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009-③ 王子様!?
しおりを挟む「だってお前……、オズのことが好きだろ」
自分で言っておいて、俺は胸が抉られるような思いがした。
「俺が何も知らないからって!! 要らなくなったらオズを他の奴に差し出すのか! 迎えが来てるって……、本当なのか……」
これはアンバーに聞いたんだ。オメガの動向は秘密にされてるわけじゃないとアンバーが言っていた。
俺はオズの『輿入れ』を予め聞いていた。
「誰に何を聞いたのか知らないが、……お前は一体何の心配をしてるんだ。お前はお前自身の身の安全を考えろ。現時点でフェミニジールングの気配がないお前は確実に男オメガだ。男オメガは女オメガの比にならない。どこにいても狙われるぞ。寝所も同じにすれば夜もお前と一緒にいられる。アルファの匂いが今ここでも厳しそうだな。俺の匂いは大丈夫なんだろう」
ウィルだけは大丈夫だ。香水のせいだと思うのだが。
「今のお前はオズよりも危険な立場にある。お前は狙われ続ける。俺の番になれば守ってやれる」
「守るとか……、何言ってんだよ。俺にそんな価値ないよ」
価値がない。俺は不意に、風車の塔でウィルを仰ぎ見たときのオズの、何とも言えない表情を思い出した。
「お前も聞いただろう。お前たちには発情期がある。お前は男オメガだ。発情期は女オメガより辛いし、何が起こるかわからない。それに、俺は俺以外のアルファにお前を触らせるわけにいかないんだ」
「何で」
「俺の番は次に俺の前に現れた男オメガだと決まっているからだ。俺の番はカイ、お前だ。この俺がお前でいいって言ってるんだ。素直に喜べ」
これは、何だ?
もしかしなくてもプロポーズなのか。世界一偉そうなプロポーズ!
「………俺に発情期なんて来ない」
「来る」
正面から真剣に抱きしめられて、俺は動けなくなった。
「発情は辛いぞ。その前に俺のものになっておけ。そうすればお前自身が楽になる」
「来ない。俺は、……無理」
二人きりになるのは嫌なんだ。体が熱くなってくる。俺は耐えられず、ウィルを抱き返した。
俺たちの上から注がれる、ステンドグラスから差し込む光は柔らかい。
今の俺の目には、遠くのものもよく見える。ステンドグラスには、植物や鳥、幾何学模様が細かに描かれている。この無機質な建造物においてそこだけがカラフルだ。
礼拝堂の祭壇に立つ像はニンゲンの女性像。
何となく、オズに似ている。
「王子なんて辞めて、オズと番えばいいじゃないか……。まるで交渉材料に使われてるみたいだ……、オズが可哀想だ」
「運命の番と番えない方が不幸だ」
「オズの番はいい奴?」
「お前はオズのことまで心配しなくていい」
「俺だってオズと同じ立場だ。心配にならないわけが」
ウィルは俺を掬うように持ち上げる。
「俺は俺のアルファを生むことができるお前を手離さない。お前が抵抗するようならどんな手段を使ってもお前を俺のものにする。お前も俺の言ってる意味が直ぐにわかる」
ウィルが俺に頬を擦り寄せてくる。愛おしいものに触れるように。
俺に匂いをつけている。
「オメガの発情はアルファを巻き込むし、逆もある。俺はお前と出会った日から『発情阻害剤』を手放せない」
「え? 何? 薬を飲んでるのか?」
「正直言って、俺は……、初めて会ったときからお前を食いたくて堪らない。お前の匂いが俺の本能を刺激し続ける。そのうちに薬も役に立たなくなるだろう。話しただろう。お前たちの匂いはアルファを狂わせることもある」
「く、食うって」
俺をオズと近寄らせたくないのは、誰への嫉妬だったんだ?
「お前って俺が好きなの?」
「それはまだわからない」
わからないと断言されたら、俺は唖然とするしかないんだが?
「なんだよそれ。俺が大事だって言ってるのはそこなのにっ」
「好きという感情はよくわからないが」
ウィルが俺の股に太腿を入れ込んでくる。俺の体が更に浮いた。
昨日の再現!?
「無理だからな!?」
いくら周りに人がいないと言え!
「今はしない」
「これからもしないってば! もう二度とお前に触らせない!」
「説得力がない。今この状態で何を言ってるんだ。そんな目で俺を見てくるのに?」
「ど、どんな目……?」
「オメガは数が少ないから発情抑制剤の治験が殆どできず、開発が追いついてない。今、先生が頑張って他国にも働きかけているが」
ウィルは俺を担ぎ上げる。
「先生の考え方はこうだ。薬に頼るな」
ウィルは元の道に戻るつもりだ。昼休憩のようで、中庭に人が増えてきたのに!
抱っこされたまま!?
「見られてるから!」
「お前が来るからと、この棟の人間は今日、男も女も全員『発情阻害剤』を飲んでいる。お前を視界に入れないように全員必死だ。何故ならお前はこの俺のヨメだからな」
ははっと笑う。それから、ぎゅうううと潰されそうになるくらいの力で抱きしめられた。
「お、下ろせ」
「お前を守るのは俺でありたい」
「俺にそれを言うなよ!」
「お前に言わないで誰に言うんだ」
ウィルは俺に囁くように言う。
誰に聞かれようが見られようが構わない。そう言われている気がした。
中庭を抜ける。
そして、ようやく行き止まりだ。ウィルの肩越しに見た玄関扉はとんでもなく大きく、縦横に広かった。踊り場にタペストリーが飾られた階段が豪奢だ。
黄土色の無機質な外から入ってきたから、内部の彩色がより際立つ。
「上の鏡の間で全員揃っての食事会だ」
「鏡の間」
どこかで聞いたことがあるな?
俺はようやくウィルの腕から降ろされた。
「怖気づくなよ」
「何に」
ウィルへのツッコミは一時中断だ。
顔を見合わせから、歩調を合わせて階段を上がった——。
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