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016-③ 標的!?
しおりを挟む次の瞬間、指輪が変形し始める。蔓草のようにその金属が伸びて人差し指までまとわりつく。
「!」
こうなるなんて聞いてない。細い金属線は蔦のように複雑に絡み合っていく。まるで生き物のようだ。
薬指の付け根の青い宝石はジーンが選んだものだ。俺が選んだのではない。宝石は欠けてはいないのに、その成分が伸びた金属線をキラキラと余分に煌めかせているようだった。
どうなってんの、これ。
間もなく指輪は動きを止めた。
何これ、怖いんだけど!
これだけ絡まっては一生外れそうにない。
俺が今日イチ動揺している横で、枢機卿の体がピクリと動いた。
「殿下」
ウィルがその茶色い目を細めて、俺から手を離した。
もう俺を見ていない。
あ。まただ。ウィルのこの顔。この感じ。朝と同じ。
ガタン、と音がした方を見ると、正装で存在感マシマシになってる王様が一人、椅子から立ち上がっていた。
「ウィルバード。どうやら時間切れだ」
「はい。そのようです」
「全てが終わったら……、改めて祝杯をあげよう」
「はい」
?
なんなの。その親子の会話?
また、『全てが終わったら』。
「コンラート。あとは頼んだよ」
王様が動き出せば衛兵も動く。端の席にいたコンラートが祭壇の直ぐ下に立つ。王様が祭壇を上がってきて、俺の前に来た。
「カイ。このようなことになってしまってすまない。ウィルを責めないでやって欲しい」
俺には意味がわからず、何も答えられなかった。俺はたぶん動揺もできないくらいに放心していた。
王様はそんな俺を見て、何かを察したかのようにウィルと似たような顔でニヤッとした。
「私から君へ試練を授けよう」
「え」
「我が息子を頼んだよ」
「え」
王様が後ろを振り返る。全員、王様に注目して、シーンとなってる。
「全員、速やかにここから離れなさい」
その通る声で聖堂内が一気に騒ついた。
「全ての民に神の祝福を」
王様が祭壇から降りた。王妃、王太子他親族席から順に立ち上がる。後方に行くのでなくて衛兵に守られた状態で翼廊へゾロゾロと流れていく。
他の招待客も席を立ち始める。
ウィルが俺の左手をギュッと掴んでくる。指輪の金属は俺の指に食い込んでいるように思うのに全然痛くない。
「ウィル、一体これは……」
「来るぞ」
「え。何が」
そのとき、楽団のラッパが一際高い音で鳴り響いた。
「俺から離れるなよ」
ウィルが俺を引き寄せてくる。唖然としている俺を見てウィルがしたことは。
俺の唇をペロッと舌で舐めること!
祭壇の中央で! みんなの前で!
「はぁ!?」
「頑張れよ」
「何を!?」
外でドッカーンと何かが爆発する音がした。震動で聖堂全体が揺れる。
「殿下」
ジークが祭壇に上がってきた。
「始まりました」
「ファデルは?」
「グランバーグに向かいました」
「そうか」
ファデルって誰だっけ?
式場は大混乱だ。阿鼻叫喚の中で衛兵によって招待客が誘導されていく。
何でこんなことになってるんだっけ?
今日は俺とウィルの結婚式で……。
二階のギャラリーから衛兵がバタバタ走っているのが見えた。黒ずくめの忍者のような影を追いかけている。
「あれは」
俺はあの黒ずくめの敵が何なのかを知っている。
「ネズミ」
「……そうだ。カイは初見だな?」
ティタジェイルの外で引き止められなかったということか?
バァーンとあらゆる扉を開けて入ってきたのは重装備のニンゲンとサベラの混合部隊。
それと同時に翼廊のステンドグラスをかち割って入ってきたのは鳥だ。ウィルに負けず劣らず真っ黒な鳥。
あれは紛うことなくカラス。人の形はしていない。
硬そうなガラスを破って入ってきた。戦闘能力が高そうなカラスに驚いてる場合じゃない。
黒いネズミが招待客の間を縫って脇目も振らずに祭壇めがけて走ってくる。
祭壇めがけて……。
「何か来るぞ、何なんだ、これは! 何が起きてるんだ!」
「この日を狙って攻勢をかけてきたんだ。標的は——、お前だ」
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