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013-④ 指輪!
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「思った以上に……、好かれておりますな……」
「いえ、ああなってしまったのはつい最近で……?」
待てよ。出会ってから数日後にはスリスリが始まっていた気がする。俺が変な奴らに捕まって、助けに来てくれたときから既にあれ。
「殿下には放浪癖がありまして」
そう言って、意味ありげに遠くを見、椅子から立ち上がる先生。
メガネのブリッジをクイッと右手の中指で押し上げる先生を見上げる俺は完全に気圧される。
先生はウィルの二倍はある体躯を揺すらせながら、帰り支度を始めた。
「殿下が一週間もグランバーグに止まるなど、ここ数年は有り得ないことです」
「……ウィルは自由ですね」
「はい。だいぶ自由を謳歌されておりました。私にとってこれまでで最も印象深い生徒です」
「生徒、ですか」
ウィルは完全に先生を無視してたけど。
「殿下が四歳から九歳までの間に、言語、歴史、倫理を教えていました。算術は別の教師でしたが、十歳までにアカデミーで学ぶ分を終えてしまいました。非常に優秀でした」
「………」
ウィルはチート持ちの天才肌……!
「飽きっぽい性格でデスクワークは苦手ですが、今はカイ殿のために書類仕事も進んでやっておられますよ」
それはウィルにとって、いい話なのだろうか。俺がいることでウィルの行動は制限されているということじゃないのか?
「これまでの殿下のことを思えば。誰かのために生きること、愛おしいと思える特別な人ができたことは喜ばしいことです」
「それは俺じゃなかったはずなんです」
「どうしてそう思われます」
「………」
ウィルにはずっとオズがいたんだよ、などと言えるはずはなくて。
「俺は男です」
「男であってもオメガであれば子が産めます。オメガは特別な存在です」
言い切られた。この世界では確実に、俺の方がレアな動物みたいに扱われてる。
俺はまだ納得してない。
俺の体は変わって……、ない。たぶん。
「カイ殿はこの世界について、それからこの国についてより深く理解する必要があります。少しずつあなたに開示される事実をあなたが心静かに受け入れてくれることを私は願っています」
グリズリー先生が他の教授陣より格上に見えるのは歳のせいだけじゃない、と思った。
俺のレベル上げを自らの使命にしている。
「……私をここに閉じ込めておく理由は都合の悪いものを見せないためですよね」
「今はまだ、あなたに全ての真実を伝える必要はない、と殿下が判断されたことについて私が言えることは何もありません。明日は楽しんできてください」
「………」
そして、グリズリー先生は帰っていった。
それにしても、グランバーグのサベラの先生って、ミシェル先生と全然テンションが違うな……。
——一人寝の静かな夜に不満はなかった。
それなのに、目が覚めたときに体が重くて起き上がるのが怠かった。
何かが欠落しているような不安感を抱いて、それで本当に毎晩、ウィルが俺の部屋に来ていたんだとわかった。
広い部屋。高い天井。装飾は豪華。
ここは俺がいるべきところなのかという極めて当然な自問をして、心が押し潰されそうになった——。
ウィルは俺を見透かしたようにだいぶ早めに俺を迎えに来た。
「なんだ、その顔は? 眠れなかったのか?」
「そうだな、あんまり」
「大丈夫か? 無理そうなら」
「大丈夫だ!!」
「? そうか?」
俺はもう支度していたから、直ぐに二人で奥の塔を出た。
エレベーターは相変わらず喧しかった。
地上に到着。
警備しかいない、静寂に包まれた朝の王宮。
鳥の鳴き声が響いている。
深緑色の鳥はトーレ。ウィルには鳥の言葉がわかるんだったな。
「何て言ってるんだ」
「知らん。俺の知らないことを内輪で話している」
「へえ、そういうこともあるんだ」
何を話しているんだろう。
トーレは国鳥だそうだ。だから、よく意匠のモチーフになっている
中庭を通って厩舎に向かう。
「エーファに乗って行く」
「久しぶりだ」
「好きだもんな、お前」
「うん……」
「今日のお前は変だな。覇気がない。寝不足で元気がない?」
「変じゃない! 大丈夫だ!!」
「? そうか?」
サベラだけでなくニンゲンもたくさん屯している厩舎に着いた。
奥の方にいるというエーファの元へ。ウィルは毎日会っているらしいけど、俺は一週間ぶりだ。
「久しぶり」
係の猫人間が予め厩舎の外に出してくれたエーファは他の馬より一回り大きい。
長い睫毛の瞳にギョロッとされた。これだ、これ。真っ直ぐ俺を見てくれるこの目。
エーファの体に抱きつく。ブヒヒンと言われた。覚えてくれていた。嬉しい。
ウィルが手綱を持っているエーファに乗った。今回は一人で楽々乗れたぞ!
