが、日常的にハグはしないようだ。俺に抱きつくウィルを見て、マルチーズ親子もアンバーもちょっと引いてる……。

 毎日が穏やかだった。森の中にいて、雨風も大してなくて平和そのもの。

 ある日、マルチーズの奥さんがだいぶ大きな子供を連れてきた。

 奥さんには子供が八人いるらしい。

 ニンゲンだったら小学校高学年くらいだろうか。長男だそうだ。おとなしい子供だった。

 少し肌寒い雨の日にはチェスやカードゲームをしたがってわざわざやってくるようになった。
 二人で時間をやり過ごした。
 ルールは身振り手振りで、何となくコミュニケーションが取れていた。

 暇、というか。退屈、というか。

 静かな時間が流れていた。

 この森に来てからあっという間に二十日経った。

 花は咲き乱れ、葉が微風にざわめく爽やかな陽気。

 傘のような大木の下に、時々卵のかけらが散らばっている。親鳥は生きながらえた雛鳥に訓練を施し、蝶は絡み合って飛んでいる。

「おまえはいい時期に来たな」

 ウィルの隣でよちよち歩きのマルチーズ顔の赤ん坊と手を繋ぎながら、木に登るマルチーズの子供たちを見つめている。

 日々安穏としてる。俺はまんまと老人化してきた。

「この世界は俺の世界とそんなに変わらないんだな」
「ここにはお前たちの世界のモノや価値観、ルールが活かされている」
「平和だな」
「ここはな」
「そろそろ、行く?」
「そうだな」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。 

異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!

鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。 この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。 界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。 そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。  2026/01/09 加筆修正終了

処理中です...