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009-② 王子様!?
しおりを挟む長屋のような厩舎に着いた。
「カイ」
「何」
「急に大人しくなったな。どうした」
「考えてるんだ。お前と結婚しないで済む方法を」
「そうか。それがわかったら是非俺に聞かせてくれ」
ウィルが先にエーファから降りる。俺も今回は自力で降りた。どうにか、といった感じで。
厩舎に引き渡すときに、エーファと別れの挨拶をした。スリスリ。
「早く来い」
ウィルに腕を引っ張られる。
急ぎ足のウィルに手首を掴まれながら王宮入り。
細かい歴史画のように彫り上げられた、石でできた荘厳なアーチ天井の廊下を通り、広い内庭へ出る。
衛兵が巡回していた。近衛兵とは違って、衛兵は赤紫色のケープを着ていた。
衛兵と挨拶し合う。ウィルは片手を上げるだけだが、衛兵はウィルにだけ最敬礼。俺には目もくれない。
石畳の道は芝生の広場を割くように真っ直ぐに走っている。奥に行くにはこの広さの中庭をいくつか抜けるようだ。先が見えない。
広場を取り囲む建物は城壁と同じ黄土色の石板を組み合わせている。
整然と並ぶ同じ形の窓。
屋内に多くのケモノの気配を感じる。
これまでは時折感じる程度だったが、いよいよ誤魔化せなくなってきた。
噎せそうなほどの凄まじい匂いだ。獣臭い。これは果たして慣れるものなのか?
「ここはアルファが多い。お前には辛いだろう」
ウィルが言う。
「ウィルもアルファだろ」
「まあ、そうだな」
「ああ、お前は香水をつけて匂いを誤魔化してるんだったな?」
「何度も言わせるな。香水はつけてない」
「体臭じゃないだろ。そんなバニラみたいな甘い匂い。色気づいて」
「バニラ? お前こそ……」
「俺から匂いなんか出てない。お前だけだよ、そんなこと言ってくるの」
もう俺たちに護衛はついてない。
衛兵や通りすがるサベラに見られていることを察したのか、ウィルは俺から手を離した。そして静かに言った。
「お前は……、不思議な奴だな」
「お前に言われたくない」
「お前の世界にはサベラがいないらしいな」
「サベラが俺の元いた世界に来たら大変なことになるよ。俺が知らないだけかもしれないけど」
絵本の世界が現実に?
一般常識的には有り得ないと思う。見せ物になる前に研究対象、国家機密になるだろう。
絵本の世界が極秘事項。
「あの家でお前からこの国の話を聞いたときに、俺はこの世界と俺の世界は全然違う、と改めて思った」
この国が最近まで関わっていた戦争について、ウィルは俺に淡々と話した。あの愛らしいお菓子の家で。
俺が怯えないように気を遣いながら。
「お前たちはこの世界にお前たちの世界のルールを持ってきた。習慣も含めて、野蛮だと感じることがあるならお前たちの世界もそうなんだろう。お前の世界とこの世界は繋がっている」
「どこで。それがわかれば俺は帰れるのに」
「そうだな。可能なら、俺はお前のいた世界が見てみたい」
「俺も見て欲しいよ」
「そうか」
こうして落ち着いて話せることもある。
ウィルは悪い奴じゃない。
ウィルと話してると、ついムキになってしまうんだ、俺。
ウィルが変なことを言うのは、オメガだと言われている俺がここにいるからだし、巡り巡って俺のせいってことか? え? 俺のせい?
「元の世界に帰りたいか?」
「当然だろ。帰りたいよ」
「そうか。ああ、言い忘れていたが、オズは近いうちにこの国を出る。番が見つかったんだ」
「お前はそれでいいのか!?」
途中の建物下の廊下で、俺は間違えて声を荒げてしまった。広い天井に反響して俺の声が谺する。
「……この間から、お前のそれは何なんだ」
「それ?」
次の中庭へ。この道はどこまで続いてるんだろう。俺たちは歩き続ける。
「俺はオズとは番えない」
「お前とオズの気持ちはどうなんだ」
「俺はお前と結婚する」
「それしか言えないのか、お前は」
「これ以上何を言えばいいんだ」
融通のきかない奴だな……。
「だから、結婚てのはな。何で俺が説明するんだ。……お前が自分でこの世界には俺の世界のルールや価値観が根づいてるって言ったんだろ」
「全てではない」
「そこが噛み合わないんだよ。結婚ていうのは……、なんていうか……、勢いとかで明日する、ってもんじゃないんだよ」
「何が言いたいんだ。顔が赤いぞ。大丈夫か」
「俺はお前に真っ当なツッコミをしてるつもりだが!?」
恥を忍んでだ。はっきり言葉にしないとわからないのか、こいつは。
「ツッコミ? 俺のわからない言語で話すな」
「ツッコミはツッコミだ……。こんなものをいちいち説明しなきゃいけない、俺とお前に結婚は、無理だ……」
「お前はその体で俺なしにこれからどうやって生きていくつもりだ」
「俺は俺のままだ。男オメガとかなんだそれ。俺は何も変わってない。俺はお前の手は借りない。一人でなんとかやっていく。王様に話す。お前と結婚なんかできない!」
「できるできないの問題じゃない。するんだ」
「嫌だ」
「嫌でもするんだ」
「結婚て言葉で誤魔化してるけど……」
言い難い。なんて口にしにくいんだ。
「お前、俺に欲情するのか?」
昼間から話すような内容ではないのだが。
ウィルは黙って歩き続ける。
「結婚したらお前は俺以外のオメガと……、できない?」
「……お前は何の心配をしてるんだ」
「お前が俺に飽きたら、俺はどうすればいいわけ」
「結婚する前から考えることじゃないだろ」
「結婚は……、人生の一大事だ」
ウィルにとっての結婚と俺の考えているものとは違う気がしてならない。
「お前とは身分が違うように思う。だから俺は一人で生きる道を探したいんだ」
「お前に俺以外の男の子供を産ませるわけにはいかない」
「!?ほら! 目的ってそれだよな!?」
人の多い中庭に出る。周囲から注目を浴び始めた。
それでウィルは俺の腕を掴んで横道へ逸れる。
「結婚はする」
「しない」
「する」
「お前と俺が、結婚。ないってば! ないって話だっただろ! 俺も子供は産まないし、産めないし。その話はもう終わってたのに! 俺を元の世界に返せば終わりだろ」
ウィルに引き摺られるように入った部屋は、椅子がたくさん並んでおり、正面に祭壇のある礼拝堂のような、八角形の部屋だった。
俺はウィルと室内に二人きりにはなりたくないと思っているが、どうしようもない。俺の肩を掴むウィルの力が強い。
「お前は戻れない。諦めろ」
「戻る」
「どうやって」
「来たんだから帰れるだろ」
「お前と話していると疲れる」
「俺もだよ!」
「とにかく今すぐ俺と結婚しろ!!お前が生き残るにはこれしかないんだ!」
「お前と結婚なんかできるか!!!」
「お前に拒否権はない」
俺は、呆れた。
口調は大人びているが、中身は確かに十八。年下。
「だってお前にはオズがいるだろうが!」
言ってはいけないことを言ってしまったと、俺は今更になって自分の口を手で塞いだ。
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