現金なことに、エーファに乗れたことで俺は急激に元気になった。
「いえ、ああなってしまったのはつい最近で……?」
待てよ。出会ってから数日後にはスリスリが始まっていた気がする。俺が変な奴らに捕まって、助けに来てくれたときから既にあれ。
「殿下には放浪癖がありまして」
そう言って、意味ありげに遠くを見、椅子から立ち上がる先生。
メガネのブリッジをクイッと右手の中指で押し上げる先生を見上げる俺は完全に気圧される。
先生はウィルの二倍はある体躯を揺すらせながら、帰り支度を始めた。
「殿下が一週間もグランバーグに止まるなど、ここ数年は有り得ないことです」
「……ウィルは自由ですね」
「はい。だいぶ自由を謳歌されておりました。私にとってこれまでで最も印象深い生徒です」
「生徒、ですか」
ウィルは完全に先生を無視してたけど。
「殿下が四歳から九歳までの間に、言語、歴史、倫理を教えていました。算術は別の教師でしたが、十歳までにアカデミーで学ぶ分を終えてしまいました。非常に優秀でした」
「………」
ウィルはチート持ちの天才肌……!
「飽きっぽい性格でデスクワークは苦手ですが、今はカイ殿のために書類仕事も進んでやっておられますよ」
それはウィルにとって、いい話なのだろうか。俺がいることでウィルの行動は制限されているということじゃないのか?
「これまでの殿下のことを思えば。誰かのために生きること、愛おしいと思える特別な人ができたことは喜ばしいことです」
「それは俺じゃなかったはずなんです」
「どうしてそう思われます」
「………」
ウィルにはずっとオズがいたんだよ、などと言えるはずはなくて。
「俺は男です」
「男であってもオメガであれば子が産めます。オメガは特別な存在です」
言い切られた。この世界では確実に、俺の方がレアな動物みたいに扱われてる。
俺はまだ納得してない。
俺の体は変わって……、ない。たぶん。
「カイ殿はこの世界について、それからこの国についてより深く理解する必要があります。少しずつあなたに開示される事実をあなたが心静かに受け入れてくれることを私は願っています」
グリズリー先生が他の教授陣より格上に見えるのは歳のせいだけじゃない、と思った。
俺のレベル上げを自らの使命にしている。
「……私をここに閉じ込めておく理由は都合の悪いものを見せないためですよね」
「今はまだ、あなたに全ての真実を伝える必要はない、と殿下が判断されたことについて私が言えることは何もありません。明日は楽しんできてください」
「………」
そして、グリズリー先生は帰っていった。
それにしても、グランバーグのサベラの先生って、ミシェル先生と全然テンションが違うな……。
——一人寝の静かな夜に不満はなかった。
それなのに、目が覚めたときに体が重くて起き上がるのが怠かった。
何かが欠落しているような不安感を抱いて、それで本当に毎晩、ウィルが俺の部屋に来ていたんだとわかった。
広い部屋。高い天井。装飾は豪華。
ここは俺がいるべきところなのかという極めて当然な自問をして、心が押し潰されそうになった——。
ウィルは俺を見透かしたようにだいぶ早めに俺を迎えに来た。
「なんだ、その顔は? 眠れなかったのか?」
「そうだな、あんまり」
「大丈夫か? 無理そうなら」
「大丈夫だ!!」
「? そうか?」
俺はもう支度していたから、直ぐに二人で奥の塔を出た。
エレベーターは相変わらず喧しかった。
地上に到着。
警備しかいない、静寂に包まれた朝の王宮。
鳥の鳴き声が響いている。
深緑色の鳥はトーレ。ウィルには鳥の言葉がわかるんだったな。
「何て言ってるんだ」
「知らん。俺の知らないことを内輪で話している」
「へえ、そういうこともあるんだ」
何を話しているんだろう。
トーレは国鳥だそうだ。だから、よく意匠のモチーフになっている
中庭を通って厩舎に向かう。
「エーファに乗って行く」
「久しぶりだ」
「好きだもんな、お前」
「うん……」
「今日のお前は変だな。覇気がない。寝不足で元気がない?」
「変じゃない! 大丈夫だ!!」
「? そうか?」
サベラだけでなくニンゲンもたくさん屯している厩舎に着いた。
奥の方にいるというエーファの元へ。ウィルは毎日会っているらしいけど、俺は一週間ぶりだ。
「久しぶり」
係の猫人間が予め厩舎の外に出してくれたエーファは他の馬より一回り大きい。
長い睫毛の瞳にギョロッとされた。これだ、これ。真っ直ぐ俺を見てくれるこの目。
エーファの体に抱きつく。ブヒヒンと言われた。覚えてくれていた。嬉しい。
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