55 / 95
014-③ 誓い!
しおりを挟むまだ、大丈夫だ。ここまでは許せる範囲……。相手は犬。犬……。
自分にいくら言い聞かせても、予期していなかった現状に動揺が止まらない。
元々スリスリもしつこい奴ではあったが、これもスリスリ以上にしつこい。
これがキスだと解釈して。
俺、初めてなんだけど!?
ペロペロされ続けたあと、首元を甘噛みされた。放心状態の俺からウィルがゆっくりと離れていった。
「………」
視線がかち合う。
捻り出せ、言葉を! 俺! しっかりしろ!
甘い雰囲気に呑み込まれるな!
「な、何でもっと強く噛まないんだよ」
「前に騒がれたからな?」
「オズから……、お前の匂いが弱いって言われたんだけど」
「俺に噛まれたいのか?」
「いや……」
そうだ、ウィルはオズの首も噛んでいた……。
ウィルがこうして肌を触れ合わせるのは俺だけじゃない……。
どこかで別の誰かにも……。
「だから、こうして定期的に上塗りしてるだろ。足りないのか?」
俺の腕を拘束し、ウィルがスリスリしてくる。
「もう、よせ」
「嫌か?」
ウィルの胸を押したら、逆に引き寄せられてしまった。
スリスリついでに、背中をさすられる。
その手が。俺の寝巻きの中にスルリと入ってきた。
それで俺の体がビクついたのに、ウィルは気づいたはずだ。
「お前……、何、してんの……」
「………」
俺は上半身の寝巻きの下に何も着てない。
息を荒くしたウィルの手の動きは次第に大胆になっていく。
その大きな手が胸の方に回ってきたときはさすがに引き剥がそうとした。
「……やめろ、つ、つまむな、おい、ちょっと」
俺はウィルの手首を掴むが、上手く力が入らない。
いつもよりウィルの圧も強い。
「ど、どこまでするつもりなんだ」
「お前が俺のものだということを確かめたい……」
「俺にこんなことしてくるバカはお前以外いない。確かめるとかそんな……」
「こんなにいい匂いをさせて? 誰もお前に擦り寄らないのか?」
「当たり前だ」
俺は元の世界でもモテなかった。不運が影響して、何事も平均以下で目立たない陰キャだったからな……。
実際にこの世界でも俺は不人気。異世界から来た得体の知れない俺に接触してくるサベラは限られている。
「お前の首巻やら着物やらを借りてるから警戒されてるんじゃないのか?」
「いい虫除けになったな」
「俺自身がお前の匂いに安心するから身につけてただけだけど」
「ジークもだ」
「ジーク?」
「ジークがいるから誰もお前に近寄れないんだ」
「え?」
あ、そういうこともあるのか。ジークはアルファだったな。
「最近、ジークを連れて頻繁に下を徘徊してると聞いた。お前、その匂いを撒き散らして歩いてたのか……。自覚しろ。お前の価値を」
俺が襲われるかもしれないってウィルは言ってる?
ジークとグランバーグ内を散歩するようになって久しい。社会科見学のようにだ。おかげでグランバーグの構造にはかなり詳しくなった。
俺はこんな体質だから気軽に行くことはできないけど、たまにだ。
見学中に職員から真面目な話を聞いているとき、貞操の危険なんて一度も感じたことはない。
身体的な接触といえば、市場に出たときに子どもに服の袖を引っ張られたことがあるくらい。
むしろ、関わりのないサベラからは悲しくなるほどに避けられきたぞ……?
「ウィル、ここはグランバーグだろう?」
「部屋にいても警戒しろ」
「って、そんな……」
寝るときまで気を張ってろって言ってる!?
話が落ち着くとまたウィルの手が動き始める。
「……んっ、あっ、バカ、こら」
躾のなってない犬に好き勝手させるつもりはないのだが、寝巻きの中で蠢くウィルの手の動きは、ツボを押さえたマッサージのように気持ちがいい。
などと呑気なことを考えている場合か。そろそろ本気で止めなければ。
「ウィル、俺は今日も朝から講義があって、もう仕度をしないといけない。そろそろジークが来る。だから……、もう、やめろ……」
色んな意味で耐えられなくなってきた。
「午前は休め。誰にも邪魔させないから。ほら、お前も俺を好きに触ればいい」
「朝から何言って……」
ぐいっと袴の紐を引っ張られる。
「あっ……」
「いい声だな?」
「バカ、だから、それは、だめ……」
まずい。ウィルの鼻スイッチが効かない……。
ウィルの手が俺の体を隅々まで確かめようとする。何とか止めようとする俺だが脱力気味だ。
ウィルの匂いのせいで。
「くっ……」
袴を脱がしてこようとするウィルとの攻防も俺が押され気味。
このバカ犬、調子に乗って。
唇を舐められるときは反射的に口を閉じる。その長い舌で口をこじ開けられそうになるが、そこは必死に抵抗した。
俺は考えていた。
俺は初めて出会ったサベラがウィルだったから、獣人てのはやたらと圧があるんだなと思ったものの、ニンゲンとは別物なのだからとそういうものなのだろうと何となく受け入れていた。
今はわかる。風格だけでなく相手に与えるプレッシャーの強さでウィルと同等なのは王様とコンラートくらいだ。だから俺はジークがアルファ属性であっても、そこまでの圧を感じない。
グリズリー先生やヒグマ先生もかなり俺を圧倒してくるけれど、そういった物理的な大きさの問題ではない。
対峙した一瞬で全てを制圧されるような緊張感を相手に与える。
それを俺は偉そうだと思うんだ。
最近、そういうこともわかるようになってきた。加えて、サベラは匂いやフェロモンの変化で相手の感情の変化も読み解けるのだ。
ちなみに今、俺はまだウィルの膝の上に座っている。
ウィルが口を狙ってくるから口を開いて話せない。俺を押し倒そうとしてくるし、下着を脱がそうとしてくるのも止めねばならなくて忙しい。
ウィルの匂いが俺を惑わしてくるから、体から全部の力が抜けそうになって困る。いや待て、こんなことを勢いでしちゃ絶対ダメだと目を覚まして改めて抵抗する、の繰り返しだ。
これはもう詰んでいるのではと思うに至って。
腕を引っ張られながらウィルから顔を背けた。
「お前はモテるってアンバーから聞いてるぞ。俺じゃなくても相手はいるんだろ」
「当然だ」
「………」
自信過剰!
またペロペロして来そうになったから顎を押し返した。
「だから、もうそういうのはいい!! 俺はお前に抱きしめてもらえるだけでいいんだってば!!!」
自分で言って、恥ずかしさから穴に入りたくなった。
俺の言葉はウィルは喜ばせた模様。尻尾がフリフリしている。
「それを聞いて俺がやめられると思うのか? 今日は……、このまま……」
15
あなたにおすすめの小説
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
転生したら猫獣人になってました
おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。
でも…今は猫の赤ちゃんになってる。
この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。
それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。
それに、バース性なるものが存在するという。
第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。
篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。
2026/01/09 加筆修正終了
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!
鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。
この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。
界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。
そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる