異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?

わをん

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011-② 敵襲!

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「カイ? どうした急に。黙るなよ」
「……うん。なんかお前の言うことももっともだなと……」
「素直だな?」

 そのとき、エレベーターがガコンと激しく揺れた。不意打ちに飛び跳ねた俺はウィルによって支えられる。

 着いた。扉が開くときは、ゴゴゴと岩戸が開くような音がした。

 ウィルは俺の肩を抱いたまま外に出る。

「怖かったか?」
「いいや」
「怖かったんだろ?」
「………」

 素直にいい奴って思わせてくれないの、なんでなの。

 内廊下はカーペット敷きで壁紙は花柄。ちょっといい価格帯のホテルみたいな内装である。

「お前の部屋は正面奥だ」
「あ、うん。ありがとう」

 俺はウィルに借りが増えていくばかり……。もう返しきれないと思うんだ、この恩。

「俺の部屋は右側、ジークや世話係は左の並びだ」
「……世話係」
「お前をその服に着替えさせた二人だ」
「は!? 俺に女の子をつけるとかお前、何考えてんの!?」
「女じゃないが?」
「!?」
「成人前の猫は細いからな」
「……覚えとく」

 ウィルは一緒に俺の部屋に入ってきた。

「何でお前まで入ってくるんだ……」
「ここには今日、俺とお前しか入れない。猫には猫だ。さっきの二人が結界を張っている。だが、猫の結界は俺には効かない」
「け」

 結界。唐突に魔法学園が始まったな?

 魔法か。努力でどうにかなるもんじゃないだろうな。

 俺にも使えたらいいのに。ここに来てからの俺の変化と言えば、目が良くなったことくらいである。

 進化はしてないな。

 俺は壁に掛けられた絵を見やる。

 大きい絵だ。既視感がある。風車の塔にあった絵とよく似ている。
 
 細かな筆致で、ベネチアのような人工的な島の間を通る運河の風景が描かれている。運河の岸辺は活気に満ちており、様々な服装を身につけた人々の往来がある。運河には船が何艘も何隻も浮かんでいる。

「………」

 ニンゲンだけ。サベラはいない。

 それは、俺の世界。

 画家は、どんな思いでこの絵を描いたのだろうか。

 帰れない、故郷。

 過去のない、何も持たない俺が、この世界で誰かの役に立てることがあるだろうか。

 絵の前で呆けてる俺よりも随分念入りに部屋をチェックするウィルを見ながら、麻薬探知犬みたいだなと思う。このときの俺の頭の中は覗かれなかった。

「ウィル」

 俺はウィルの背中に向かって言った。

「疲れたから、もう休みたいんだけど」

 クローゼットの中をあらため中だったウィルが振り返った。

「……そうか」

 クローゼットの扉を閉めて、ウィルが俺に近づいてくる。

「食事は?」
「要らない。早く寝たい」
「わかった。なら、俺はここから出る。何かあったらあれを使え」

 ウィルが顎で指す。俺は一瞬きょとんとしてしまった。

「それって、……電話機?」
「ああ」

 近寄ってみれば、懐かしの黒電話だ。ダイヤルの部分に金色の細かな文様が施してあるところに高級感がある。

「使い方は簡単なんだ。これを回して……」

 ウィルに教わりながら、アナログって最強だなと思った。

「あと、これを。先生から手紙が来たらしい。お前宛てに」

 ウィルが上着の内ポケットから封書を取り出した。

 そうだよな。インターネットのメールじゃない。

 俺は封書を受け取って、その場で開ける。

「……読めない」

 知ってた。先生は壊滅的に字が下手。何も読み解けない。この筆記体のようなものは英語のつもりか?

「そうか。お前にもか」
「うん」
「お前の世界の人間には読めると聞いていたんだが、……騙された」

 ウィルの溜息を聞いて、俺は吹き出してしまった。先生とウィルは旧知の仲らしい。どんな会話をするんだろう。

 俺は便箋を畳み直して、封筒にしまう。読みたいが、読めないのだから仕方がない。

「先生に電話できるぞ。今すぐにでも」

 そうウィルに言われたとき、俺はこの世界に知り合いが増えていることに気づいた。

 俺はスマホを失ってからデジタルデトックス状態で、連絡が取りたい相手なんてこの世にはいないと思っていた。

 いたな。いた。

 ウィルが唐突に俺の頭を撫でてきた。

「お前の髪は俺と同じだな。黒い」
「お前ほど黒くないよ」
「真っ直ぐだ」
 
 ウィルはその毛むくじゃな手で俺の髪を掬う。手だけモサモサしてるけど、ウィルも全体的には直毛だ。

 この異世界に来てから、俺は髪を一度も切ってない。

 直毛の無造作ヘア。ここに母さんがいたら、鬱陶しいから切れとうるさかったはず。

 俺の髪に触れながら、ウィルは俺の目を真っ直ぐ見てくるのだった。

 こういう、こそばゆい時間はやめて欲しい。

「ウィ……」

 ウィルの手が俺の首筋に降りてきたので、そこはグワッと両手で押さえた。

「む」
「む、じゃない。変な触り方をするな。早くここから出ろ。俺は寝る」
「一緒に」
「ない」

 俺はウィルの背中を押して、部屋から追い出した。恥ずかしいからもう、ウィルの顔は見ない。

 バタンと扉を閉め、鍵をかけ、俺はようやく一人になった。

 不用心だった! ウィルは俺の体を欲しがる変態だ。あいつと部屋に二人きりとか引き続き要警戒だ。明日からは鍵を閉めて、緊急事態以外は立入禁止にしよう……。

 その後、俺も部屋を探索した。


 リビング。ダイニング。寝室。浴槽付きの浴室やミニキッチンまである。調度品は磨かれてピカピカ。誇りのひとつも無い。完全にホテルのスィートルームだ。

 荷物は先に運び入れて片付けておいてくれたらしい。オズから言われた「お姫様」というワードを思い出して、ハッとした。

 窓の外は雷雨。

 ベッドに横たわって、腹の上で手を組んだ。
 
 鳥人間が空を飛ぶ想像をしているうちに。

 俺は、寝た。


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