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008-⑤ 結婚!?
しおりを挟む俺はあのあと直ぐにウィルをこの家から追い出したので、ティタジェイルに行って何をするかとか詳細は聞いていないが、とにかく引っ越しである。
元の世界から持ってきた数少ない俺の私物だった、スマホもメガネも財布も全部、風車の塔に置いてきてしまった。だから俺のものはここには何にもないはずなんだが、何をそんなに詰め込んでいるのだろうか。忙しなく動くマルチーズの奥さん。
「あなたはもうここには戻らないから、あなたが使っているものをすべて持っていく」
俺の隣に立って一緒に作業を見ていたアンバーが、俺の気持ちを見透かしてきた。
「そっか」
俺の荷物とは、どうやら、服と先生から借りている勉強道具。
これも……、それなりに溜まってたんだな。
奥さんが仕分けてくれたトランクを、次から次へと外に運んでいく見慣れた護衛の面々。今は顔が見分けられる。
その華麗な連携プレーを、マルチーズの赤ん坊を抱いて黙って見てる俺。引越しの邪魔をしないように部屋の端にいる。
引越しは思い出をトランクに詰めて。
思い出?
このお菓子の家での良い思い出が昨日のアレで台無しになった。
「ウィル」
俺はアンバーとは逆側にシレッと突っ立ってるウィルを見上げる。
「昨日のことを謝れ」
「謝るようなことは何もしてない」
ウィルは腕を組んで、ニヤついた顔で俺を見下ろしてる。
むかあっ!
こいつ! 年下のくせに貫禄があって生意気なんだよ!
俺も護衛と同じケープを着るよう言われて、マルチーズの奥さんに渡されたから、今はそれを羽織っている。
護衛……、近衛隊の犬人間は、元を辿れば王家に繋がる由緒正しき血筋の良家のご子息。それぞれが偉そうなのも頷けるが全員、とにかくウィルのように体が大きい。
だから、ケープの裾は俺には長過ぎる。近衛隊のようにカッコよく決まらないわけだ。これは、ウィルが俺を見て笑っている理由のひとつ。
誰なんだろうか、この犬を躾けたの。笑いのツボが俺の元の世界の人間と変わらないんだけど。失礼なんだけど。
ウィルは睨んでる俺を無視して先に家を出、家の前に止めてある馬車に寄って、例のコワモテの護衛と話し始める。
荷物が全て馬車に積み込まれたようだ。確認したウィルが俺に振り返って言った。
「行くぞ。カイ、お前は馬車に乗るか?」
「いや。お前と一緒にエーファに乗りたい。馬に慣れたいんだ。そんなに遠くないんだろ」
昨日の一件でウィルから逃げてると思われるのも癪なのでそうしたい。
「フ」
笑われた。ウィルには俺の感情を読まれている。
ちっ。今に見てろ。俺の方が優位に立ってやる。
俺はマルチーズの赤ん坊と今生の別れのように抱き合う。
「キャン、キャン」
赤ん坊の声はこれなんだ。かわいいなぁ。俺の中でこいつはひっそり、マルちゃんと言われている……。
赤ん坊は何もわかってなさそう。
俺、お前としばらく会えないんだよ。寂しいな。
「カイ。ステラをこっちに」
「うん」
俺は赤ん坊をアンバーに渡した。ウィルと違って投げたりしないぞ。
それから俺はエーファに乗った。ウィルの手でいつものように持ち上げられてだ。
エーファが首を動かすだけで馬上の俺はウヒャとなる。一人で暴れ馬を動かすのなんて、まだ当面は無理。直ぐにウィルも乗ってくる。
「大丈夫か」
「大丈夫」
こんな危険な犬なのに、後ろから包み込まれれば、俺は途端に安心してしまうんだ。
隊列が動き出す。森の中をゆっくりと進み始める。俺は振り返って三人に手を振った。
「今日のうちに王に謁見する」
走り出したエーファの上でウィルが言った。
「俺が王様に会う必要性、ある?」
何てったって、俺は望まれていた人材ではございません……。
「ヴァンダラーには早い段階で王への拝謁が求められる。お前は王を待たせ過ぎた。とにかく会え。お前が傲慢でなく欲深くもなく悪者でもない証明をしろ」
「そんな証明はできない」
「誠実であればいい」
「ウィルの友達ってことを主張するくらいしか、今の俺にできることなんてないんだけど」
「友達……。お前はヤケにそこに拘るな? とにかく庇護を仰げ。今のお前には何もない。父は話のわかる男だ」
「王様が父親ってどんな気分?」
「何とも。普通だ」
普通と言う方が怪しいぞ。複雑そうだな? って勘繰っちゃうぞ。
馬の蹄の音がまるで地鳴りのように響き続けている。森を抜ける頃には隊列が縦横に広がっていた。
合流したらしい。これは一体なんの騒ぎなんだ。
城が見えてきた。
要塞のような厚い城壁の向こうに、重なり合った尖塔が見える。
塔が曇りがかった空に突き刺さっているように見える。
迫力のある、物々しい城塞だ。
「グランバーグに着いたら、俺はウィルと離れる?」
ああ、不安だ。
「離れない。謁見の後に枢機卿アーチビショップから正式に婚約が認められる。そうすれば、お前を俺の家に堂々と迎えられる。それから式の準備だ」
流れるようにウィルが言うから、俺は聞き逃すところだった……。
「待て」
「………」
「お前、今、誰に何を認められるって言ったんだ」
「承認される」
「はぐらかすな! 式って何だ!」
「………」
ウィルが返事をしなくなった。
「おい、ウィル……、俺はどこに向かってるんだ。嫌な予感しかしないんだが……?」
俺はウィルの沈黙に、大絶叫した。
「俺、無理だって言ったよな!? お前の相手は俺じゃないって言ったよな!?」
「お前の意思は聞いたが、お前の意思は関係ない」
「正気か、お前! 昨日の責任取ろうなんて考えるなよ!? 考え直せ!!」
「正気だ。俺の相手はどう考えてもお前なんだ。お前がどんなに嫌がっても結婚はする。これは決定事項だ、カイ。ハア。俺の相手はもう少し落ち着いた奴だと思ってたのに……」
そう言って、耳元で断続的に溜息を吐かれた。
俺は半身で振り返る。ウィルは俺から目を逸らしている。
「……何でお前は俺の前でいつもそんなに偉そうなんだ。……王子様なんて肩書きだけだろうが! 慎ましさとか品性がないんだ、お前には!」
「言いたいことはそれだけか。お前は本当に賑やかな奴だな」
ウィルの、俺を小馬鹿にしたような笑い方!
「もう諦めろ。お前の相手はこの俺だ。俺とお前は結婚する。以上」
「以上、……じゃないっ! 無理だから!」
エーファが速度に乗る。エーファは何を喜んでるんだ! ご機嫌じゃないか!
俺は何にも回避できてなかったんだが!?
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